フェンスとガレキとアンバランス
とうとうサブタイトルが滅茶苦茶になりましたが、そこは触れないで下さい。
後、今回は一万文字というなかなか長い感じなので、お気を付け下さい。
さて、そうして姿を見られないように外へと出た僕と柵さんは、時間停止を解いてから兎鎖木ちゃんの家の近くにある路地裏に来ていた。ここからならパトカーや、警察官が来るのが見えるだろうという、柵さんの案である。しかしこの路地裏は幅と奥行きがかなり狭く、傍から見れば完全に路地裏でいやらしいことをしているカップルにしか見えないだろう。そう思うと僕は人目とかを気にせずに外へと飛び出したいのだが、しかし柵さんに言わせれば、そう思われている方が、都合が良いのだとかまあ、確かに変に事情徴収されず、かといって様子が窺えるポジションといえば、ここしかないのだろう。なんて、そんな最もらしい理由を付けた所で、前にいる僕の腰やら尻やらを執拗に撫でるのは如何なものかと思うが。
「という訳で、さっさと手を放して下さい」
「え、何でなんだ。さっきも言ったが、こうしている方が路地裏でエッチしているカップルらしくないか?」
「僕の腹を触るな」
「いや、でもこれはなかなかだ。綺麗に六つに割れているではないか」
「完全なセクハラですよ。Sexual harassmentですよ」
そう言えばセクハラと言えば何だか格好悪いが、sexual harassmentというと凄く格好よく聞こえるのは僕だけだろうか?
「ふふふ、胸筋も硬いな。ふふふふふ……」
完全に変出者である。
「瓦礫、でもお前って、確か文芸部だったよな?」
「ええ、成り行きで部長にされましたよ」
「でも、何でこんな細マッチョな感じになっているのだ? いや、別にシュワ○ツェネッ○ーみたいなのが好みという訳では無いが」
「だれも貴女の好みは訊いていませんが。……まあ、暇な時には良く運動していますからね」
流石に僕だって文芸部で小説ばかり書いている訳では無いのだ。朝は基本的にランニングをするし、暇な時は腹筋や、腕立て伏せをする。まあ、コンビニ弁当ばかり食べていると不健康だからしているだけなので、ダンベル等のグッズは持っていないが。そんなものを使っていたら、それこそシュ○ルツェ○ッガーみたいになってしまう。いや、ああなるためにはそんな自宅でできるトレーニングでは駄目だろうが。
「まあ、何にせよ心地よい触り心地だな」
「何で僕の服の中に手を突っ込んで触ってるんですか」
いつの間にか僕の服へと手を突っ込み、いやらしい手付きで撫で回す柵さん。そのテクニックに僕の理性がかなり崩壊しそうになった所で、ようやく遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。それはどうやら柵さんが携帯電話で呼んだものらしく、一直線に兎鎖木ちゃんの家へと向って行った。しかし、これでハッピーエンドという訳では無いのだ。いや、そんな事を言い出したら兎鎖木ちゃんのパパを通報して、牢獄へとぶち込むこと自体、当初の全員を助けるという目的を放棄したに等しいのだが。いや、そんな事を言っている場合ではない・。
僕と柵さんは何とか首だけを路地裏から覗かせて、非常宅を見た。しかしどうやら大分兎鎖木ちゃんのパパが抵抗しているらしく、耳を澄ませば、怒号が聞こえた。やはり誰でも、警察官に連行されそうになれば、そんな反応をするのだろう。だって、これからの人生が完全に終わるのだから。いや、それは兎鎖木ちゃんも同じか。だって、孤児院に連れて行かれて、そこで一生トラウマを引き摺りながら生きていかなければならないのだから。
しかし、それでも取り敢えず、梨澄ちゃんに依頼されていた、兎鎖木ちゃん以外の人格を消すという願いは果たせたのだから――チートをかなり使ったが。
「さて、それじゃあさっさと帰りましょうよ、柵さん」
「うーん、まあ良いか。出来ればもう少し監視していたいんだがな……日本の警察は信用出来ないから」
「あんた、どんだけ日本の警察官の皆様が嫌いなんですか……」
