同じ方向
少しだけ会話が増えます。
でも、仲が良くなるわけではありません。
この距離のまま続いていく感じを意識して書きました。
夕方のホームは、人が多いわりに静かだった。
電車が来るまでの数分間、みんな自分の足元だけを見ている。
俺もその一人だった。
線路の奥を眺めていると、隣に誰かが立つ気配がした。
見なくても分かる。彼女だ。
「……帰り?」
先に声を出したのは俺だった。
聞く必要のないことを聞いてしまったと、言った後で思う。
「うん」
それだけ返ってくる。
会話が止まる。
電光掲示板が切り替わる音だけが鳴る。
「部活は?」
「今日はない」
「そっか」
また終わる。
別に気まずいわけじゃない。
でも自然でもない。
他の友達と話すときみたいに、言葉が続かない。
電車が近づく風がホームに流れ込む。
「小説、書いてるの?」
突然、彼女が言った。
「……まあ」
「どんなの」
「決まってない」
嘘ではないけど、説明する気にもなれない答えを返す。
彼女はそれ以上聞かなかった。
ドアが開く。
並んで乗るでもなく、少し距離を空けて車内に入る。
座席も一つ分空けて座った。
窓に映る自分と、斜め向かいの彼女の姿が重なる。
話さなくても問題はない。
でも、完全に無関係でもない。
そんな位置だった。
特別なことは起きていない回です。
ただ同じ電車に乗るだけの関係が、少しだけ形を持ち始めた気がしています。




