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王城・監査塔

王城の最上階、外界から切り離されたように静かな円形の部屋で、光の幕が展開されていた。

空中に浮かぶのは、王国全土のマナ流量監視図。


「……この波形、見覚えがあるな」


王太子アルディウスは、低く呟いた。

彼の視線の先、南部森林地帯の一点が、不自然に明滅している。


「はい。狩りです」


答えたのは、王女セリナだった。

彼女は感情を排した声で、淡々と報告を続ける。


「マナ反応が、短時間に複数消失。

 同時に、レベル3の魔法使用痕跡が確認されました」


「貴族か」


「レイベルン家です。主導は、長女エレノア・レイベルン」


その名が出た瞬間、部屋の空気がわずかに重くなる。


「また、あの娘か……」


王太子の背後で、年老いた王が杖に手を置いたまま、目を閉じた。


「王命で禁止したはずだ。

 人身売買と“無闇な魔法行使”は」


「形式上は、違反していません」


セリナは、冷静に言い切った。


「彼女は、“犯罪者の捕縛訓練”と申告しています。

 同行した貴族達も、記録上はすべて合法行動です」


「――記録上、か」


王は、苦々しく笑った。


「だが、実態はどうだ?」


「何らかの経路で入手した人間を森に放ち、貴族達が魔法で追い詰める。

 過剰なマナ行使により、少なくとも一名が昏倒。

 その後、不良債務者となり処理されたと。」


沈黙が落ちた。


「……献上品、か」


王太子は、その言葉を噛みしめるように繰り返した。


「魔族への?」


「恐らく。」


王は、ゆっくりと目を開いた。


「つまり――

 貴族が人を狩り、

 魔族がそれを受け取り、

 我々は“把握しているだけ”というわけだ」


誰も反論しない。


「民は、これを知っているか?」


「いいえ。

 不良債務者階層の消失は、

 平民には、数字としてしか見えません」


「数字……」


王太子は、拳を握りしめた。


「父上。

 このままでは、王家はただの傍観者です。」


「分かっておる」


王は静かに言った。


「だが、今、レイベルン家を粛清すればどうなる?」


「他の貴族が反発し、

 魔族は“王家の統治能力不足”を理由に

 さらに介入を強めるでしょう」


セリナの言葉は、冷酷なほど正確だった。


「エレノア・レイベルンは、それを理解しています。

 だからこそ、あえて見せつけているのです」


「王族への、挑発か」


「はい。

 そして、取引の材料です」


王は、深く息を吐いた。


「……魔族に魂を売る貴族が増えれば、

 この国は、いずれ“王国”である意味を失う」


王太子は、マナ監視図を見つめながら、静かに言った。


「それでも、まだ民は生きています」


一瞬、彼の声に怒りが滲んだ。


「ならば――

 我々は、狩る側を見張るしかない」


セリナが、わずかに頷いた。


「次は、証拠を“記録上も違反”にする必要があります」


「エレノア・レイベルン……」


王太子は、その名を胸の内で繰り返した。


彼女はまだ、貴族だ。

だが、その振る舞いは、すでに――


魔族の論理に足を踏み入れている。

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