王都中央広場
王宮の鐘が鳴り響いた。
それは祝福の音ではない。
警鐘でもない。
**「招集」**の合図だった。
王都に住む者たちは、理由も知らされぬまま、
中央広場へと集められていく。
兵士も、商人も、職人も、貴族も、平民も――
そして魔術師でさえも。
やがて、
王城の高壇に、二人の姿が現れる。
王太子アルディウスと、王女セリア。
王太子アルディウスは、一歩前に出た。
その顔には、迷いと疲労、そして決意が刻まれていた。
王太子アルディウスが呼びかける。
「王都に住む、すべての民に告げる」
ざわめきが、静まる。
「我々王族は、
長きにわたり、この国を守ってきた」
「だが――
今、その均衡は崩れようとしている」
彼は一瞬、言葉を選ぶように間を置いた。
「諸君らも耳にしているだろう。
貴族レイベルン家の反乱」
「そして、
人の理を越えた魔法の行使」
民衆の間に、恐怖と怒りが広がる。
「我々は、それに対抗する力を持たない」
「――いや、
持たされてこなかった」
王太子アルディウスは、拳を握った。
「だが、今、選択肢が示された」
「それは――
我々王族、
そしてこの王都に生きるすべての者が」
「一時的に、自らのマナを差し出すこと」
広場が、どよめく。
「聞き違いではない」
「これは、強制ではない」
「魔法による徴収は、
時間がかかり、
民に多大な負荷を与える」
「だからこそ――
諸君ら一人一人の“意思”によって、
マナを預けてほしい」
ここで、王女セリアが前に出た。
その瞳は、民衆をまっすぐに見つめている。
「皆さんが不安に思うことは、当然です」
「マナとは、
命であり、
尊厳であり、
生きる力そのもの」
「それを差し出せと言われて、
疑問を持たぬ者はいないでしょう」
彼女は、声を少し落とした。
「だから、約束します」
「皆さんのマナは、
王家が責任をもって預かります」
一拍。
「これは、
民を犠牲にするための儀式ではありません」
「この王都を、
この国を守るための、
共同の選択です」
沈黙。
誰もが、
その言葉の重さを測っていた。
やがて、
一人の老いた商人が、杖をついて前に出る。
「……王女様」
「我々は、
あなた方を信じてきた」
「今も、それは変わらん」
次に、
若い魔術師が声を上げる。
「マナを預ければ、
本当に……
怪物にはならないのですか?」
王女セリアは、即答した。
「王家の名において誓います」
「それが守れなかった時、
我々は、
王家の資格を失う」
その言葉が、
広場を貫いた。
やがて――
一人、また一人と。
胸に手を当て、
魔導式を起動する者たち。
淡い光が、
空へと昇っていく。
それは、
信頼の光だった。
王都の上空、
巨大な魔導陣が展開される。
すべてのマナは、
直接奪われることなく、
王家の管理魔術へと集約されていく。
王太子アルディウスは、
その光を見上げながら、低く呟いた。
「……これが、王家の責任か」
王女セリアは、静かに答えた。
「ええ」
「そして、
これを裏切れば――」
「私たちは、
エレノアと同じになる」
その瞬間。
広場の端で、
黒衣の男――
マックス・ヴィルヘルムが、
その光景を静かに見つめていた。
「実に……」
微笑む。
「人間らしい選択だ」
王都のマナは、
確かに――
差し出された。
だがそれが、
救済なのか、
さらなる支配への扉なのか。
まだ、誰にも分からなかった。




