集められた探究者
アーガスノルン本社・地下搬入デッキ
――第7研究開発部 派遣部隊
軍用ヘリのローター音が、
地下ドック全体を震わせていた。
無機質な照明の下、
整然と並ぶコンテナ群。
その側で、白衣、スーツ、強化外骨格――
統一感のない集団が、静かに集結していた。
それが、
アーガスノルン第7研究開発部。
第5研究開発部のような狂気の天才集団ではないが、
――理屈が通る狂気。
それが、第7の本質だった。
■主任研究官:ハインリヒ・ヴァイス
白衣を着ているが、
その下は戦場対応用の軽装甲スーツ。
銀縁眼鏡の奥の瞳は、
常に数式を追っているように焦点が合っていない。
「……ふむ。
管理個体エレノア・レイベルン」
彼は、ヘリの横で端末を操作しながら呟く。
「自己進化速度、異常。
倫理制約? 既に意味を成していない」
同行する部下が、遠慮がちに尋ねる。
「主任……
今回の案件、かなり危険だと聞いていますが」
ヴァイスは、顔も上げずに答えた。
「危険かどうかは、
制御できるかどうかで決まる」
「制御できないなら、
それは“研究対象として価値がある”ということだ」
部下は、それ以上、何も言えなかった。
■生体改変担当:リリア・クロイツ
赤毛の女性。
白衣の袖からは、
皮膚に埋め込まれたナノマシン制御用の光が
微かに漏れている。
彼女は、
コンテナの一つを撫でるように叩いた。
「この中に、
エレノア様が“提供”してくださった
拉致個体が入ってるのよね?」
にっこりと笑う。
「楽しみだわ。
強制不良債務者化した人間と、
自然発生型特異個体が、
同一環境でどう変異するのか」
隣にいた技術者が、青ざめる。
「……実験、ですよね?」
リリアは首を傾げる。
「もちろん?」
「失敗例を量産する実験よ」
■魔導理論解析班:ユング=フェルナー双子
二人とも、
同じ顔、同じ声、同じ動作。
片方が言う。
「ノルンシステムの干渉率、
予測誤差が拡大しています」
もう片方が続ける。
「エレノア個体のレベル7化により、
既存の魔法階層モデルが破綻」
二人同時に呟く。
「――再定義が必要」
彼らにとって、
世界とは数式でしかない。
■治安維持部隊
武装した特殊部隊員たちが、
研究員たちを囲むように配置されている。
だが、その目は
“護衛”というより
監視だった。
隊長が、低く呟く。
「……今回の任務、
対象がエレノアだろ?」
「俺たち、
守るのは研究員であって、
“彼女”じゃないんだよな?」
副官が答える。
「上からの命令だ。
最悪の場合――」
言葉を切る。
「研究対象の排除も含まれている」
隊員たちは、
誰も否定しなかった。
◆出発
ヘリへの搭乗直前、
ヴァイス主任が、全員に向けて言った。
「勘違いするな」
「我々は、
エレノア・レイベルンを支援しに行くのではない」
「わが社にとって有用か判断するのだ。」
「管理区域個体であれなが、同じ管理区域個体を道具のように扱う。
これまで、確認されなかった貴重な個体だ。」
その言葉に、
誰一人、恐怖を示さなかった。
むしろ――
微かな高揚が、
彼らの間に広がっていた。
軍用ヘリの扉が閉まる。
ローター音が、
さらに大きくなる。
第7研究開発部は、
怪物を研究するために、
怪物の巣へ向かっていった。
その先に待つのが、
成果か、破滅か。




