略奪者の爪痕
ユリア率いるエルフの軍団は、
王都から離れたいくつかの集落を巡っていた。
――いや、
「巡っていた」という表現すら、生ぬるい。
そこにあったのは、
家屋の残骸、焼け落ちた畑、
踏み潰された生活の痕跡。
生者の気配は、ほとんど無い。
ガリウスが、地面に残る魔力の歪みを確認しながら報告する。
「……我らが放った間諜の情報によれば、
エレノア・レイベルン率いる、異形の怪物どもによって
蹂躙されたとのことです」
声を低く、抑えながら続ける。
「村人達は……
男も女も、区別なく攫われたと」
そのとき。
瓦礫の陰から、
一人の老人が、杖を突きながら弱々しく近づいてきた。
「……若いもんは、皆……連れて行かれた……」
かすれた声。
「逆らったもんは……殺されて……
老人は……“じっけん”の使いもんにならんと……」
言葉の途中で、老人は咳き込み、
それでも必死に続ける。
「……だから……
ほとんど、殺されてしまった……」
沈黙が落ちた。
その言葉を、
一歩後ろで聞いていた少女――
かつての王女、セレナは、
拳を強く握り締めていた。
爪が、手のひらに食い込む。
「……エレノア……」
低く、噛み殺すような声。
その名を口にした瞬間、
周囲の空気が、わずかに震えた。
ガリウスが、報告を続ける。
「さらに、探知魔法による情報です」
「北の山脈付近で、
極めて大きな魔力反応が確認されています」
「しかも……
一度きりではありません。
断続的に、何度も」
ユリアは、立ち止まった。
風に揺れる、鮮やかな赤い髪。
その赤い瞳が、
はっきりとした焦点を結ぶ。
「……ええ」
静かに、しかし確信をもって言う。
「気づいているわ」
ユリアは、遠く北を見据えた。
「それは――
わたしが、初めて覚醒したときと同じ魔力反応」
一瞬の沈黙。
「……エレノアで、間違いない」
ガリウスの表情が、険しくなる。
「罠です」
即座に、断言した。
「あの女は、
我々が必ず反応することを分かって、
意図的に魔力を放出しています」
「我々を――
誘っているのです」
だが、
その言葉に応えたのは、ユリアではなかった。
セレナが、一歩前に出る。
かつて王族だった者としての、
しかし今は――
復讐と責任を背負った者としての声。
「……貴族からの招待」
静かに、だが鋭く。
「答えなければ、失礼よ」
ガリウスが一瞬、言葉を失う。
セレナは、北の山脈を睨みつける。
「あちらが、
“もてなしてくれる”というのであれば――」
「こちらも、
それに応えなければ」
その声には、
怒鳴りも、涙もない。
だが――
底知れぬ怒りが、確かに滲んでいた。
ユリアは、セレナを見つめ、
ゆっくりと頷く。
「……行きましょう」
赤い瞳が、夜の闇に燃える。
「――あの女は、
ここで終わらせる」
エルフの軍団は、
静かに、しかし確実に進路を北へと変えた。
運命は、
もはや回避不能な速度で――
衝突点へと収束し始めていた。




