独白 ――エレノア・レイベルン
重厚な扉の奥、レイベルン家の私室。
夜のランプの淡い光が、緑のドレスの刺繍を静かに照らしている。
エレノアは、机の上に置かれた薄い紙束――
アーガスノルンから届いたレポート"管理区域個体-実績報告書"を、最後の一行まで読み終えた。
「……ふふ」
思わず、笑みがこぼれる。
胸の奥にあった曖昧な感覚が、
今、はっきりと形を持った。
――やはり、そう。
私は間違っていなかった。
迷いも、罪悪感も、あれはすべて無駄な感情だったのだ。
「“準協力者”…“管理者候補”……」
指先で文字をなぞる。
王族から与えられた称号よりも、
この冷たく合理的な評価のほうが、よほど心地よい。
「選ばれたのは、私」
貴族は多い。
だが、“理解している”貴族は、ほとんどいない。
正義を語る者は、現実を見ない。
慈悲を口にする者は、責任を取らない。
でも私は違う。
人は、使えるか、使えないか。
それだけでいい。
窓の外に目を向けると、
遠くに王城の灯りが見える。
エレノアは、くすりと笑い、静かに言葉を紡いだ。
「王族……ふふ」
その声には、もはや怒りはない。
あるのは、明確な上下関係の認識だけだった。
「今はまだ、あなたたちに従ってあげるわ」
彼女は、椅子から立ち上がり、
まるで玉座に向かうかのように、背筋を伸ばす。
「でも、いずれ私が――
あの方々とともに、あなたたちを」
一瞬、言葉を切り、微笑む。
「……いいえ。この世界を、統べるのよ」
その瞳に宿る光は、貴族のものではない。
王のものですらない。
「愚民どもには、理解できないでしょうけどね」
王族も、平民も。
すべては、数字であり、流量であり、資源。
選別は、すでに始まっている。
「次は……質を上げましょう」
平民の中でも、
より抵抗し、より壊れにくい個体を。
狩りは、遊びではない。
未来への投資だ。




