魔導通信 ―― アーガスノルン本社・全世界広域実験管制室 直結回線
魔導陣の中心に、
幾何学的な光が立ち上がる。
人影が形成されるが、
それは肉体ではない。
半透明の立体投影。
背後には、無数のモニターと光の線が走る
管制室の一部が透けて見える。
その中心に立つ男が、
静かに一礼した。
スーツ。
無駄のない姿勢。
感情を削ぎ落とした声。
「――初めまして」
「今回の会談を担当させていただく、
アーガスノルン・コーポレーション本社
全世界広域実験管制室 室長」
一拍置き、
「アルベルト・クロードと申します」
声は丁寧で、
礼節すら感じさせる。
だが、
そこには一切の敬意が含まれていない。
エレノアは、
微笑みを浮かべたまま、
軽く顎を上げる。
「お初にお目にかかりますわ」
「神聖オースティン帝国
レイベルン公爵家八代目当主」
ドレスの裾を軽く摘み、
完璧な所作で一礼する。
「エレノア・レイベルンと申します」
そして、
視線をまっすぐに投影へ向ける。
「管理区域個体に対して、ここまで丁寧な挨拶をなさるなんて」
「光栄ですわ」
アルベルトは、
微動だにしない。
「弊社は、
常に合理と礼節を重視しております」
「特に——
管理対象が、自覚的である場合は」
一瞬、
空気が冷える。
エレノアの笑みが、
わずかに深くなる。
「本題に入りましょう」
アルベルトは即座に切り替える。
「現在、
自己進化個体・識別ID7096による事態は、
想定被害規模を上回っております」
背後のモニターに、
破壊された都市の映像が浮かぶ。
「このため、
弊社は緊急措置として——」
「現地民の一部に対し、
特例的なレベル引き上げを決定しました」
エレノアの瞳が、
鋭く光る。
「……どの程度?」
「レベル5です」
「王族を越え、
弊社一般社員と同等」
「ただし、
管理権限・行動制限は
厳密に弊社側が保持します」
エレノアは、
小さく息を吐いた。
「……控えめですわね」
そして、
一歩前に出る。
「わたくしは、
特別管理個体として
コンタクトを許可された」
「レベル5など、
“餌”に過ぎませんわ」
「もっと上を
ご用意なさい」
アルベルトは、
一切表情を変えない。
「申し訳ありません」
「現段階では不可能です」
「貴女は優秀ですが、
再現性が確認されていない」
冷酷な言葉が、
淡々と並ぶ。
沈黙。
エレノアは、
しばらく考え——
やがて、
微笑った。
「……なるほど」
「つまり」
「レベル5は、
暫定的な立場」
「結果を出せば、良いと」
アルベルトは、
一瞬だけ間を置き、
「——その解釈で、
差し支えありません」
と答えた。
エレノアは、
ゆっくりと頷く。
「よろしいですわ」
「では、
そのレベル5——
頂戴します」
そして、
低く、楽しげに付け加える。
「ユリアを捕まえれば……
次があるのでしょう?」
アルベルトは、
即答しなかった。
だが、
その沈黙こそが、
肯定だった。
「……契約、成立ですわね」
エレノア・レイベルンは、
満足げに微笑んだ。
——世界は歪みを増した。
それは留まるところを知らない。




