反逆者との対峙
雷と炎が交錯する戦場の只中で、
エレノア・レイベルンは、はっきりと“違和感”を覚えていた。
「……想定より、抵抗が激しいわね」
空中に浮かびながら、彼女は王都側の動きを見下ろす。
王族が高位魔法を使うのは、まだ理解できる。
だが——
「民衆まで……?」
市井の人間が、無詠唱に近い速度で魔法を放っている。
防御結界を張り、火球を撃ち、魔力を制御している。
それは、本来あり得ない光景だった。
「レベルが……揃いすぎている」
その瞬間。
——頭の内側に、直接“声”が割り込んできた。
《いかがお過ごしでしょうか、エレノア様。本社管制室室長の——》
言い終わる前に、エレノアは歯を噛みしめる。
「どういうことよ!」
空気を震わせるほどの怒気。
「まさか……あなた達アーガスノルンが、私を裏切ったんじゃないでしょうね?」
《こちらとしましても、現在社内で調査中でして……》
曖昧な返答。
それだけで、彼女には十分だった。
「もういいわ!」
苛立ちを隠そうともしない。
「私の管理レベルを上げてちょうだい。
この程度の世界、私が直々に支配してあげる!」
一瞬の沈黙。
《申し訳ありませんが……それほど簡単にはいかないのですよ。
……代わりと言ってはなんですが》
そこで、エレノアの唇が、わずかに吊り上がった。
「……悪くないわね」
その言葉と同時に、彼女は踵を返す。
「なら、王城を直接落とすわ」
飛行魔法が展開され、
エレノア・レイベルンの姿は、一直線に王城へと向かった。
その頃、王都内部。
レイベルンの兵が雪崩れ込み、
通路も広場も、完全な混戦状態となっていた。
王城内では——
王女セレナが、静かに立っていた。
自らの周囲に防御シールドを展開し、
手のひらから放たれる光魔法が、敵兵を次々と焼き切る。
その時。
空気が歪み、
一人の女性が、優雅に着地する。
金髪碧眼、緑のドレス。
「これはこれは……王女セレナ様」
エレノア・レイベルンは、戦場とは思えぬほど優雅に一礼した。
「ご機嫌いかが?」
王女セレナは、光の剣を構え、睨み返す。
「ここに逆賊の居場所は無いわ!」
エレノアは肩をすくめる。
「誠に申し訳ありませんが、王女様」
その周囲に、いくつもの光球が浮かび上がる。
「——ここで、お亡くなりになってください!」
光弾が、一斉に放たれる。
王女セレナは即座に反応し、
魔法で形成した光の剣で、それらを次々と弾き落とす。
衝突のたびに、空気が震える。
「どこまで耐えられるかしら……ふふ」
余裕の笑みを浮かべるエレノア。
王女セレナは、一歩も引かず、小さく呟く。
「……ステータス」
目の前に、彼女にしか見えない情報画面が展開される。
数値。
マナ残量。
環境マナ総量。
そして——
「……そろそろね」
その瞬間。
世界が、沈黙した。
魔法が——発動しない。
光が消える。
炎が立ち消える。
敵兵が手にしていた魔道具が、音もなく崩壊し、
魔法で作られた剣や槍が、霧散する。
「……何が、起きたの?」
エレノアの表情から、余裕が消える。
その背後。
「お前は、よく知ってるんじゃないのか?」
王太子アルディウスが、剣を突きつけていた。
「それとも……注意事項は忘れたか?」
冷たい声。
「大気中のマナが、枯渇したんだよ」
エレノアの顔が、みるみる青ざめる。
「……嘘よ」
震える声。
「この私が……こんな王族ごときに……」
王女セレナが、歩み寄る。
「あなたは、国家反逆罪で起訴されます」
その声に、感情は無い。
「重い罰を、覚悟してください」
項垂れるエレノア・レイベルン。
——だが。
その唇が、
ほんのわずかに、笑みを描いていたことを。
王太子アルディウスも、王女セレナも、
まだ、知らなかった。




