第三十二話
王都についた高志とアレスは、早速リースこと、シーリンス姫の下へ向かう。
幸いにもアレスは兵士達の中では有名らしく、怪しまれたりせずに、すんなりとシーリンス姫の下へたどり着くことができた。
「リース、アレス爺さんを連れてきた。」
「久しぶりじゃのぉ。」
「アレス殿、お久しぶりです。アレス殿が防衛に参加頂ければ勝利は約束されたようなものです。」
リースは、アレスが来たことで若干心に余裕ができたようだ。
それを目の当たりにすると、過去の英雄の貫禄が感じられる。
(・・・うーん、やっぱ実績があると信頼も違うのかな。)
だが、アレスの口から出た言葉は無情なものだった。
「ワシがきたところで、この状況は覆えせぬよ。」
「し、しかし・・・。」
「じゃが、安心せい。タカシが良い案があるそうじゃ。ここはこの老いぼれを信じて、タカシの案に乗ってみてやってくれんか。」
アレスがそう言うと、リースは高志に食って掛かるように聞く。
「タカシ、本当なのか!何か名案があるのか?」
「いや、まぁ、名案ってほどじゃないんだけど。それを実行するためにも、敵軍が揃うまでは動かないようにして欲しいんだ。」
「ふむ。して、その後はどうする?」
「そこから先は、今はただ任せてくれとしか言えない。」
「しかし、さすがにこれだけの軍を動かす側としては、それでは難しいな。信じるに値する根拠が必要だ。」
流石に、リースもただ無闇に信じて軍を動かすことはできないらしい。
「いや、むしろ軍を動かさないようにするだけでいいんだけどな。」
「実は既に伏兵を潜ませる準備を進めている。この状況下で、何もせず座して待つことは難しいのだ。」
「そうか・・・。それじゃあ、せめて出来るだけ敵軍から離れた位置に伏兵を配置するようにできないだろうか?」
「ふむ、それくらいならば出来なくはないかもしれんが・・・。敵軍に大規模魔法でも撃ち込むつもりなのか?さすがに大規模魔法の対応はしてきていると思うぞ?」
「いや、そんなことはしないよ。」
(・・・大規模魔法ってものがあるってのも知らなかったし、それを防ぐ方法まであることも知らなかったとは言えそうも無い雰囲気だな。)
「では、出来る限り敵軍に近寄らないように伝令を出しておこう。」
「助かる。それと、しばらく留守にするけど、何かあったらコレを使ってくれ。」
そういうと、高志はリースにもサリーに渡したものと同じ防犯ブザーを手渡した。
「これは、サリーが使ったものか。この紐を引っ張れば音がでるだけはないのか?」
「いや、音と同時に俺にも分かるような魔法が付与されていると思ってくれ。ただ、音はどうしても出てしまうから使いどころに注意してくれ。」
「ほぉ。随分便利だな。同じようなものを作って、民に配布して騎士団に連絡がいくようにすれば・・・。」
とリースは意外に感心しているようだ。
「それじゃあ、早速行って来るけど、リースの護衛は任せる。」
高志はサリー達にそう言うと、すぐに出かけていく。
その際、サリーは何か言いたいことがあるような素振りを見せたが、既に自分の考えに入っている高志は気がつかなかった。
アレスはそれに気づいて、高志が去ったあと、サリーに声を掛けた。
「なんじゃ、サリー譲ちゃん何か言いたいことがあるんじゃないのか?」
「い、いえ、ちょっと不思議なことがあったので、タカシにも相談しようと思っていたのですが、そんなに急ぐ必要もないので、この騒動が収まってからにしようかと。」
「ほうほう、不思議なこととな。是非聞いてみたいのぉ。」
そしてサリーは不思議な声が聞こえたことをアレスに相談する。
「ふむ、神の啓示かもしれぬのぉ。」
サリーから話を聞いたアレスはそう答える。
「これが・・・。」
サリーも噂には聞いたことがあった。
神に愛されたものは神から直接助言を与えられることがあると。
「もっとも、本当にそうかはわからんがな。まぁ、お陰で助かったのじゃろ?悪い前触れではあるまい。便利な力で助かったと思っておけばいいじゃろ。気にしても仕方あるまい。」
アレスはそう言って笑う。
「そ、そうですね。」
相談できたことで多少心のモヤモヤが取れた感じになり、サリーはあまり気にしないことにした。
一方その頃、高志は計画の準備を進めていた。
もっとも、作業自体はさほど大したことではないのだが、地形の把握と作戦のシミュレーションを行っていた。
(・・・もっといい武器があればよかったんだけど、そうそう都合良くはいかないか。あとは、もう少しここを掘り進めておくか。)
そして、敵軍や近くの人に目撃されないよう、低空飛行しつつ、レーザーで川の支流を作っていく。
(・・・まぁ、こんなもんでいいか。あとで元に戻すのも大変かもしれないけど。)
2日後、その時がついにきた。
ドラグレイス軍は、王都グリゴールの西方に陣取り、整列している。
主力も到着したのか、その数は明らかに防衛側の3倍以上の数だった。
高志はステルスモードで上空からその状況を見つめる。
(・・・なるほど、これは確かに戦力差は圧倒的だなぁ。)
防衛側の陣容は、明らかに騎士と思われる部隊と傭兵だろうと思われる部隊があった。
その中でも異色なのは巨大な虎だった。
虎の首には豪華な首輪が付けられている。
