王宮の混乱
間諜の報告が終わり、
重苦しい沈黙が場を支配していた、そのときだった。
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ゴオオ……!!
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低く、腹の底に響く轟音。
王宮近く、
結界の外縁が何かに触れられたような振動だった。
「今のは……?」
王女セリアが顔を上げる。
直後、
玉座の間の扉前に駆け込んでくる衛兵。
「殿下!
王宮近辺にて不明な魔力干渉を確認!
さらに……急な面会要請が――」
王太子は即座に遮る。
「今はそれどころではない。
下がれ」
「し、しかし――」
その瞬間。
――ギィ……。
重厚な玉座の間の扉が、
内側からではなく、
外から、勝手に開かれた。
衛兵たちが一斉に剣を抜く。
「誰だ!」
姿を現したのは、
この王国では見たこともない服装の一団だった。
先頭に立つのは、
黒一色の服に身を包み、
首から細長い布を垂らした初老の男。
その背後には、
全身を黒い装甲で覆い、
手に黒い筒状の魔道具を構えた人物たちが数名。
彼らは無言で、
だが完璧な間隔で配置につく。
玉座の間の防壁魔法が、
何事もなかったかのように沈黙していることに、
王宮魔術師の一人が息を呑んだ。
王太子が、怒声を放つ。
「貴様ら……
何者だ!」
衛兵たちが剣を向ける。
だが、
黒い装甲の者たちは微動だにしない。
まるで、
剣という概念そのものを
想定していないかのように。
その中心で、
初老の男がにこやかに一礼した。
「突然のご訪問、
誠に失礼いたします」
声は穏やかで、
丁寧すぎるほど丁寧だった。
「私、
アーガスノルンコーポレーション
第5研究開発部統括
マックス・ヴィルヘルムと申します」
マックスは、
笑顔を崩さぬまま続けた。
「簡単に申し上げますと――」
「あなた方が、
この世界で
“魔族”と呼称されている存在でございます」
場の空気が、
凍りついた。
王女セリアの瞳が、
見開かれる。
「……なに?」
王太子アルディウスが、
信じられないものを見る目で男を睨む。
マックスは、
それすら楽しむように言葉を重ねる。
「この度はですね、
皆様にとって
非常に有益なご提案を
弊社から差し上げたく、
参上いたしました」
その背後で、
黒装甲の者の一人が
筒状の魔道具をわずかに傾ける。
その瞬間、
王宮魔術師の一人が呻いた。
「……防壁魔法の
再展開が……できない……?」
セリアは、
冷静さを保ったまま、
静かに問いかける。
「……無断侵入。
王宮防衛結界の無力化。
それを“面会”と呼ぶのですか?」
マックスは、
にこやかに頷いた。
「ええ。
敵意は一切ございません」
「もし敵意があれば――
今頃この部屋には、
誰も立っておりませんので」
その言葉に、
衛兵たちの背筋を
冷たいものが走る。
王太子アルディウス、
王女セリア、
そして居並ぶ者たちは、
はっきりと理解した。
――これは、
交渉ではない。
“管理者”が、
“被管理者”に
顔を見せに来ただけなのだと。
そして、
世界の歯車は、
王族の知らぬ場所で
既に回り始めていた。