実の所、僕も警察官は個人的にあまり好きではないのだが……しかし、ここまで馬鹿にする程ではない。一体過去に柵さんが警察官に何をされたのか僕の知る所ではないが、まあ、ここまで嫌いになるのだから相当だろう。ちなみに、僕の場合は家出した際に父が交番に行き、まるで僕が誘拐されたかのように話したらしい。勿論警察官も真面目に取り合った訳では無かろうが、警察官に見つかった時に何故か滅茶苦茶怒られたのだ。以来僕は警察官が大嫌いになった、という訳だ。今思い返すとあの警察官は絶対に僕へと八つ当たりをしていたのだろう。そういえばあの警察官はなかなか特徴的な顔立ちをしていたし、自分で、泣く子も黙る葉多だ。とほざいていたので、調べれば見つかるだろう。この仕事が無事終われば絶対に特定して、時間を柵さんに止めて貰っている間に、思いっきり股間をレンガでぶっ叩いてやろう。
と、そうしてなかなか残虐な予定を携帯電話のカレンダーに記入していると、柵さんが静かに、トントンと肩を叩いてきた。
「何ですか?」
「いいから覗け」
一体何が何だか分からないまま僕は柵さんに無理矢理路地裏から頭を出された。その際に思いっきり首が後ろに反らされて変な音が鳴ったのだが、そんな事はお構い無しに柵さんはぐいぐいと押してくる。その痛みに耐えつつ、何とか兎鎖木ちゃんの家の方を見てみると、警察官に連れられてパトカーに乗り込む兎鎖木ちゃんのパパと、そして、泣き叫ぶ兎鎖木ちゃんの姿が見えた。どうやら兎鎖木ちゃんはパトカーに乗り込む兎鎖木ちゃんのパパを必死に呼び止めようとしているようで、婦警さんが何とか行く手を阻んでいた。だがそれでも兎鎖木ちゃんは諦めずに、必死に手を伸ばしていた。しかしやがて二台あるパトカーの内、兎鎖木ちゃんのパパが乗った方のパトカーが発進すると、兎鎖木ちゃんはようやくその場に崩れ落ちて、泣き出した。と、そこでやっと柵さんはそのまま僕を元の姿勢に戻した。
「今の気持ちは?」
「最悪です。でも、後悔はしていませんよ」
「そうか……。いや、別に私は瓦礫を責める気は無い。むしろ、良くやったと誉めてやりたい位だ。だが、お前がしたこの行為を絶対に忘れるなよ? お前は、兎鎖木ちゃんを救った。だが、一方でお前は、少なくとも兎鎖木ちゃんと、糞親父の人生を掻き乱したんだ。当然、糞親父は逮捕され、何年も牢屋の中で過ごすだろう。そしてたとえ出て来たとしても、今まで働いていた職場どころか、色々な店が雇うことを拒否するだろう。誰が前科のある人間を雇いたがるんだ? それに、不幸なのは兎鎖木ちゃんもだ。これから兎鎖木ちゃんはどうせ親戚の家をたらい回しにされるが、どうせ誰も面倒なんて見る訳無い。そうして最後には孤児院なり何なりに入る事になるだろう。だが、ずっと虐待を受けてきて、おまけに目の前で父親が逮捕されたのだ。そんな常識もなく、マナーもなく、とんでもないトラウマを背負った奴が、他の奴らと上手くやっていける訳がない。どうせ苛められる。瓦礫、お前がしたのは、こんなに酷くて、エグい事なんだぞ。それでも良いのか?」
「良いか、悪いか。と訊かれれば、悪いのでしょうね。でも、これが最善策なんですよ。こうしないと、どうせ兎鎖木ちゃんはいずれ崩壊する。だから、これしかない。どうせ、初めから分かっていた事じゃないですか。皆を救う方法なんて、例えどれだけ模索したって無い事位」
「……まあ、それもそうだな。だって、私のこの魔法を使ったって、ハッピーエンドには辿り着けなかったんだ」
そういって、項垂れる柵さん。しかし、別に柵さんのその魔法が凄くないという訳では、無い。
さて、そうして兎鎖木ちゃんもパトカーで事情徴収に連れて行かれ、僕と柵さんも最悪の気分のまま、ようやく現世へと帰って来た。その頃には柵さんもそこそこテンションが回復していて、僕が羽織先輩と木々に電話している間も、ひたすら僕の尻やら腹筋やらを触っていた。僕は確かに帰ったら頭を好きなだけ撫でさせると約束した。しかし、どうやら柵さんのいう頭には、腹筋や尻も含まれるらしい。
ふざけんな。
「柵さん、訊いた結果、二人共の記憶から、すっぱり兎鎖木ちゃんにかんする記憶は消えていました」
「ふむ……。なら、失敗はしていないようだな。成功もしていないが」
「あの、シリアスな展開なんですから、僕の身体を触るのを止めて頂けませんか?」
