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侵入

白銀の山脈・魔窟飛行船周辺


白銀の山肌。

吹き荒ぶ風と雪煙だけが支配する、何もない世界――

そう見えた。


だが、そこには確かに“何か”がいた。


山の斜面を、

凄まじい速度で駆け巡る一団。


足音はない。

吐息も、マナの揺らぎすら抑え込まれている。


白いローブに身を包み、

さらに幾重にも重ねられた隠蔽魔法によって、

存在そのものを世界から消し去った集団。


――ユリア率いる、エルフ部隊だった。


彼らの視界の先。

雪原の向こう、

不自然な影として、

エレノア・レイベルンの魔窟飛行船が鎮座している。


雪に半ば埋もれながらも、

その存在感は異様だった。

山そのものに食い込むように、

巨大な影を落としている。


セリナ――

かつての王女は、

静かに剣を握りしめる。


ユリアの側近、ガリウスが、

周囲を確認しながら低く告げる。


「いつでも、仕掛けることができます」


ユリアは一瞬、

魔窟飛行船を見据え――

そして、短く言った。


「私たちがやることは、変わらない」


彼女の赤い瞳が、

冷たく光る。


「私たちを切り捨てた者たちに――

制裁を」


その言葉を合図に、

一団は音もなく分散した。


複数のグループが、

それぞれの目標へ。


魔窟へ。

防衛線へ。

そして――

周辺に展開されている、

アーガスノルン社・観測班のテント群へ。


観測班テント・内部


テント内では、

魔力探知装置が規則正しく稼働し、

周辺環境のマナ変化を逐一記録していた。


だが、

ユリアたちの隠蔽魔法の前では、

それらは何の意味も持たなかった。


中の空気は、

どこか緊張が緩んでいる。


ある作業員が、

端末から目を離さずに言う。


「なあ……

ヴァイス主任、

エレノア嬢の飛行船の中の様子、

あんまり語らないよな。

どうなってるんだ?」


別の作業員が、

苛立ったように肩をすくめる。


「やめとけ。

あまり詮索するな」


「機密に触れすぎた奴が

どうなるか、わかってるだろ?」


「第9にいた、

お調子者のボブ。

噂好きだったが……

行方不明になったらしい」


それを聞いた別の作業員が、

鼻で笑う。


「触らぬ神に祟りなし、ってやつだな」


そして、

急に声を潜め、

下卑た笑みを浮かべる。


「それよりさ。

第3エリア実験場にいた、

不良債務者の娘――

最高だったな」


「研究員に知り合いがいたから、

こっそり実験処置、

止めてもらったんだよ」


「夜は、楽しめたぜ」


一拍。


「……まあ、

飽きたからさ」


「そのあと、

速攻で実験処置に戻して、

マナ暴走で変異させてやったけどな」


別の作業員が、

腹を抱えて笑う。


「お前、最悪だな!」


「俺も誘えよ!

ガハハハ!」


――彼らは、

一寸の罪悪感も持たずに笑っていた。


刹那


スパスパッ


小さく、乾いた音。


まるで、

空気が裂けるような音。


彼らの目の前に、

赤く濡れた、細い線のような糸が現れた。


一瞬、

鋼鉄製のワイヤーかと思った。


だが、

それは直後に――

霧散する。


エルフの魔法。

マナを極限まで凝集し、

糸状にした切断術式。


次の瞬間。


笑っていた作業員たち、

十数名の身体が、

ズレた。


首。

胴。

腕。

脚。


それぞれが、

別の方向へ。


バラバラの肉塊となって床に崩れ落ち、

血と内臓が、

テントの床を赤く染める。


声は、

上がらなかった。


そこに残ったのは、

沈黙と――

それを実行した、

数名のエルフたち。


白いローブに、

一滴の血も付いていない。


その中の一人が、

冷え切った声で言い放つ。


「……苦しまずに死ねただけ、

お前たちは、まだマシだ」


誰も答えない。


彼らはすでに、

裁かれた後だった。


そして、

これはほんの始まりに過ぎなかった。


魔窟飛行船へ――

ユリアの制裁が、

今、届こうとしていた。


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