前日にみかけたときはビックリしたが、リースに聞くとその首輪の魔法で操っているらしい。ただし、その魔法の首輪は非常に貴重品であり、この王国でも古くからいる貴族が一つもっているだけで、魔物部隊を作るようなことは出来ないのだという。
対するドラグレイス軍の陣容は、騎兵部隊、歩兵部隊の他に変わった部隊がいた。
その変わった部隊、これこそがドラグレイス軍の主力部隊だった。
それは地上を駆ける竜を操る竜騎兵部隊と、空を飛行する竜に騎乗する飛竜騎兵部隊から構成される部隊で、明らかに目立っていた。
そして、更にその中でも一際目立つ存在がいた。
ドラグレイス軍の切り札、帝国と同じ名を与えられた巨大な竜《竜帝ドラグレイス》だった。
今は地上に降りているが、空を飛ぶことも出来き、他の竜騎兵の竜などとは比べ物にならない大きさだ。
(・・・あれが、《竜帝ドラグレイス》か。でかいなぁ。ゲームならラスボス間違いなしだ。)
その場の雰囲気は、今にも開戦されようとしていた。
(・・・それじゃあ、始めるとするか。)
高志はステルスモードを解除し、上空から拡声器を使ってドラグレイス軍に呼びかけた。
「ドラグレイス軍に告げる。10分だけ時間を与える。今すぐ自国に引き返せ。」
だが、そんなことで敵軍がそうですかと、引き返してくれるはずもなく、最初は返答がなかったが、しばらくすると返答として返ってきたのは、矢と攻撃魔法の嵐だった。
もっとも、全てエネルギーフィールドで無力化されるが。
ソレを見た敵軍からは僅かに動揺が走っていた。
「なんだあれは!なぜ攻撃が当たらない!?」
「いや、当たってはいるんだ!矢の攻撃も、魔法も何故効かないのだ!」
そして10分が経過した。
(・・・さて、始めるか。)
高志はまずは地上の部隊を足止めすることにした。
使う武器はかつて『バンカーバスター』と呼ばれたミサイル兵器だ。
上空から、バンカーバスターを敵軍を囲うように発射していく。
すると、けたたましい轟音が響き渡る。
「な、なんだ、何が起こっている!」
「砂煙で何も見えない!」
「馬と竜を落ち着かせろ!」
その轟音により、一部の馬や、竜が暴れだした。
さすがに訓練されているものがほとんどだったが、その余りの轟音と目の前の光景に取り乱す馬や竜が多かった。
やがて、爆音が止み、砂煙が収まると、兵士達は何が起こったのかそこで知ることになった。
ドラグレイス軍は巨大な穴により囲われていた。
幅は20メートル、深さは10メールはあろうかというその穴に囲まれたドラグレイス軍は進軍することも退陣することも出来ない状況になっていた。
だが、それでもすぐに頭を切り替えられる有能な将がいたことにより、すぐに指示が飛んだ。
飛竜騎兵部隊はすぐに高志に向かって襲いかかる。
もちろん、何一つ有効なダメージを与えられないが。
そして地上部隊は、精霊魔法が使える者達が地の精霊を呼びだし、穴を埋めようとしている。だが、それを許す高志ではなかった。
上空からすぐにレーザーで土の精霊を攻撃する。攻撃された土の精霊はすぐに消えいく。
(・・・ちょっと心が痛むがしかたない。すまんアトス。)
自分の土の精霊に心の中で詫びた。
そして次に地上部隊は、歩兵と竜騎兵だけがその穴を降りて越えようとしていた。
だが、しばらくするとその穴には水が大量に流れ込んできた。
事前に川の支流を作ったのは、壕を水で満たすためだったのだ。
「くそっ、何をしているすぐに水を凍らせて渡るんだ!」
隊長クラスの兵士がそう叫び、指示を出すも、返ってくるのは悲痛な叫びばかりだ。
「ほとんど泥水なので、水の精霊でもなかなか凍らせることができません。」
「しかも、水の精霊を召喚してもすぐに倒されてしまいます。」
水の精霊が召喚されると、高志はすぐにレーザーで同じく倒していく。
間に合わず一部分だけ凍らせるのを許してしまったが、すぐに上から小型ロケットランチャーを使い、氷を砕いた。
次に高志は上空の飛竜騎兵部隊をターゲットにした。
地上部隊の足止めをしている間にも、矢や攻撃魔法等で攻撃されており、実害はなくとも煩わしくなってきていた。
高志は筒状の武器を召喚すると、飛竜騎兵部隊の一騎に向けて発射する。
すると、飛竜全体に光るネットが絡みつく、そして電流が流れその動きのほとんどを封じる。
結果的にその飛竜は飛行が困難になり地上に落ちていく。
面倒だったが、これを飛竜部隊すべてにやるつもりだった。
飛んでいる敵を出来るだけ殺さずに無力化するには、こうする他思いつかなかったのだ。
無論、それでも飛竜はともかく、それに騎乗している人間はかなりの確率で死ぬことになると思っていたし、覚悟もしていた。
だが、思った以上に飛竜は電流に耐性があるのか、上手く着地しているようだった。
また、幸い、飛竜部隊の数はそれほど多くないようで、多めに見積もったとしても50騎ほどだった。
だが、5~6騎ほど落としたところで、ついにソレが動きだした。
ドラグレイス軍の後方から砂煙が巻き上がったかと思うと、上空に巨大なシルエットが浮かんだ。
ついにドラグレイス軍の切り札《竜帝ドラグレイス》が上空へと羽ばたいたのだ。
もうちょっと続きます(´・∀・`)