第二十六話
前回の舞台裏というか、ライバルの紹介的な内容です(´・∀・`)
商人のクラークはその日、グリディー商会を乗っ取った後、一人で部屋にいた。
「あと少し、あと少しで俺の復讐は・・・。」
と、人知れず独り呟き、過去を振り返るのだった。
それは10年程前の話に遡る。
~~~~~
当時クラークは小さな町、ドルムの商人だった。
クラークはこのドルムで生まれ育ち、大きな苦労もなく平和に過ごしていた。
人とは一つだけ違うことがあった。それはクラークには物心ついた頃から特殊な力を持っていた。
どのような理由でなのか分からなかったが、意識を集中して見ることで、物の価値を数値で見ることができた。
しかも、それは成長するにしたがい、対象範囲の距離は伸び、更に詳細に見えるようになったのだ。
武器であればその攻撃力、防具であれば防御力、動物であれば、体力や、魔力、そして攻撃力、守備力など。
その能力もあってか、クラークはまだ若いながらも商人として成功を収めつつあった。
また将来を誓い合った幼馴染のキャシーとも順調で、来月には挙式を挙げる予定だった。
まさに順風満帆な時期だった。
その日は、商売もそこそこにクラークはキャシーと二人でデートを楽しんでいた。
もっとも、洒落た娯楽施設があるわけでもないので、それほど特別なこともなく、二人で散歩する程度のことだったが。
異変は突然起こった。
カンカンカンとけたたましい音が町中に響き渡る。
それは非常事態が発生したときに鳴らされる鐘の音だった。
小さな町ではあるが、村と呼ぶには不相応なほどに人口も多い。
そんな町に盗賊が強襲を掛けてきたのだった。
もっとも、通常であれば並みの盗賊団などは町の警備兵に撃退されるのが関の山だったが、今回は何故か盗賊の数が多く、警備兵も防戦一方だった。
元々、強固な城壁のようなものもないため、入り口の警備を固めても、そのほかの場所からいくらでも入り込む余地があるので、盗賊達も入り口で警備兵を引き付ける役と、実際に町の内部に侵入し略奪を行う役で分けていた。
クラークもキャシーを連れて急いで避難しようとしていた。
悲鳴や魔法による爆音、剣戟の音で町が覆われる中、二人は逃げ回っていた。
「まずいな、だいぶ町の中に入り込まれてしまっている。ひとまず領主の館に向かおう。あそこなら守りも堅いはずだ。」
「でも、盗賊の方が強いなら、領主様のところはかえって危険なんじゃない?」
キャシーは心配そうに尋ねる。
「領主様の私兵まで倒されるようならどこに逃げても駄目だろう。それに、町の警備兵全てと、領主様の私兵まで倒すほどの戦力もそこまではないように”見える”んだ。」
と、クラークが答えると、キャシーは納得したようだった。
クラークが先導するように領主の館に向かって走り出した。
不思議と途中で盗賊と遭遇するようなことはなかった。
「よし、あと少しで領主の館だ。頑張れ。」
クラークが息の上がっているキャシーを励ましつつ、走る。
しかし、数秒後、クラークは足を止めてしまう。
「何だこれは。」
領主の館は壁に囲まれており、入り口には避難してきた町の人々が集まっていた。
入り口は閉ざされており、町の人々も入れない状態であった。
「中に入れろー!」
「ふざけるな!何の為に税金を払ってきたと思っているんだ!」
「町人を何だと思ってやがる!」
入り口付近では、町の人々が口々に領主の館に向かって罵声を浴びせている。
「くっ、まずいな。このままだと盗賊に襲われるかもしれない。」
クラークは焦った。戦力的に見れば町の警備兵だけで盗賊を撃退するのは不可能に見えるし、領主の私兵は数こそ少ないものの、戦力的には町の警備兵と互角かそれ以上とみていた。
恐らく町の警備兵と領主の私兵が動けば、盗賊を撃退しようとすれば可能だろうとクラークは判断していたが、まさか肝心の領主の私兵が引き篭もっているとは思わなかったのだ。
「今から町の外に逃げるか? いや、もう手遅れか。」
その頃には町のいたるところで火の手があがっており、今から町の外に逃げるというのは難しいように思えた。
「だ、大丈夫よ。きっとこのままここにいれば、盗賊達も無理をしてまで領主の館を襲ったりはしないでしょう?」
キャシーは動揺しながらも、クラークに話かける。
「そうだな。一応、館の壁には弓兵もいるみたいだし、壁の外側とはいっても、ここなら安全かもしれないな。」
