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レイベルン家本邸・大広間

古い石造りの壁に、

歴代当主たちの肖像画が並ぶ。


重厚な金の額縁。

威厳ある男たちと、

冷ややかな微笑を浮かべた女たち。


その最前列に——

エレノア・レイベルンは立っていた。


緑のドレスの裾が、

床に静かに広がる。


彼女は、

父と母の肖像画を見上げる。


しばらく、

言葉はなかった。


やがて、

小さく息を吸い——

囁く。


「……お父様」


「お母様」


その声には、

いつもの高慢さはない。


ただ、

確信だけがあった。


「私の代で……

 このレイベルン家を、

 かつてないほどに繁栄させますわ」


碧い瞳が、

揺るがない。


「どうか、

 期待して……

 見守っていてください」


肖像画は、

何も答えない。


だがエレノアは、

それで十分だった。


——答えは、

最初から決まっている。


彼女は踵を返し、

扉の奥へと進む。


レイベルン家・地下魔導儀式場


重厚な鉄扉が閉じられると、

外界の音は完全に遮断された。


地下深く。


石床に刻まれた、

古く、しかし洗練された

巨大な魔導儀式場。


天井から吊るされた

淡い魔導灯が、

銀色の光を落とす。


そこには既に、

執事ジェームスが待っていた。


白髪、

片眼鏡、

完璧な姿勢。


「お嬢様。

 準備は整っております」


エレノアは、

軽く頷く。


「始めましょう」


ジェームスは、

無言で魔導具を並べ始める。


黒曜石の触媒石。

血を吸うように赤く光る水晶。

そして、

——金属と魔術が融合した

見慣れぬ通信増幅装置。


エレノアは、

床に膝をつき、

自らの手で魔導陣を描いていく。


線は迷いなく、

幾何学的で、

どこか異質だ。


王国の魔術とは違う。


より合理的で、

より冷たい。


「……これが、

 “あの方々”の術式」


彼女は、

微笑む。


描き終えた瞬間、

魔導陣が淡く発光する。


ジェームスが、

最後の補助呪文を唱える。


「接続補助、完了」


「魔導通信、

 座標固定」


エレノアは、

静かに立ち上がり、

陣の中央へと歩み出る。


胸に手を当て、

囁くように——

しかし確かな声で告げる。


「——応答を」


「アーガスノルン」


その名を口にした瞬間。


魔導陣が、

異様な音を立てて回転し始める。


空間が歪み、

光が圧縮され、

“向こう側”が開かれる。


エレノアの唇が、

ゆっくりと弧を描く。


(ついに……

 選ばれる側ではなく、

 選ぶ側へ)


彼女は、

恐れていなかった。


——これは召喚ではない。

——祈りでもない。


交渉だ。


そして、

この世界で最も危険な存在同士が、

今、繋がろうとしていた。

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