臆病ウサギのツルシアゲ
いやはや、今回でとうとう最終回ですね。長いようで短く――ありませんでしたね。クソ長かった。しかし、最終回です。ま、他にも作品を書いているので(『妹に撲殺されたから異世界攻略する』や、『失語症女』もありますよ)そちらもよろしくお願いします!
やはり、というべきか。
柵さんはそうして運ばれてきたパフェをものの五分で間食して、更にメニューのデザートを全て注文し、完食という化け物みたいな所業をこなし、ようやくお腹が一杯になったようだ。
「ふう、美味しかったな!」
「ええ、美味しかったですよ、コーヒー」
別に僕は一銭も支払っていないのだが、しかし目の前で倍速としか思えないスピードでデザートを平らげられれば、食欲も失せる。というか、コーヒーを残さなかった僕の礼儀正しさを全世界の人間から褒めて欲しい位だが、しかしそれは無理なので、こうして柵さんに当たっているという訳だ。いや、こんな言い方をすればまた僕が八つ当たりをしているように思われるので注釈しておこう。これは完全に正当な怒りだ、と。
「なんというか、もう少し遠慮をするとかいう発想は無いのですか?」
「遠慮? 何故だ、私はパフェをしっかり完食したのだぞ」
そう言って、何故か自慢げに胸を張る柵さん。ただでさえこうして帰っているだけでも目立つのだから、家に着くまでの五分位はこれ以上目立たないように配慮して頂きたい。このままではストレスで僕が新しい何かに目覚めそうだ。
「いえ、別に完食したこと自体は、僕も無料になったので良かったのです。しかし、だからといって限度があるでしょう。何でデザートを全部注文して、あまつさえ間食するのですか。そんな事をしていては、太りますよ?」
「はっはっは、大丈夫だ! こうして今も太っていないのだから。ほら」
「いや、見れば分かりますよ。……はあ、もう良いです」
「お、良いのか! では今から酒を飲みに行くか!」
「いや、僕はそもそも未成年ですし、つーかまだ食べるんですか!?」
「いや、流石にもうお腹一杯だ。でも、酒はまだイケる!」
「イケません。無理です。もう僕は貴女のその食べっぷりを見て、吐きそうです」
そんな事を柵さんと話しつつ、僕らはようやく家に着いた。ちなみにあの店を出てから家に着くまで大体十分程だが、それまでに僕が確認しただけで十回は写真を撮られた。まあ、そりゃあ外を歩いている時に和服の女性と高校生が歩いていたら、誰でも写真は撮るだろう。僕もそんな場面に遭遇したら、携帯電話で写真を撮る自信がある。
僕は今頃ネットに出回っている頃だろうと一人で憂鬱になりつつ、テレビの前でソファに座ってくつろいでいる柵さんに、コーヒーを渡した。
「飲みますか?」
「ああ、頂こう。……やっぱり家が一番だな」
コーヒーを一口啜り、バラエティ番組を見つつ柵さんは言う。しかし残念なことに、ここは柵さんの家ではない。と心の中で突っ込みつつ、僕は隣に腰掛け、自分の分のコーヒーを眺める。
「……やっぱり、間違っていたのでしょうか?」
コーヒーに映る自分の顔を眺めつつ、僕は柵さんに問い掛ける。すると柵さんは悩むように天井を仰ぎ、しかし間も無く答えた。
「間違っていたな」
「ははは、遠慮がありませんね」
「当たり前だろう。瓦礫と私の仲だ。嘘を吐いた所で意味は無い」
「仲、っていうか、家族ですけれどね」
そういったものの、何だか無性に恥ずかしくなってきた僕は、誤魔化すように伸びをした。
「あーあ、やっぱりそうですよね。特に、明日が怖いです」
「明日? 明日は月曜日だな」
「ええ、つまり、タイムパラドックスが起きている可能性がある、という事です」
タイムパラドックス。
つまり簡単に説明すると、僕が生まれる前に戻って、僕の母さんを殺すとしよう。すると、母さんのお腹の中の僕も死ぬ。すると、僕がこうして存在していることがおかしくなる。これがタイムパラドックだ。そして、そのタイムパラドックスを解消するために、僕の存在は消える。と、これは相当大袈裟な例だ。実際に僕が生まれる前に母さんを殺せば、その後母さんに関わる人にタイムパラドックスが生じて、更にそのタイムパラドックスを解消するために改変すると、それによってまた違う所で改変が起きる。そうやってネズミ算式に改変が起き続け、最終的には全く違う未来になる、という事だ。それをどうやらバタフライ現象と言うらしい。ちなみにバタフライ現象という名前の由来は、例えば日本で蝶が羽ばたくと、その裏側――正確には裏側ではないのだが――のブラジルでは、竜巻が起こる。という例えからである。これも同様に、小さな出来事が大きな結果を生み出すという例えだ。そういえば諺にも、風が吹けば桶屋が儲かる。という諺があったが、同じような内容だ。
そうして、超が羽ばたくどころか、柵さんと共に時間こそ止めたが、最終的には兎鎖木ちゃんのパパは捕まった。そして、この影響が顕著に表れていたのは、森林木木々、羽織紙収、二名だった。
まず木々だが、まるで人が変わったかのように、いや実際人が変わっているのだろうが、凄く僕に対して毒舌になっていた。どうやらこれを巷ではツンデレと呼ぶのだろうが、訳も分からず嫌われている僕からしてみれば、ただただ罵倒されているだけである。
一方羽織先輩だが、こちらもこちらで、何故かとんでもなく初心になっていた。それこそ、兎鎖木ちゃんのように。いや、無論二人は兎鎖木ちゃんの事など寡聞にして知らないらしいが。
さて、僕は今現在、そんな訳で変わってしまった二人と、話していた。
「本当に二人とも、知らないの?」
「存じ上げませんね。というか、どうせあなたが夢で見ていただけなのでしょう? 私は貴方と違って夢物語を語っている程暇ではありません。……興味深い話ではありますが」
これを巷ではツンデレと言うのだろうか? だったら僕はツンデレなんていらない。
「ううん、私も知らないね。というか、憶えていないのかな……?」
「まあ、そうでしょうね。……恐るべし、バタフライ現象」
「いや、何をバタフライ現象の所為にしているのですか。それより、早く説明して下さい。その、非常 兎鎖木さんの事」
「……興味津々かよ」
「何か言いましたか? 死にたいのでしたら遠慮なく言ってくださいね」
別に僕は毛程も死にたいとは思っていないのだが、しかしどうやら木々はもう別人レベルまで性格が悪くなっているようだ。加えて、僕はマゾヒストではない。いや、サディストでもないけれど。
そんな感じで変貌してしまった二人と話していたのだが、しかしやっぱり、兎鎖木ちゃんがいないと何だか違和感を憶える。たかが二日三日だったけれど、しかしそれでも楽しかったし、何より物足りない。いや、そんな事を言った所で今更どうにもならないのは分かっている。だって、兎鎖木ちゃんを不幸のどん底に叩き落としたのは僕なのだから。
そう思いつつ僕がお茶を啜っていると、僕の背後にあるテレビが、京都府のとある学校の用具箱で女子生徒が死んでいるのを、ニュースキャスターが喋っていた。
「……高等学校の用具箱で、非常 兎鎖木さん十四歳が自殺しているのを、バレーボール部の女生徒がバレーボールを取り出そうとしている時に発見したようです。警察はこの事件を自殺として、捜査を……」
やはり、というべきか。
BAD ENDでしたね。ええ。しかし、実はこの続編――というか、第二部を掻こうと思っているのです。ですので、その時はよろしくお願いします。