第二十九話
最近忙しくて、なかなか書く時間が取れてません(´・ω・`)
老人の一言で光に包まれたリース達。
しばらくすると光は収まり、目を開けると辺りは真っ白になっており、そこに先ほどの老人と、リース達5人がいた。
「さて、では始めるとしようか。ワシの切り札とも言えるこの魔法を使うには基礎知識が必要になる。まずは時という概念から覚えて貰う。」
その後、老人の説明が続いた。
(・・・要約すると、時間を操る魔法ってことか。だけど時間は不可逆で、それはこの魔法をもってしても変わらない。出来るのは、時間の加速と減速のみ、ね。まぁ、さすがに魔法でも過去には戻れないのか。)
高志だけは時間についての概念がそれなりにあったので、違和感なく説明を受け入れていたが、それ以外の4人はなかなか理解に時間がかっているようだった。
リースは真剣に聞いているが苦戦しているような感じだ。
逆にミンクは半分寝ていた。
そしていよいよ核心に触れる内容になった。
「では、早速この魔法の使い方を教える。特別な呪文などは必要ない。まずは加速方法についてだ。対象を意識して、次に呼吸を早くする。そしてその呼吸タイミングを対象に上乗せするように意識する。」
(・・・呪文が必要ないのはいいけど、えらく感覚的な方法だなぁ。)
「次に、減速の方法だが、これも同じようなものだ。呼吸を早くではなく、遅くするだけだ。ただし、いずれも本当に呼吸が関連しているかどうかは分からん。慣れてくれば呼吸速度はそのままで魔法を発動させることができる。あくまでも感覚的なものだと思え。」
「なんだか、最初の説明はすごく丁寧だったけど、肝心の使い方については、えらい簡単だなぁ。」
高志が思わず感想をこぼすと、シェリアが反応した。
「もしかすると、教えている本人も曖昧なのかもしれないな。」
そして老人は話を続ける。
「最後に一つだけ忠告をしておいてやろう。この魔法は魔力が切れれば即座にその効果を失う。魔力の消耗は対象大きさと、その加速、減速の倍率により変動する。だが、魔力の残量を確認する術はない。使いどころは十分に注意することだ。」
そこまで老人が言い放つと、再びまぶしい光が辺りを包んだ。
数秒後、光が収まると、元の部屋に戻っていた。
そして突然シェリアが大声を出した。
「ああっ!! 思い出した。今の老人は間違いない、この国の建国王だ。」
「え? ってことは、もしかして、リースって・・・。」
高志の問いにリースは気まずそうに答えた。
「まぁ、ご推察の通りだ。一応、王族の一人だ。とは言っても今は叔父上が国王を務めていて、私には実質何の権限もないがな。だが、エルフが長寿なのは知っていたが、まさか、建国王のシンゲン様をご存知とは。」
「む、そういえば、そんな名前だったか。」
シェリアがこともなげに答える。
「是非、当時の話を聞かせてもらいたい。と、言いたいところだが、今は一刻も早く外に出よう。いずれ時間のあるときに詳しく話を聞かせてもらいたい。」
「わかった。とは言ってもそんなに語れるような話はあまりないが。さ、ミンちゃん起きて行くよ。」
もはや完全に眠りの国の建国王になっていたミンクを起こし、一行は入り口に向かった。
「あー、完全に塞がってますね。どうしましょうか。」
高志がそれとなく言うと、シェリアが答えた。
「これくらいなら、土の精霊に頼めば人が通れる道くらいは作れるだろう。」
そう言うと、シェリアは土の上位精霊を召喚した。
対して、高志も一応、土の精霊であるアトスを召喚した。
「よし、アトス頼む、なんとか通れる道を作ってくれ。」
アトスとシェリアの召喚した上位精霊が道を掘っていると、もとの入り口にあった飾りの金属がアトスの頭上に落ちてきた。
「あいたっ!」
アトスが小さい悲鳴をあげた。
「大丈夫か?って、そういえば、精霊も死んだりするのかな?」
という高志の疑問にシェリアが答えた。
「いや、精霊は死ぬことはない。致命的なダメージを受けると、肉体の維持が出来なくなるが消えるわけじゃない。精霊によって差はあるが、大抵は数日もすれば元に戻る。」
「なるほど。」
(・・・敵が精霊を召喚しても手加減無用ってことか。)
「ただし、そういった事が頻繁にあると、精霊との契約が切れてしまうのか、二度と召喚できなくなってしまう場合があるから注意は必要だ。」
「なるほど。」
(・・・精霊も酷使されれば、仕事しなくなるってことか。)