「え~。別にいいじゃん。そんな事より、さっさと飯食いに行こうぜ!」
「そんな事って……」
意外にドライな人だった。というか、別に僕は一言も外食に行くなんて言っていないのだが。
「まあ、いいでしょう。今回は特に柵さんの力を借りましたからね。せめてものお礼です。……でも、良いのですか?」
「ん、ああ、結衣さんの事か? 心配無い。あの人は自炊出来るし、連絡を入れて、ちゃんと許可も取った」
「へえ、柵さんにしては随分としっかりしていますね」
「何気に失礼な物言いだな……。まあ、結衣さんも来たがっていたが」
「それだけは真剣に勘弁して貰えないですかね?」
何が悲しくて僕が父さんと晩御飯を食べなくてはならないのだろうか。気恥ずかしいとか、鬱陶しいとかではなく、ただ単に顔を合わせたくないのだ。だから別に電話越しで会話するのは――まあ、良いという訳では無い。が、話せと言われれば話す。
「まあ、父さんが来ないのなら良いですよ? で、どこに行きます?」
「ん、そうだな……。よし、適当に近くのレストランに行こうぜ。あ、ドリンクバーのある場所な?」
「? 何故です?」
「いや、だって全部混ぜたいから」
「あんた子供か」
軽口を叩きつつ、僕はこの近くにあるレストランを適当に思い出し、その中から柵さんが満足しそうな、バイキングの店へと行く事にした。
そう、兎鎖木ちゃんの歓迎パーティで行った、あのレストランだ。
「では、バイキング形式のレストランを知っているのですが、そこで良いですか? あそこは色々な種類のドリンクがありますよ」
「ほ、本当か!? なら是非もない、そこへ行くぞ!」
まるで遊園地へ行く子供のように嬉しがり、いそいそと下駄を履く柵さん。僕は初めから気になっていたのだが、どうやら本当に和服姿で行くらしい。いや、柵さんは別に何とも思わないのかもしれないが、僕が嫌だという事に気が付いてほしい。無論、そんな願いが届いていれば今こうして僕が絶望していないが。……ああ、和服姿で向かったら、周りの客からどんな目で見られるのだろうか。
「……まあ、仕方ないか」
「ん、何か言ったか?」
「いえ、何でもありませんよ。行きましょうか」
「ふふふ、楽しみだ!」
まるで子供のように微笑み、その場でクルクルと回転する柵さん。もう完全に遊園地を楽しみにしている子供である。その姿を不覚にも可愛らしいと思ってしまう僕も僕だが。
それから約十分後、僕と柵さんは近くのバイキング形式のレストランへ来ていた。柵さんは道中、僕が兎鎖木ちゃんの事を思い出すのではないか? と心配していたが、別に僕はそんな事で悲しくなる程、良い性格はしていない。まあ、かといって何も感じないと言えば嘘になるが、精々、ああ、そういえば四人で来たこともあったな。と、おもいだすだけである。別にだから寂しいとか、少なくとも、柵さんが想像しているような感情は沸いて来ない。果たしてそれは僕がきちんと割り切れているのか、それともただ純粋に壊れているだけなのかは僕にしか分からない。
レストランはやはり日曜日という事もあって、なかなか混んでいた。しかし席は空いているらしく、僕と柵さんは店の丁度真ん中辺りの席へと案内された。ちなみに柵さんが入店すると、店内の殆どの目が和服の柵さんと、至って普通の服を着ている僕を交互に見ていた。まあ柵さんは当たり前だが、何故僕も見られるのかが分からずに取り敢えず店員さんに連れられて店の奥に入ると、ヒソヒソとあちこちで会話が聞こえた。その会話を盗み聞きすると、どうやら僕と柵さんの事を恋人同士だと勘違いしているらしく、中には「なんであんな冴えない奴が美人なお姉さんと付き合ってんだよ……」とか「あの女の人、超美人じゃね?」等と聞こえてきた。二つ目の意見には僕も賛成するが、しかし人の事をさえない奴呼ばわりするのはどうかと思う。というか、普通に失礼だった。いや、別に僕も自分がさえない奴だという事位は百も承知だが、それでもムカつくというか。ま、柵さんは美人とあちこちで囁かれてご満悦なので、良しとしよう。
