第十一話
なんとか間に合った(;´Д`)
仕事とゲームの誘惑おそるべし!(ノ∀`)
高志がヒーローとして活躍した翌日、サリーと一緒に宿屋の食堂で朝食をとっていた。
結局買い物もできていなかったので、改めて買い物と冒険者ギルドに行こうと考えていた。
「今日はこの後、買い物と、冒険者ギルドに行こうと思ってるんだけど、サリーはどうする?」
「私も冒険者ギルドには行こうと思っていたので、一緒にいきます。何かお母さんの手がかりがあるかもしれないから。そのあと、昨日はほとんど買い物が出来なかったので、今日はゆっくり買い物しようと思ってます。」
「分かった。じゃあ、先に冒険者ギルドに一緒に行こう。そのあとは現地解散でそれぞれ買い物にいくってことでどうだろ?」
「はい。では支度が終わったら宿の入り口にいってますね。」
その後、高志は自室に戻り、支度するようなものもなく、窓から外を眺めていた。
(・・・やっぱ、これからは正体不明のヒーローとしてやっていくべきなのかなぁ。下手に正体がバレると色々と言い寄ってくる輩もいるだろうし、色々面倒になりそうだもんなぁ。それに悪人からは恨みを買うことになるだろうから、下手したら犯罪組織に狙われて暗殺とかされかねない。うぅ、そう考えると正体は隠しておいたほうが無難だな。)
と、仕返しを恐れて正体は隠すことに決めた高志だった。もっとも、今の高志をこの世界の人間が暗殺するというのは不可能に近いだろうが。
しばらく色々と考えてボンヤリとしたあと、高志は宿屋の入り口へ向かった。
まだサリーは着いていなかったが、しばらく待っていると、サリーもやってきた。
「お待たせしました。」
「いえ、私もちょっと前に来たばっかりです。あ、あとコレを渡しておきます。何かあったら、その紐を思いっきり引っ張ってください。」
と言って防犯ブザーをサリーに渡した。
「これは一体・・・?」
「まぁ、ちょっとしたお守りみたいなものです。その紐を引っ張ると大きな音が出ます。昨日みたいなことがあったら、それを使ってください。」
高志は昨日のようなことがまたいつ起きるとも限らないので、昨夜のうちに考えておいた対策だ。この防犯ブザーはただ音がでるだけでなく、本来であれば衛星に現在地を知らせたり、通報する機能等もあったのが今はそれは使えない。代わりに、高志に直接警告を送るように設定している。今使える機能としては大したことはないが一応、天才が作ったオリジナル品だ。
実は、小型のトランシーバーと、どちらにしようか悩んだのだが、携帯電話すらないこの世界の街中で独り言を言ってると、どうにも変だろうと思い、こちらにしたのだった。
「もしも、間違えて引っ張ってしまったら、ここを押して下さい。音が止まって紐が巻き戻るので。」
といって、防犯ブザーのボタンを指差す。
「分かりました。もしもの時は使わせて貰いますね。」
「ええ、あとかなり大きい音がでるので驚かないように。」
「タカシの国には本当に色々なものがあるんですね。」
と、サリーは感心しているようだった。
「では、そろそろ行きましょうか。」
「はい。」
二人は冒険者ギルドへと向かった。
場所はなんとか昨日のうちに調べてあったので、迷う事無く辿り着けた。
「さて、とりあえず、冒険者の登録とかをしてきます。ついでに、すぐに出来そうな依頼があればやってくるかもしれないけど。」
「じゃあ、私は依頼を出そうかと思っているので、ここで解散にしましょうか。」
サリーは母親の捜索依頼を出すようだった。もっとも、写真すらないこの世界で赤の他人を探すのはかなり無謀だろう。それを分かっていても、僅かでも可能性があればそれに賭けたくなるのは人情だろうか。
「それじゃあ、また後で。」
高志はサリーと別れたあとにギルドの受付に行った。
「すみません、ギルドに登録したいのですが、どうすれば良いのでしょうか?」
「では、あちらの登録受付窓口にいってください。」
受付のお姉さんは、そういって一番奥の窓口を指した。
高志がその登録受付窓口に行く途中で、他の窓口等をみると、色々な受付窓口があるようだった。
