参考資料:古い記録映像
ニュース速報:アーガスノルン・コーポレーション 記者発表会
【世界同時中継:西暦20XX年 10月24日】
ニューヨーク湾に面して新設されたアーガスノルン・コーポレーション特設ホール。
ガラスと金属で構成されたその空間は、まるで未来そのものを展示する箱庭のようだった。
世界中のメディアが、ホール中央に鎮座する巨大な真空の立方体ケースに釘付けになっている。
何も入っていない――少なくとも、人間の目にはそうとしか見えない。
カメラのフラッシュが雷雨のように焚かれる中、司会者が静かにマイクの前へ進み出た。
「……それでは、アーガスノルン・コーポレーション新規材料デバイス開発部門、
ジョージ・ガーランド博士より、
『波長制御型ナノマシンおよび点状光電子デバイスを用いた空間指定電磁エネルギー発生システムの考案』
と題しましてご講演いただきます。よろしくお願いいたします」
拍手。
その音は形式的で、どこか緊張を含んでいた。
壇上に現れたのは、白髪の初老の男だった。
背筋は驚くほど伸び、眼鏡の奥の瞳だけが異様なほど鋭い。
――ジョージ・ガーランド博士。
彼は一瞬、聴衆を見渡す。
政治家、軍関係者、投資家、科学者。
そして世界中の「視線」。
博士は何も言わず、手元のタブレットを軽くタップした。
実証実験:虚空からの火花
「諸君」
低く、しかし確かな声がホールに響く。
「今日この日をもって、人類は自然界の法則を**『発見する側』**から、
**『提案する側』**へと回る」
背後の巨大スクリーンが起動する。
そこに映し出されたのは、複雑怪奇な数式の奔流と、
目で追うことすら困難な、微細な多層構造粒子の3Dモデルだった。
ガーランド博士は、真空ケースを指差す。
「ケース内には、事前に特定波長にのみ反応する
光導電・発電ナノ粒子が散布されている。
今、ここに不可視の三次元レーザー・プロジェクションを投影する」
誰かが息を呑む音が、マイクに乗った。
博士が、静かに指を鳴らす。
――次の瞬間。
何もないはずの空間の一点に、
突如として眩い**「光の球」**が凝縮された。
それは燃えているようで、燃えていない。
発光しているのに、光源が存在しない。
空間そのものが、発火したかのようだった。
どよめき。
悲鳴に近い声。
誰かが思わず立ち上がる。
「これはホログラムではない」
博士は淡々と告げる。
「ナノマシンが光を受け取り、その場で電磁エネルギーを励起させた。
――物理的な**『現象』**だ」
世界の反応
中継画面のサイドバーには、リアルタイムでSNSの投稿が溢れ出す。
『魔法だ』
『ファンタジーが現実に?』
『新時代のエネルギー革命』
『人類、やりすぎた』
だが、ガーランド博士はそれらを意に介さない。
彼の視線は、さらに深い「領域」を見据えていた。
「このシステムの本質は、空間制御にある。
波長を変えることで、エネルギーの発生位置、密度、形状を自在に操れる」
光の球は、博士の言葉に呼応するように、わずかに形を変えた。
脈打つように、生き物の鼓動を思わせる。
「我々はこの技術を、医療、建設、そして防衛における
新時代のソリューションと定義する」
一拍、間を置く。
「……だが」
博士の口元が、わずかに歪む。
「大衆は、より親しみやすい言葉を好むようだ」
次の瞬間、光の球は音もなく消失した。
そこには再び、何もない空間だけが残る。
「よろしい」
ガーランド博士は、カメラの向こう――世界そのものに向けて宣言した。
「ならば我々も、これをこう呼ぼう」
一瞬の沈黙。
「――**『魔法文明の夜明け』**であると」
ニュースキャスターの困惑
映像はスタジオへ切り替わる。
長年、戦争も恐慌も報じてきたベテランキャスターの顔が、
今はわずかに引き攣っていた。
「……ご覧いただいたのは、アーガスノルン社による衝撃の発表です」
言葉を選びながら、彼は続ける。
「同社によれば、この『魔法発生システム』を制御するためのインターフェースは、
将来的には人体への低侵襲な導入も視野に入れているとのことです」
原稿を持つ手が、わずかに震える。
「つまり――人間が考えるだけで火を起こし、雷を操る時代が、
すぐそこまで来ているのかもしれません」
キャスターは一度、カメラから目を逸らした。
「次は、この技術が株価に与える影響について……」
その言葉が終わる前に、
世界のどこかで、誰かが確信していた。
――これは技術の発表ではない。
――文明の分岐点だ、と。