そうして席に着いた僕らは、早速食べ物を取りに行った。柵さんはもう次の瞬間には肉類があるコーナーでから揚げを取ったり、中華コーナーで天津飯を取ったり、それはそれはもう、周りの目など気にせずに皿を料理で一杯にしていたが、僕は柵さんがどうせサラダ類を取らない事を知っている為、蒸し鶏のサラダにフレンチドレッシングを掛けた物をテーブルに運んでからようやく、自分の分の料理を取り出した。
別に僕は柵さんと料理を食べるのが嫌な訳では無い。だがしかし、柵さんの食べっぷりは本当に凄まじく、普通のレストランに行くと一万円を超えることがあったのだ。それ以来、僕は柵さんとご飯を食べる時は、必ずバイキング形式の店に行っている。バイキング形式ならどれだけ食べても料金は変わらないし、柵さんなら僕の分まで元を取ってくれるのだ。しかし、何故これだけ沢山食べるのに、太らないのだろうか。もしかしたら魔法の対価は無いが、カロリーをかなり消費するのだろうか? だとしたら納得だが……。
僕が自分の分として用意したピッツァ・マルゲリータ二切れと天津飯少々を皿に盛りつけて席に着くと、柵さんは思いっきりナンパされていた。見た所、中学三年生か。人数は三人程で、柵さんの右側と左側で柵さんを口説こうとしているようだ。しかもその内の一人は僕を一瞥し、また柵さんを口説き始めた。まあ、そんな事を言い始めたら、ひたすら上品に、しかしとんでもないスピードで天津飯を平らげている柵さんの方が酷いが。と、遠くから眺めていると、天津飯を食べ終わり、一度手元のウーロン茶を飲んだ柵さんはやっと僕の存在に気が付いたようで、手を大きく振った。
「な、何ですか? 柵さ」
「瓦礫、ちょっと来てくれないか?」
と、僕の質問を遮って、柵さんはこっちへ来い、と言わんばかりに、手招きをし出した。まあ僕も早くご飯を食べたいし、それに柵さんが折角その機会を作ってくれたので、小走りで向かう。すると当然その中学生三人組は僕をやたらと睨んできた。
「あん? 餓鬼はすっこんでろよ」
「そうだそうだ、すっこんでろよ」
「すっこんでろ、あん?」
何だろう、この溢れんばかりの噛ませ犬臭。そして、嫌な予感。
どうやら彼らは僕の身長からして中学二年、もしくは一年生と勘違いしているらしく、同じようなセリフを吐きながら、睨んでいた。しかし、そこで何を思ったか柵さんは突然立ち上がると、その身長の高さにビビっている三人組を迂回して、僕の横へと無言で来た。
「あ、あの、柵さん? 一体何を――」
「キス」
そう言うや否や、柵さんは顔を僕の顔に近付け、その柔らかな唇を僕の唇に付けた。というか、その時点で既にその中学生三人組は唖然としているのに、次の瞬間には舌が僕の唇を舐めていた。そしてびっくりした僕は思わず口を開けてしまい、そこから柵さんの舌がヌルリと侵入してきた。何故鬱陶しい中学生を驚かす為にディープキスまでされなければならないのかは僕にも分からない。というか、頭が完全にフリーズしていた。しかしそこで止まる筈もなく、唖然としている中学生にまるで見せつけるかのように、柵さんは一度口を離し、艶めかしく唇を舐めた。果たしてその行為が決め手となったのか、その中学生三人組は自分達の席へと戻り、あたふたしていた店員さんも、いそいそと仕事へと戻った。
「ふう、緊張した。瓦礫、すまないな。本当ならキスで済ます筈だったが、唖然としている顔があまりにも可愛いものだから、ついついディープキスまでしてしまった!」
にっこりと笑って、席に着く柵さん。まあ、ここで恥ずかしがる程僕も初心ではない
さて、邪魔な中学生もいなくなり、僕は何とか深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、席に着いた。
「あ、あの、柵さん……」
「ん、何だ?」
「何故僕にキスをしたんですか? もう恥ずかしくて顔を上げられませんよ」
「ん、何でだ? どうせ周りの客は私達を恋人としか思っていないだろう? これでもう糞餓鬼に絡まれる事は無いし、良いじゃないか」
「いえ、別にそれは分かっているのですが、というか、僕が言いたいのは、何故キス、それもディープキスなのですか? 別に恋人アピールをする位なら、ハグ位で良いのでは?」
「いや、それじゃあつまらないだろ?」
「あんたどんだけその場のノリで生きてるんですか……」
「いや、別にノリで生きるのも悪くないぞ? それに、瓦礫にしかノリでキスはしないさ。安心しろ」