館の壁には塔になっている部分が一箇所あり、そこには弓を持った私兵が二人ほどいるようだった。
それでも希望的観測だったが、今から町の外に逃げ出すよりはマシなように思えた。
そもそも、今から盗賊達に見つからないように町の外に逃げる体力も残されていないという問題があった。もっとも町の外に逃げたところで、隣町にまで辿り着けなければ野たれ死ぬだけだが。
だが、しばらくした後、領主の館の入り口にいる人々は絶望することになる。
町を襲い、適当なところで引き上げるつもりであった盗賊の頭目は、領主の私兵がでてこなかったこともあり、欲がでてきてしまっていた。
町の警備兵はほぼ全滅させており、味方の損害も思ったよりでていなかった。
このまま町を占領できてしまうのではないか?と思えるようになってしまったのだ。
「よし、おめーら!このまま領主のお宝も頂いちまうぞ!」
この一言で、略奪行為をしていた盗賊も、警備兵を相手にしていた盗賊も領主の館に押しかけることになった。
「まずい、盗賊達がこっちに集まりつつあるな。」
クラークは町の盗賊達の動きを察して焦りつつあった。
「くそっ、領主がまともならこんなことにはならなかったのに。」
誰かがそう呟いた。
そんな中でも無情にも時間は過ぎ徐々に盗賊達が集まってきていた。
町人達も、もはや逃げようにも逃げられず、盗賊と領主の館の間で板ばさみの状態になっていた。
そしていよいよその時が迫っていた。
「よし、まずはあそこの弓兵を落とせ!」
盗賊の頭目がそう言うと、弓を構えた盗賊が一斉に矢を放ち、見事に領主の私兵を射るのだった。
領主の館の私兵も応戦はしたが、地理的にいくら有利であっても多勢に無勢であった。
数名の盗賊を道連れにしただけであった。
弓兵という障害もなくなり、盗賊達は、あとは壁を壊して突入するだけの状態となった。
町人達もいよいよ観念せざるを得ない状況で、中には泣き叫ぶ者、領主に罵声を浴びせる者、観念して神に祈る者、様々だった。
そして盗賊の頭目が突撃の指示を出そうとしたとき、それは起こった。
急に盗賊達の背後から悲鳴が上がった。
そして、赤い鎧をまとった一人の騎兵が盗賊達の間を駆け抜け、悠然と人々と盗賊の間に立ち塞がり、盗賊に向かって叫んだ。
「罪無き人々を襲う盗賊ども、己の罪をその命をもって贖うがいい! フレイム!なぎ払え!」
すると、騎士の前に身の丈3メートル以上の一人の巨人が姿を現した。
その巨人は炎を纏っており、見る人が見れば、その正体が炎の上位精霊であることがわかっただろう。
これには盗賊達も一瞬動揺したが、次の頭目の一言で我にかえる。
「馬鹿野郎!相手は一人だ、ビビるこたぁねぇ!やっちまえ!」
だが、盗賊達はたった一人の巨人と騎士に翻弄されることになる。
炎の上位精霊は当然だが、騎士のほうも圧倒的な力をもっており、盗賊達は成すすべも無く倒されていった。
「矢を浴びせろ!騎士はただの人間だ、矢でしとめろ!」
と、盗賊の頭目も指揮していたが、矢はなぜか騎士に一本もあたらなかった。
矢のほとんどがなぜか強風にでも吹かれたかのごとく、騎士から逸れて当たらず、近距離から放つ力強い矢も、そのことごとくが剣でなぎ払われた。
そして戦況は更に一遍する。
「全騎兵、突撃!」
盗賊の後方からその突然の叫び声があがり、10名を超える騎兵が槍を構えて盗賊達に突撃を始めた。
これが致命的となり、盗賊達は徐々に討ち取られることになった。
町の人々は何が起こったのか把握は出来なかったが、自分達が助かったことだけは分かり、歓喜に打ち震えた。
最初に現れた赤い鎧をまとった騎士に、一人の騎士が近づいて、怒りつつも呆れながらこう囁いた。
「兄上、このような無茶なことはおやめください。もしものことあったらどうするのです!」
「我が民が襲われているのに、無茶の一つもしないでどうする? それにこの程度のことで俺は死にはせんよ。」
そう言って、赤い鎧をまとった騎士は笑いながら答える。
「領主コルマークよ、門をあけよ!」
騎士の一人がそう叫ぶと、表の騒ぎを察していたのか、すぐに門は開き、中から領主コルマークその人が現れた。
「自身の領民が襲われているというのに、貴様は何をやっていたのだ!」
赤い鎧の騎士が叫ぶ。
「こ、これはシテン国王様、このようなところにわざわざお越しいただ」
