マックス・ヴィルヘルムの思惑
王宮の巨大な門扉が、低く重い音を立てて閉じられた。
特殊部隊員に囲まれながら、マックス・ヴィルヘルムは足取りも軽く、王宮前の広場を横切っていく。夜空の下、王都防衛用に配備された軍用ヘリが一機、ローターを止めたまま待機していた。
スーツ姿の側近が、周囲を警戒しつつ小声で切り出す。
「……よろしかったのですか?
マナレベル引き上げの権限を握っているのは本社です。そんな許可、降りるわけがない」
マックスは歩みを止めない。まるで天候の話でも聞いたかのように、淡々と答えた。
「問題ない」
側近は一瞬、聞き返そうとして言葉を飲み込む。
「マナレベルの引き上げには、確かにノルンシステムが介在している。だがな……」
マックスは、ヘリの目前で足を止め、振り返った。
「そのノルンシステムには、いくつも“裏口”が仕込んである」
側近の目が見開かれる。
「……それは、初耳です。なぜ、そんなものが……?」
マックスは薄く笑った。
「仕込んだのは俺だ。
以前、ノルンシステムの改修とメンテナンスに関わったことがあってな。その時に“保身”のため、少し細工させてもらった」
その言葉の軽さとは裏腹に、内容は致命的だった。
「今は、それが役に立つ」
側近の表情に、明らかな不安が浮かぶ。
「……本社に知られれば——」
「心配するな」
マックスは即座に遮る。
「俺についてくる限り、何も問題は無い」
そう言って、ヘリの機体に手をかけながら続けた。
「これで、大量のマナを“第5研究開発部”が、本社とは別に独自保有できる。
——この意味が分かるだろ?」
側近は返事ができなかった。
マックスは懐から、場違いなほど古びたアナログ無線機を取り出す。デジタル通信全盛の時代において、意図的に“時代遅れ”を選んだ装置だ。
彼は無線に口を近づけ、短く命じた。
「俺だ。
エリア1-Aについて、全管理個体のマナレベル引き上げを実行しろ。
設定レベルは5。
レベル変更承認申請は、例の回線を使え」
一切の感情を込めず、ただ業務命令のように告げる。
「以上だ」
無線を切った直後、ヘリのローターが回転を始め、空気を切り裂く轟音が広場を満たした。
マックスはタラップを上りながら、振り返って一言だけ呟く。
「……これから、楽しくなるぞ」
その笑みは、どこか子供のようで、同時に底知れなかった。
側近は苦笑混じりに肩をすくめる。
「あなたの下につくと……本当に退屈しませんね」
ヘリに乗り込んだ瞬間、特殊部隊長が短く宣言する。
「第5研究開発部、専用艦へ帰投する」
軍用ヘリは夜空へと浮かび上がる。




