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書けない夜
今回は家での場面です。
外で会う時間と、書いている時間が少しだけ繋がります。
夜、机に向かう。
ペンを持つが、進まない。
ホームでの会話を思い出す。
たいしたことは話していない。
覚えている必要もないはずなのに、細部だけが残る。
寒いと言った声。
二駅分の沈黙。
「……なんなんだろ」
特別仲がいいわけじゃない。
約束もない。
連絡先も知らない。
なのに、物語を書くときだけ、なぜか浮かぶ。
ノートを開く。
主人公が駅に立っている場面を書く。
誰かを待っているわけでもないのに、帰らない。
その理由を書こうとして、止まる。
分からない。
自分でも分からない感情を、登場人物に与えられない。
ページの最後に、空白が残る。
最後の一文を書く場所。
書けないまま閉じた。
窓の外を電車が通り過ぎる音がする。
明日も、たぶん会う。
だから今日は書かなくていいと思った。
――まだ続く関係だと、思っていたから。
書けない理由が、まだ本人にも分かっていない段階です。
物語は進んでいないのに、何かだけが残っていく回でした。




