エピローグ 運命の女神は試し続ける
Ending
その頃、地上では。
戻らないまとめ役に、旗色が悪いと見たのか、ラングワートに付いていた者たちが逃走、あるいは、降伏を始めていた。
その様子をほっとしたように眺め、フロウは上を仰ぐ。まだ、アルカは戻らない。
結局、マリウスは一命を取り留めた。
それがはっきりと分かったとき、パンドラは冗談じみて言ったものだ。
「あら、残念。
もしいなくなったら、この子にあなたの名前を付けようと思っていたのに」
「…勘弁してくださいよ」
ちなみに、女の子だ。
さらに付け加えるなら、この他にもパンドラの子供は何人かいる。
アルカネットたちの住む街の側を、竜の影がよぎる。
少し離れた場所でセトがヒトの形になる。
アルカは、振り返らずに駆け出した。
牧草地、畑、果樹園、街の入り口に陣取る冒険者の宿、立ち並ぶ武具店、雑貨屋、酒場。
「っ」
その先に、騎士団の門が見えてくる。
数段の石段を、アルカは一気に跳び越した。
正面玄関の前で横に跳び、ニレの木の下、裏の空き地を回る。
その次に覗き込んだ修練場で、ようやく目的のものを見つけた。
今まさに、手合わせしていたらしいふたりの戦士、一方が床にぶつかる。
「――キサ!」
「――はい」
虚を突かれてミョーに丁寧な返事を返し、キサ=レッドベリルは起き上がる。
先ほどまで、仰向けに落ちた床の上、上下さかさまにアルカネットの顔があった。
「…あれ? きみ、今頃はパーセルだったんじゃ…」
怪訝そうな問い掛けはきっぱりと無視して、アルカネットは飛びつく。
うわっ、と小さな悲鳴を残し、キサは困惑顔。
アルカネットが静かに言った。
「――キサの言ったとおりだ。お金にならない戦いは、するもんじゃないね」
しばらく考えてから、キサは言った。
多分、今のアルカにもっとも相応しい言葉を。
おつかれさま。
いつもアルカにまつわるヒナギクの香りは、その時は、しなかった。
「…ばかなおじさん」
いつだったか、マリーはそういって笑った。いつか小さな人影だったそれは、もう小さな影ではなくなっていた。
烏麦の草原はどこまでも続き、何も言わずにただ波打つ。
その前には、二つの墓標。
ひとつには前の皇帝の名が慎ましやかに刻まれ、もうひとつには、ある女性の名が彫ってある。彼女の本当の墓は首都パーセルにあるが、勝手に分祀しようとも文句はくるまい。マリーはそう信じていた。仲良く並ぶそれは、マリウス=ラングワートの姪による何かの皮肉なのだろうか。
おしまい。
24000/60枚。
読み返せば、内容は、随分あっさりしてるなあ、と思います。
もっと濃ゆく書いてもよさそうだ。バルトゥースの過去とか。
てゆうかむしろ、あっさりしすぎだ。
濃ゆくしたいです。