アーガスノルン本社・中央管制室
天井まで届く巨大モニター群。
青白い光に照らされた室内で、
無数の数値とマップが静かに流れている。
——その静寂が、破られた。
「緊急報告!」
若いオペレーターの声が、
管制室に響く。
「管制室長、
優先監視対象ユリアの
自己進化を確認!」
「レベル……6に到達しました!」
一瞬。
空気が、
凍りついた。
管制室長と呼ばれた男は、
無意識に拳を握りしめる。
「……まずいな」
低く、
噛み殺すような声。
「進化が……
想定より早すぎる」
巨大モニターには、
赤く警告表示が点滅している。
《自己進化種:進行中》
《予測乖離率:臨界値超過》
「ノルンシステムの予測線から、
完全に外れ始めている……」
そのとき。
別のオペレーターが、
さらに声を上げた。
「追加報告!」
「特別管理個体、
エレノア・レイベルンが
儀礼通信術式を起動!」
管制室が、
ざわめく。
「こちらへの
直接コンタクトを要望しています」
「ノルンシステムによる
自動返答を——」
そこまで言いかけて、
オペレーターの言葉が止まる。
管制室長が、
即座に口を開いた。
「いや」
「私が、
直接応じよう」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、
小さなどよめきが走る。
「……!」
オペレーターの一人が、
恐る恐る言葉を選ぶ。
「し、失礼ですが……」
「それは
本社特別条項第三条に
抵触します」
「直接応答には、
承認レベル10が必要かと……」
管制室長は、
視線をモニターから離さずに答える。
「——既に、
会長から承認は降りている」
その一言で、
場の空気が変わった。
「会長が……?」
管制室長は、
静かに続ける。
「あの方は、
全てを予見している」
「こうなることも、
最初から——
想定済みだ」
オペレーターは、
喉を鳴らし、深く頷く。
「……承知しました」
指先が、
震えながらも。
コンソールのキーボードを
カタカタと叩く。
演算コードが重なり合い、
通信術式が展開されていく。
《儀礼回線:直結》
《対象:エレノア・レイベルン》
《ノルンシステム自動介入:無効》
——直通回線、確立。
管制室長は、
小さく息を吐いた。
(自己進化種、
そしてエレノア……)
(世界は、
もう我々の想定通りには
進まない)
モニターに映る、
静かな通信待機画面。
その向こうにいるのは、
ユリアとは別の形で
“選ばれた存在”。
アーガスノルンは、
ついに理解し始めていた。
——
自分たちが、
世界の支配者ではなく、
観測者に成り下がりつつあることを。




