旅路
軍用ヘリ・機内
――第7研究開発部 派遣編成
ヘリの内部は、
重低音のローター音と振動に満ちていた。
赤色灯に照らされた機内。
座席に固定された研究員たちと、
壁際で装備を点検する特殊部隊員たち。
二つの世界が、
同じ空間に同居していた。
■研究員区画
主任研究官ヴァイスは、
膝の上に固定したタブレットを操作している。
「なぜ、会社はここまで彼女に期待する?」
彼は独り言のように呟く。
「これまでの、管理区域個体には見られない
独自の精神構造を持っている。ノルンシステムがそう判断したのよ」
向かいに座るリリア・クロイツが、
楽しそうに笑う。
ヴァイスは頷く。
「どのような存在かこの目で確認する必要があるな」
リリアは、指先で自分の首元の
マナ制御インプラントを弄びながら言った。
「楽しみね」
少し離れた席では、
ユング=フェルナー双子が、
同時に端末を操作していた。
「ノルンシステムへの
外部干渉ログ、再解析完了」
「第5研究開発部による
バックドア使用痕跡、確定」
二人は、
一切感情のこもらない声で続ける。
「問題は、
エレノア個体が
“どこまで自覚的か”」
「無自覚な天才なら制御可能」
「自覚的な支配者なら――」
二人同時に、結論を述べる。
「管理対象外」
リリアがくすりと笑う。
「じゃあ、
もし“自覚してる”なら?」
双子は、即答した。
「解体して、再構築する」
■輸送コンテナ付近
生体サンプル用の大型コンテナから、
微かな音が響く。
誰かが、
内側から叩いたのだ。
リリアは、それを聞いて
満足そうに微笑んだ。
「生きてるわね」
「良かった。
途中で壊れたら
評価データが歪むもの」
近くにいた若い研究員が、
小さく唾を飲み込む。
「……あの、
今回の被験体って、
元は普通の村人ですよね?」
リリアは首を傾げる。
「“元”ね」
「今は、
資源よ」
■特殊部隊区画
一方、
壁際では黒い装甲の特殊部隊員たちが、
淡々と装備確認を行っていた。
隊長が低い声で指示を出す。
「魔導銃、
弾倉装填数、確認」
「対マナ遮断フィールド、
起動テスト済みか?」
部下が即答する。
「問題ありません」
「近接用ブレード、
位相刃展開、正常」
副官が、
静かに確認する。
「交戦規定、再確認」
「研究員の生命最優先」
「研究対象エレノア・レイベルンは、
原則非交戦」
■再び研究員側
ヴァイスが、
タブレットを閉じる。
「……興味深い」
「彼女は、
我々が思っている以上に
“遊び感覚”でやっている」
「それが、
最も危険だ」
リリアは、
目を細めて言った。
「ええ」
「でも――」
「だからこそ、
研究しがいがある」
ヘリは、
雲を抜け、
北の山脈へと進路を取る。
その内部で交わされる会話は、
誰一人として、
“人命”という言葉を必要としていなかった。
彼らは、
ただ――
次に観測する“現象”の話をしているだけだった。