「何をどう安心すれば良いんですか……」
「時に瓦礫、もしかしてあれがファーストキスだったりするのか?」
「いや、ファーストキスはもう済ませましたよ?」
「そ、そうか……。残念だな」
「いや、おかしいでしょ、なんで残念がるのですか」
まあ、実を言うと僕のファーストキスはともかく、ファーストディープキスは今回が初めてだったのだが、そんな事を柵さんに報告しても絶対に喜ばせてしまうだけなので、黙っていよう。
さて、そうして僕が蒸し鶏のサラダを口に運ぼうとした瞬間、柵さんの皿が目に入った。いや、正確には柵さんが既に食べ終わり、空っぽになった皿が目に入った。
そして辺りを見渡すと、なかなか大きな皿にカレーのルーとご飯を大量に乗せていた。それを見た時に、僕は少しだけ、ああ柵さんも流石にもうお腹が一杯なのかな? と思ってしまったが、良く見ればそのカレーの入った皿は一つではなく、僕の死角となっていた柵さんの左手には、ショートケーキやチョコレートケーキ、ティラミスやミルフィーユが、カレーの皿と同じ位の皿に、大量に盛られていた。本当に柵さんは周りの目等は気にしないらしい。今度、父さんにメールで、食費を浮かす方法でも送るか。これだけいつも食べるのなら、幾ら父さんが小食とはいえ、絶対に食費が凄い事になっているだろう。
僕は柵さんの空になった皿へと蒸し鶏のサラダを全体の三分の二位盛り付け、残りのサラダを掻き込んだ。このままだと、天津飯やマルゲリータが冷めてしまう。まあそれ以外にも柵さんに取られてしまうかもしれないので、どの道さっさと食べてしまうに限るだろう。
そんな事を思いつつマルゲリータを頬張ると、柵さんが帰って来た。
「お、このサラダはなんだ? 瓦礫が入れてくれたのか?」
「ああ、柵さんってサラダ絶対に食べないじゃないですか。だから、せめてそれを食べて下さい」
「む、失礼な。カレーの中に入っているじゃが芋や、人参もサラダだぞ?」
「いいからさっさと食べなさい」
「うう……。何だか瓦礫、段々と結衣さんに似てきたな」
「それは真面目に止めてくれませんかね?」
何が悲しくて、父親と似ているなんて言われなければならないのか。
「ははは、そんな事を言っていたら、結衣さん悲しむぞ?」
「別に構いませんよ……。あの人、能天気だし」
「でも見た目は凄くスネ○クみたいじゃないか。なんだか、シャゴホ○ドと戦っていそう」
「なんで急にメタ○ギアソリ○ドの話なんですか」
「どのシリーズが一番好きだった?」
「止めましょうよ、そんな議論が起こりそうな事いうのは……」
「いや、揉めそうなのはター○ネータシリーズだろ」
「またシュワル○ェネッガ○かよ」
まあ実際、父さんは見た目こそボディービルダーのような身体だが、その内面は虫が苦手で、かつ小食な、つまりヘタレなのだ。おまけに、趣味は料理、仕事は漫画家である。あまつさえ書いている漫画は少女向けの、純愛物らしい。まあ、ちゃ○に載っているのだろう。
そういえばこの前僕の所に編集長さんが番号を間違えて電話を掛けて来たので、何の気無しに父さんの漫画の事などを訊いたのだが、どうやら漫画自体はそうとう読者が多く、ファンレターもかなり来るらしい。しかし、万が一父さんの風貌が読者に知れたら絶対に読者が減るので、周りに○ゃおの読者がいても、言わないで欲しい。との事だ。
さて、そうして柵さんと談笑しつつご飯を食べていると、あっという間に制限時間の一時間半が来ていて、僕はようやくこの視線から解放される事に感動すら憶えつつ、店から出た。
「や、やっと解放された……」
「ん、何がだ?」
「あの突き刺さるような周囲の視線からですよ……」
「ん、ああ、何だか見られているような気はしていたが、お腹が空いていたからなあ。全く気にならなかったぜ」
「やっぱりですか。というか、柵さんって本当に食欲が旺盛ですね。そういえば、これは僕が先程考えていたのですが、魔法の対価は無くともカロリーを大量に消費するのではないでしょうか?」
「ふむ、カロリーか。確かにあり得そうだな。特に今日はかなりお腹が減っているしな」
「? お腹が減って、いた。のではなく、お腹が減って、いる。のですか? その言い方だと、まるで……」
