研究成果
ヴァイスは、パソコン画面から目を離し、
深く息を吐いてから部屋を出た。
目の前には、
リリア・クロイツが両手を広げて待っていた。
「主任、ついにできましたよ!
こっちに来てください!」
促されるまま、ヴァイスは、
いつもの実験室に足を踏み入れる。
そこには、リリアの笑顔があふれていた。
「私の最高傑作です。
こんなのアーガスノルンじゃ作れませんよ。
倫理安全委員会とかがうるさいですからね!
第3実験場も楽しかったんですけど、
残念ながらもうないので」
彼女の後ろでは、
ユング=フェルナー双子が
端末を眺めつつ嬉しそうに声を揃える。
「僕たちも頑張ったよ!
すごいでしょ!」
目の前には、
2体の醜悪な巨人の人形が立っていた。
人間の形を部分的に残しつつも、
その巨大さと肉の質感は、
明らかに常識の範疇を超えている。
――魔窟は、
もう研究施設ではなかった。
――そこは、
生きたままの破滅の実験場だった。
エレノア・レイベルンが
楽しげに言った。
「私達の作品、
素晴らしいでしょ?」
ヴァイスは苦笑いしながら答える。
「ああ、本当によくできてる。
素晴らしい」
その答えに、
エレノアは残念そうな顔をする。
「嘘はいけませんわ。
私達、理解者だと思ったのに」
ユング=フェルナー双子の一人が、
端末を覗き込み、言葉を発する。
「主任、このメールの送信はなんですか?
エレノア様が危険?排除するって?」
ヴァイスは思わず振り返る。
「お前達、
私のパソコンをハッキングしたのか」
リリアは、笑顔のまま答えた。
「主任、
私達の邪魔をされると困るんです。
楽園を壊さないでください」
その言葉に、
ヴァイスは背筋に冷たいものを感じる。
直感が、
警告を発した。
――この場では、
排除命令は、間に合わない。
迷いは消え、
彼はノルンシステムの自動防衛機能を即座に起動する。
「それ以上近づくな!」
しかし、エレノアは
楽しげに目を輝かせ、つぶやいた。
「ちょうど良い実戦データが取れそうね。
私達の作品と遊んでもらいましょう」
その瞬間、
2体の巨大な人形が、ヴァイスめがけて
腕を振り上げ、攻撃を仕掛けてくる。
ヴァイスは冷静に、最適なタイミングで交わす。
鋼鉄のような腕が空気を切り裂く音が響くたび、彼の目は正確に動きを追い、最小限のステップで避けた。
だが、次第に異様なスピードに息を呑む。
「速すぎる……不良債務者でこのスピードが出せるのか?」
背後で、エレノア・レイベルンの声が響く。
「違いますよ?
被験者は、私達の権限で、一度、マナレベルを6まで強制的に引き上げ、
そのままの状態で変異させたんです。
さらに、脳を弄って、常に脳の限界ギリギリの状態で、
身体強化魔法を自動的にかけ続けさせているんですよ?
素晴らしいでしょ?」
ヴァイスは震える声で応じる。
「そんな高レベルの変異体は制御できない……
いずれ暴走する!」
その瞬間、一体の巨人の腕が、
ヴァイスの身体を掴んだ。
鋼のような力で、彼の動きは完全に封じられる。
手足の自由は消え、身動きが取れなくなった。
エレノアは微笑みながら近づく。
「だから、制御可能なように、
こんな肉の塊みたいな状態でも、材料には正気を残す……
私の特製の部品が必要なのよ」
その言葉に、リリア・クロイツがにじり寄る。
「主任、心配はいりませんよ。
人間には左脳と右脳があります。
半分に分けたら、この子たちを制御できるんです!
素晴らしいですね!」
リリアの笑顔は、無邪気そのものに見えたが、
その目には狂気が宿っていた。
ヴァイスは、必死に抵抗しようと声を上げる。
「やめろ……そんなことは……!」
しかし、それも虚しく、
彼の意識は、苦悶と絶望の渦の中に呑まれていった。
その背後で、エレノアは軽やかに微笑む。
「さて、次は誰に遊んでもらおうかしら……」
魔窟飛行船の闇は、
さらに深く、狂気と絶望に塗り込められていった。