大きく分けると、依頼をする方と依頼を受ける方、そして報酬の引渡し窓口の3箇所だ。ただ、一番が人が多く集まっているのは、窓口ではなく、何といっても依頼掲示板の辺りだろう。
依頼掲示板はあとで詳しくみることにして、とりあえずは登録を済ませることにした。
登録受付窓口にいくと、ちょうど良いタイミングだったのか幸い待ち時間無しで受付してもらうことができた。
「すみません、登録をお願いしたいのですが。」
「あいよ。じゃあ、職業カードがあれば出して頂戴。」
愛想がよさそうなおばちゃんが受け付けてくれた。
高志が言われた通り、職業カードを渡すと、おばちゃんが驚いた。
「あれま、あんた英雄なんだねぇ、珍しい。」
「珍しいのですか?」
「そりゃあ、昔は結構な人が英雄になってたらしいけど、あまりのLVの上がらなさに次々とやめていっちゃったからねぇ。今じゃ、滅多になる人はいないよ。」
「え、そうなんですか?ギルドの依頼とかでもLv上げれるんですよね?」
「一応、そうだけどねぇ。英雄の場合、ギルドの依頼じゃなかなか上がらないって噂だよ。だから結局は不人気職業になっちまったのさ。逆に依頼じゃなくても村の危機を救ったとか、ドラゴンを倒しただとかなら、かなり上がるらしいんだけど、そんなのは滅多にあるもんじゃないしねぇ。」
「うぅ・・・そうなんですか・・・。」
(・・・そんな話聞いてないよ・・・。)
「まぁ、大丈夫、アンタならなんとかなる!アタシの勘がそういってるよ!」
「は、はぁ、ありがとうございます。」
「じゃあ、ちょっと手続きしとくから、暇だったら依頼掲示板でも見といでよ。」
「分かりました、では、よろしくお願いします。」
「あいよー。」
こうして、高志は依頼掲示板を見ておくことにした。
そこで、衝撃だったのは、この世界にも平仮名、漢字の他にも、カタカナ、英語が存在するということだった。
(・・・なんでこの世界は地球と同じ言語があるんだろうか、まぁ、ありがたいっちゃありがたいけど。考えても仕方ないか、とりあえずは考えないことにしておこう。)
依頼掲示板には、4種類のエリアがあった。
4つのエリアはそれぞれ討伐系、採取系、護衛系、雑用系となっており、高志は、それぞれを簡単にみていった。
討伐系はなんとなく高志がみても理解できるものだったが、採取系のほとんどは知らない単語ばかりで受けるのは難しそうだった。護衛も、知らない地名ばかりで、ほとんど分からなかった。
そして、残った雑用系については、人探しや、借金の取立て等様々なものがあった。
一通り見たあとに、受付に戻ると、手続きが終わっていたらしく、おばちゃんが声を掛けてくれた。
「手続き終わったよー。依頼受けるときは、窓口に職業カード出すようにしておくれ。」
「分かりました。」
その後、おばちゃんから色々と注意事項等の説明をみっちりと受けた。
どうやら、たまたま今日は他に登録する人もいなかったため、暇だったようだ。
そこで過去の英雄についての話も聞けた。
ここ最近で英雄として大成したのは30年前に一人いただけだという。その英雄はたまたま自分の村に帰ったときに、村が山賊に襲われていたところを、不意をついて山賊の頭領を倒し、追い払って村を救ったことで、一気にLvが上がったのだとか。そのあとは強力なモンスターを倒したりで一気に有名になったそうだ。
だが、その英雄も最近は全く姿をみせていないらしい。ドラゴンに挑んで負けただとか、遠い異国に旅立った等の噂があるらしい。
余談だが、その英雄が活躍していた時期は、英雄がちょっとしたブームになったらしいが、それでも有名になるような英雄は生まれなかったのだとか。
「色々とありがとうございました。」
「あいよ!アンタが活躍する日を楽しみにまってるよ。」
こうして、高志は受付を後にした。
(・・・依頼掲示板をもうちょっとみてみたいけど、その前にお昼にしよう。)
高志は外に出て、飲食店を何箇所か見て回っていた。