「そう、お腹が減っているんだぜ。現在進行形でな!」
「何でそんなに自慢気なんですか……。まあ、今日だけは僕の驕りですから、適当にそこら辺の居酒屋にでも入りますか? 柵さんの好きなお酒も沢山飲めますよ?」
「いや、そこはガ○トだろ。パフェとか食べたい」
「別に僕はコーヒーが飲めるのなら良いんですが、柵さん、既にさっきのレストランでさんざんケーキ食べたじゃないですか」
「いや、それがあのケーキ、どれもあまり美味しくなくて……スポンジがパサパサなんだ」
「常人の五倍くらい食べていた癖に何を言い出すんですかね」
「まあ、良いじゃないか。そんな事より、行こうぜ!」
「僕の意見は無視ですかそうですか。……まあ、良いですよ。時間は……八時ですか。まあ、良いでしょう」
「やったぜ、流石瓦礫! 今晩は一杯楽しませてやるぜ」
「だれもそんな事は望んでいませんし、それで楽しくなるのは柵さんですよね」
そんな僕の叫びも空しく、柵さんはスキップでガス○へと行ってしまった。それにしても、和服でスキップって……。もうなんというか、ひまわり畑でサバゲーをする位に不自然だな。
ガストに着くと、流石に時間的にまだ客は多く、しかし今回も運良く座れた。僕的には柵さんが嫌になってパフェを断念する位の時間があれば良かったのだが、そう上手く事は運ばないようだ。畜生。
「ご注文はお決まりですか?」
「僕はコーヒーを」
「私はこの、デラックスチョコレートソースパフェをお願いします」
そうしてポニーテールの可愛い店員さんが厨房へと行ってから、僕はようやく柵さんに思っていた事を伝えた。
「柵さん、貴女って敬語使えたんですか!?」
「おおう、何気に失礼だな!」
「いやでも、僕の中ではぶっち切りで変態なので……後、柵さんって何だか、敬語とかって一切使えなさそうじゃないですか?」
「いやいや、敬語位、私も使う時は使うぞ?」
「へえ、どんな時ですか?」
「まあ、最近はSMプレイとかだな」
「よおし、ちょっと慎みましょう」
全くこの人は、どこまで下ネタが好きなのだろうか。いや、それに反応してしまう僕も僕だが。
「こういうのを、会話のデッドボールって言うんだろうな……」
「ん、何か言ったか? ギャグボール?」
「言ってねえ!」
ちなみに、ギャグボールはSMプレイ用の道具。デッドボールは、野球でピッチャーが投げたボールがバッターに当たる事らしい。
全く違う。
「デッドボールですよ、デッドボール。これ以上周りから変な目で見られたくないんで、下ネタ禁止の方向で」
「ん、それは出来ない相談だな」
「何故ですか!」
「一つ、既に私のこの着物姿によって、かなり周りの人達から目を引いている。二つ、もう既に下ネタによって、更に目を引いている」
「ふむ、一理ありますね」
「そして三つ、下ネタが大好きだから!」
「一理ねえ!」
そんな事を話していると、先程のポニーテールで可愛い店員さんとは違う、糸目の寡黙そうな店員さんがコーヒーだけを持ってきた。
「こちら、コーヒーです」
「あ、どうも」
適当に会釈して、それから柵さんに話し掛ける。
「多分、柵さんのパフェは僕のと違って時間掛かるんですよ」
「まあ、そうだろうな。あの大きさだし」
「まあ、僕は実物を知らないんですけれどね」
そうして話していると、店員さんが厨房に早歩きで入っていき、それからビックリする位に大きいパフェを持ってきた。目測で大体三十センチ位の器に、もう何が何だか分からない位に沢山のフルーツと、チョコレートソース、そして何より、色とりどりのアイスが盛ってあった。
「こちらのデラックスチョコレートソースパフェですが、三十分以内に完食しますと、代金が帳消し、つまり閉店までどれだけ注文頂いても、無料になります」
「そ、そうですか……」
私がもう一つ書いている作品の、『妹に撲殺されたから異世界攻略する。』という小説ですが、あちらは毎日二千字位で更新しているので、そちらも宜しくお願いします。後、Portal2というゲームを御存じの方がいらっしゃいましたら、是非とも語り合いましょう。勿論、知らないけれど興味のあるという方も、コメントで書いて下されば、私が返答致します。(コメ稼ぎ乙)