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狂気という名の日常

エレノア・レイベルンの魔窟飛行船内部では、

今日もまた、**おびただしい数の“創作活動”**が行われていた。


彼ら自身の言葉を借りるなら、

それはすべて「実験」である。


日が経つにつれ、

研究員や技術スタッフの多くは、

この異常な環境に慣れてしまった。


悲鳴は背景音になり、

血の臭いは作業臭となり、

人の形を失ったものは、

ただの“素材”へと変わっていく。


その中心にいるのが、

リリア・クロイツだった。


彼女は微笑みながら、

エレノア・レイベルンと並び、

巨大な実験台の前に立っている。


「今日は、

どれくらい融合できるか、

勝負ですね」


リリアが楽しげに言う。


エレノアは、

少し困ったような笑みを浮かべて答えた。


「壊れにくさで言えば、

リリアさんには、

敵わないと思いますけれど」


二人は、

まるで親しい同僚のように、

声を上げて笑った。


その手元では――

生きたままの肉の塊が、

マナによって引き寄せられ、

縫い合わされ、

溶け合い、

再構成されていく。


遠目には、

それは一体の巨大な人形のように見えた。


だが、

近づけばすぐにわかる。


そこには、

人の名残が、

あまりにも露骨に残されていた。


無数の顔。

無数の手。

意識を失いきれず、

声にならない音を発し続ける器官。


ユング=フェルナー双子は、

それぞれ別の“作品”の前に立っていた。


ユングは、

リリアの人形に。


フェルナーは、

エレノア・レイベルンの人形に。


損傷を受けても、

自動的に修復される魔法を施している。


だがそれは、

完成度を高めるためのものではない。


元となった者たちの苦痛を、

より長く、より鮮明に維持するための術式だった。


「これで、

耐久性と継続性は、

ほぼ完璧ですね」


フェルナーが淡々と言う。


ユングも、

端末から目を離さずに頷いた。


「反応も良好。

感覚遮断をしない方が、

全体の安定度が高い」


それを聞いて、

エレノアは満足そうに微笑む。


「ユングさん、

フェルナーさんも、

いい仕事ぶりですね」


「理解者がいるのは、

本当に良いものね」


近くに控えていた執事ジェームスが、

深く一礼する。


「おっしゃるとおりでございます」


この場に、

主任研究員ヴァイスの姿はなかった。


魔窟飛行船・個室 ― 静かな裏切り


ヴァイスは、

魔窟飛行船内に用意された

スタッフ用の個室にいた。


銀色の壁に囲まれた、

比較的シンプルな部屋。


外の地獄が嘘のように、

ここは静かだった。


彼は、

パソコンの画面を見つめ、

淡々と文字を打ち続けている。


宛先は――

アーガスノルン本社。


内容は、

簡潔で、

しかし致命的だった。


<管理個体エレノア・レイベルンについて>

 観測および直接確認の結果、

 当該個体は

 ・倫理的制約の完全欠如

 ・快楽的創作衝動

 ・第三者の制御を前提としない判断体系

 を有している。


 ノルンシステムによる

 段階的制御は、

 すでに機能不全に近い。


 結論として、

 エレノア・レイベルンは

 制御不能。

 早急な排除対象と判断する。


送信ボタンの上で、

ヴァイスの指は、

一瞬だけ止まった。


だが、

迷いはなかった。


静かに、

送信。


画面には、

「送信完了」の表示。


ヴァイスは、

椅子にもたれ、

短く息を吐いた。


――この魔窟は、

研究施設ではない。


――ここは、

災厄の胎内だ。


そして彼は、

その中枢にいる女が、

決して止まらないことを、

誰よりも理解していた。


魔窟飛行船の中で、

今日もまた、

創作は続く。


その裏で、

破滅へのカウントダウンも、

静かに進んでいた。

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