(・・・・結構色々な食べ物があるんだなぁ。流石にハンバーガーとかはないけど、肉を串焼きにしたのとかおいしそうだなぁ。)
辺りは昼時だったこともあり、それなりに盛況で、おいしそうな匂いが辺りに溢れていた。
高志は食べながら歩けるように、串物をいくつか買っていた。
串に刺さった肉は豚肉のようで、他にもネギらしき野菜が肉と交互に刺さっていた。
飲み物は果物の果汁で、グレープジュースのような紫色のジュースを買っていた。買うときにジュースは目の前で果物を絞ってくれたので新鮮そのものだ。
歩きながら飲み食いするのは行儀が悪いかとも思ったが、辺りではそれが当たり前のように、かなりの人数が歩きながら食べていたので、違和感はなかった。
日本で言うと祭りの夜のようなイメージだ。
しばらく色々と眺めながら歩いていると、大きな声があがった。
「アタイじゃねー!」
「とぼけるな! お前が盗ったに決まってる!」
見ると、大人が3人と子供2人が諍いを起こしていた。身なりの良い大人の男が、汚れた格好をした子供の腕をつかんでいた。
周りの野次馬達は「また貴族様の横暴か」等囁いていた。
「それなら、証拠を出せよ、証拠を!」
「フンッ!どーせすぐどこかに隠したのであろう!こいっ!役人に突き出してやる!いや、それよりも奴隷として働かせてやるか。」
と言って、卑しい笑みをこぼす。
「やめろー!姉ちゃんを放せー!」
恐らくは言い争っている子供の弟なのだろう、姉を取り戻そうと必死だ。
「よし、お前達、コイツらを連れていけ!」
恐らくは、男の護衛か召使いなのだろう、体格の良い男が二人で子供を連れて行こうとする。
「ちくしょー!離しやがれ!」
子供は暴れるが成すすべも無く連れて行かれそうになる。
その時、空から大きな声が聞こえた。
「待ちたまえ!」
「な、なんだ!?」
男達は動揺した。この国では貴族に意見するような平民はいないというのもあるが、空から声が聞こえたのだ。普通はありえない。
すると、空から変身した高志が降りてくる。
登場パターンは前回と同じだ。
「き、貴様・・・、貴族である私に意見するのか!?」
「無論だ。相手が誰であろうと、関係ない。」
高志は平然と答える。
「な、生意気な!」
「さて、この子供達が何をしたのか説明してもらおうか?」
「フンッ、そのガキ共が、ワシの財布を盗んだのだ!だから役人に突き出してやろうしたのだ。」
「では、この子供達が盗んだ瞬間をみたのか?」
「みる必要なんぞない。さっきまでワシの胸のポケットにしまってあったのだからな。それが今はない、近くにこのガキ共がいた。つまり、このガギ共が盗ったというわけだ。」
(・・・盗った瞬間をみたわけじゃないのに、何でこんなに偉そうで断定的なんだか。)
高志は呆れつつも、金属サーチを起動した。子供達にはほとんど反応がなかったが、貴族らしき男の腰の辺りから多くの反応があった。
「では、少し失礼する。」
「な、なんだ、貴様!」
そう言って、高志は、貴族の腰のポケットを漁ると、中から財布がでてきた。
「あ。」
貴族が思わず漏らした。
「どうやら、財布をしまった場所を勘違いしただけのようだな。この子供達は無罪だろう。違うかい?」
「クッ、き、貴様、覚えておれよ!貴族に恥をかかせてタダで済むと思うなよ!」
そう叫ぶと貴族達は早々に去っていった。
野次馬達からは小さな歓声があがる。
「あ、ありがとう。」
子供達はそろって、高志に礼をいう。
姉の方は、照れているのか、一応礼は言っといてやる的な態度で、弟の方は心の底から感謝するような感じだった。特に弟の方は、目を輝かせながら高志を見ており、まさしくヒーローに憧れる少年といった感じだ。
「気にすることはない。ヒーローとして当然のことをしたまでだ。」
そう言って、高志は子供達から少し離れてから、空に飛び上がり、遠くへ消えていった。
野次馬の中には、前回の高志をみている者や、噂を聞いていた者がおり、ヒーローが再び現れたことで更なる噂が広がることになる。
ここ最近は大きな事件もなく、退屈だった王都では、ヒーローの話題で持ちきりになるだろう。