表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/56

変革の兆し

廃都近郊・霧に覆われた中庭


夜明け前。


崩れた石柱と、

苔むした噴水の残骸。


その中心に、

ユリアは立っていた。


赤い長髪が、

微かな風に揺れる。


「——ステータス」


そう呟いた瞬間。


彼女の視界に、

淡く青白い光の膜が展開される。


数値、階層化された項目、

見慣れぬ魔導文字。


《個体識別コード:7096》

《進化段階:自己進化種(初期)》

《レベル:6》


「……やっぱり」


ユリアは、

自嘲気味に笑う。


「魔法って、本当に便利ね」


「まさか、

 わたしがこんなものを

 “自然に”使えるようになるなんて」


表示された項目のいくつかが、

淡く点滅している。


《血媒支配:進化》

《被眷属再生率:完全》

《老化停止:恒常》


ユリアは、

ゆっくりと視線を上げた。


周囲に立つ者たち。


——かつては、

腐臭を放つだけの存在だった。


崩れ、溶け、

人の形すら失っていた肉塊。


だが今。


彼らの肌は滑らかで、

筋肉は引き締まり、

骨格は完全に再構成されている。


年齢すら巻き戻されたかのような、

若い肉体。


人と、

ほとんど区別がつかない。


ただ一つ——


耳だけが、

人よりも長い。


伝説に語られる、

エルフのような姿。


そして。


ユリア自身も、

同じだった。


水面に映る自分の顔。


赤い瞳、

滑らかな肌、

伸びた耳。


「……なるほど」


「わたしは、

 もう人間じゃないのね」


そのとき。


彼女の背後から、

一人の男が歩み出る。


若い男性。


長身で、

落ち着いた佇まい。


名を——

ガリウス。


最初にユリアの血を受け、

アンデットとなった者。


かつては、

原型を留めぬ肉塊だった存在。


今は、

彼女の側近。


「ユリア様」


ガリウスは、

片膝をつき、報告する。


「王国側に、

 意図的に情報を流しました」


「ユベニウス帝国崩壊の映像、

 第三の勢力の存在、

 すべて予定通りです」


一瞬、

迷いを含んだ声で続ける。


「……これで、

 よろしかったのでしょうか?」


ユリアは、

ステータス画面を閉じる。


光が、

霧に溶けて消えた。


そして、

振り返る。


その表情は、

静かで。


だが、

確かな意思を宿していた。


「もちろん」


「これもまた、

 計算のうちよ」


「王族は、

 アーガスノルンを疑う」


「アーガスノルンは、

 王族と“第三の勢力”を警戒する」


「互いに牽制し、

 互いに手を縛り合う」


ユリアは、

夜明けの空を見上げる。


「その間に——

 わたしたちは、

 力を蓄える」


ガリウスは、

深く頭を垂れた。


「すべては、

 ユリア様の御心のままに」


ユリアは、

小さく微笑む。


それは、

復讐者の笑みでもあり。


世界を変革する第一歩でもあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