そんな話をしている間に外まで掘り進むことができた。
5人が外に出たところで、元々警備をしていた兵士や、来るときには見なかった数名の兵士がおり、その兵士に見つかった。
「あっ、どうしてこんな・・・。」
兵士の一人が思わず漏らしてしまう。
「ほぉ、貴様。私がここにいることが不思議なようだな? どういうことか説明してもらおうか!」
リースが凄むと、その兵士は更に慌てだした。
「ちっ、仕方ない。相手は女子供が5人だ、やっちまえ!」
気の強そうな兵士がそう声を掛けると、他の兵士達も覚悟を決めたように抜刀する。
(・・・いやぁ、子供にみえるかもしれないけど、こうみえて30なんだよね。)
と、高志は心の中で呟いた。
そして、高志達も負けじと抜刀する。
シェリアとサリーは呪文を使うべく詠唱に入る。
(・・・相手もそんなに多くないけど、とりあえず、切り込んで兵士達の注意を引き付けよう。ついでに、あの魔法を試してみるか。)
そして、高志は呼吸を早くし、自分自身が早くなるように意識を集中した。
自分自身を加速させたのだ。
すると、数秒だけ自分以外の動きが遅くなったように見えた。
(・・・案外簡単に出来ちゃったな。だけど、倍率の調整と維持するのは難しそうだな。)
最初に3秒ほど加速することはできたようだったが、兵士達に斬り込んでしまった後は、戦闘に集中することになり、なかなか加速に集中することができなくなってしまっていた。
そんな状態でも戦闘は進んでいた。
高志の目論見通り、兵士達の注意は高志に向けられた。そして、その間にシェリアとサリーの魔法や、ミンクの攻撃で兵士達は倒れていく。
リースも防戦だったがそれなりに善戦していた。
一方、高志の攻撃は相手がまともそうな人間であるためか、なかなか致命的な一撃を与えられずにいた。
人間相手では、まだ殺す気で斬りかかることは出来ないようで、心のどこかで致命的な攻撃にならないようにとしているらしく、結果的にほとんどの攻撃が当たっていない。
そんなとき、兵士の一人が魔法を使ってサリーを攻撃した。
「きゃっ!」
サリーが短く悲鳴を上げる。
幸いにも、事前にシェリアが防御の付与魔法を掛けていたお陰で、致命的なダメージにはならなかった。
だが、それを見た高志は、サリーを攻撃した兵士と、自分自身のふがいなさに怒りを覚えた。
(・・・くそっ、やらなきゃ、やられるのは俺だけじゃないんだ。ここで手加減するってことは味方を危険にさらすのと同意義だ。やらなくちゃ、こっちがやられるんだ。)
そして、吹っ切れたかのように兵士達に斬りかかった。
今度は加速魔法を使った。
すると、今度は数秒で途切れることはなく、かなりの間、加速することができた。
(・・・今度は前ほど意識的にやっているわけじゃないのに長く続けられるな。呼吸ってのはあくまでも感覚的な話ってだけか。どちらかというと感情に左右されやすいのかな?)
しばらくすると兵士達は全て倒された。
逃げ出そうと背を向けた兵士もいたが、サリーとシェリアの魔法の餌食となっていた。
「これは思ったより深刻な事態かもしれないな。私はこれから行かねばならぬところがある故、これで失礼する。今日は助かった、近いうちにまた力を借りたい。」
そう口早に言うとリースは急ぎどこかへ行こうとした。
だが、すぐに思い直したように振り返った。
「そうだ、忘れていた。礼代わりにこれを受け取ってくれ。ちゃんとした礼はまた今度時間のあるときに。」
リースはそう言って袋を差し出した。
高志はそれを受け取ると、リースは今度こそ、走り去ってしまった。
残された4人は一瞬、呆然と立ちすくむ。
なんとか気を取り直して、「これ、何だろう?」と、言いながら袋をあける高志。
「王家のお礼ってことは相当凄いものが・・・。」
期待する4人の前に現れたのは、飴だった。
それは、最近店で売り始めた新商品で、いわゆるキャラメルだ。
砂糖を煮詰めて作ったもので、色々なフルーツを混ぜているものもある。
「・・・これ、どうみても、うちで売ってるやつだよね。」
と高志が呟くと、他の3人は無言で頷いた。
「で、でも、やっぱりリースちゃんの秘密は美味しいものを隠しもっていたことだったのだ。女の勘は当たってたのだ。」
と、満足げにミンクは言っていたが、誰もそれに反応する気力はなかった。
(・・・ま、まぁ、王家ご用達のお店になれたって考えればうれしいような気もするな。)
と、心の中で自分を慰める高志であった。