「前置きはいい!質問に答えよ!」
領主コルマークの言葉は、赤い鎧の騎士、シテン国王のの叫びで遮られる。
「も、申し訳ありません。返す言葉もございません。」
コルマークは土下座してシテンに許しを請う。
「追って沙汰を出す。それまでに荷物をまとめておくがよい。」
そして、その時になって、町の人々もようやく、自分達を救った騎士が国王シテンその人であるとわかった。
あるものは歓声をあげ、あるものは平伏し、感謝をささげる。
「この人が、国王様が・・・。」
自分達を見捨てた領主とは違い、自ら進んで戦場に立ち、民を守ろうとした英雄王。
クラークは、このときシテン国王の虜となったといってもいいほど、憧れと尊敬の念を抱いた。
「キャシー、俺は・・・王都に行こうと思う。」
そう、呟いた。
「ふぅ、仕方ないわね。」
すぐにキャシーは返事を返したため、言い出したクラークも呆気に取られる。
「あなたは昔から言い出した聞かないでしょ?」
と、ため息交じりに言うキャシーであった。
その後、クラークとキャシーは王都に移住し、そこで商売を続けるのだった。
だが、8年後、クラークは大切なものを2つ失うことになる。
尊敬するシテン国王と、愛する妻キャシーだ。
キャシーは一人で帰省した際に、町が再び盗賊に襲われたのだ。
新しい領主は再び門を閉じ、町の人々を見捨てた。
そして今度は英雄が現れることなく、町の人々はほとんどが殺されることになった。
以前の事件から、領主を見限り、人々は減る一方で、町は衰退し警備兵が少なくなっていた為、あっさりと全滅されてしまったのだ。最後は領主の私兵が盗賊を撃退することができたようで、かろうじて全滅を免れていたが。
クラークが駆けつけたときには、既に襲われた町人達の埋葬まで終わっており、死体にすらあえなかった。
それ以降、クラークは、領主は無論のこと、無能な権力者に対しても憎しみを募らせていた。
そしてその憎しみを原動力にしてか、愛する妻を失った悲しみを忘れるためか、仕事に打ち込んだ。
手段を選ばず、利益や出世のために汚いこともやった。
更に元々の能力や実績もあり、僅か1年でグリディー商会の幹部にまで登りつめた。
そして更に1年後、今回の事件が起こり、クラークは新たな英雄と出会うことになる。
最も、前回ほどドラマティックな出会いではなかったが。
その日、クラークは一人の部下に指示を出し、事前に教会に赴き、人質を取るように指示していた。
以前のクラークであれば、そのような卑劣な行為は絶対にしなかったであろう。
だが、復讐にとりつかれているせいか、自分の力、権力を増強しようと躍起になっており、自分が見えていない状態だった。
グリディーの屋敷から部下を伴い、クラークは教会を目指していた。
その日は曇り空の為、月明かりもなく、かろうじて家々の明かりなどで道が見える程度の明るさだった。
クラークは、途中で部下達の数を確認すべく能力を使い辺りを見回した。
そんなとき、ふと夜空を見上げると、そこで恐ろしい数字が目に入った。
かつて、こんな数字はみたことがないというほどの防御力、おそらく上位のドラゴンにも匹敵するであろう攻撃力。
そんな数字が何もいないはずの夜空に浮かんでいたのだ。
更に恐ろしいことにその数字の持ち主は、明らかにクラーク達をつけてきている。
クラークは、動揺を抑えつつも、計画通りに事を運ぶことにした。
正直なところ、自分の能力がおかしくなったか、こんな能力を持った者が存在するとしたら、そんな相手に小細工は通用するとは思えず、このままやるしかないと思ったからだ。
そして、クラークはその恐るべき力の持ち主と相対することになった。
内心、真っ向勝負になることを恐れていたクラークだったが、うまく話を進めることでその場を切り抜けることに成功するが、ここ2年間の自分に憤りを感じるきっかけとなった。
前回のように英雄に守られる存在としてではなく、英雄に対峙する者としての出会い。
それが新たな英雄との出会いだった。
~~~~~
「本当なら復讐など忘れて、新たな英雄に協力してこの国を建て直すのに尽力すべきなのかもしれない。だが今の俺では、その資格もないだろう。」
そして新たな英雄について思いを巡らせる。
「純粋に英雄に憧れる俺は、もういないのだな・・・。」
クラークの悲しく呟く声が部屋に響くのだった。
次回は本編に戻ります(`・ω・´)