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王都郊外 レイベルン公爵邸・私室

夜更け。


重厚なカーテンの隙間から、

月光が静かに差し込む。


暖炉の火は落とされ、

部屋を照らすのは、

机上の魔導ランプのみ。


エレノア・レイベルンは、

ソファに腰掛け、

脚を組み、紅茶を口にしていた。


その前に、

背筋を正した執事が立つ。


「——ご報告がございます」


「聞かせてちょうだい」


エレノアは、

視線を上げずに応じた。


執事は一瞬、

声を潜める。


「王宮内に潜伏させておいた間諜の調査によると……

 ユベニウス帝国が壊滅したとのことです」


カップが、

微かに音を立てた。


「ふーん」


「これは王宮内でも厳重な箝口令が敷かれていますが、

 どうやら原因は——

 アンデットによる統率襲撃」


エレノアの口元が、

わずかに歪む。


「統率、ね」


「さらに——」


執事は、

一拍置いた。


「それらを統率していた存在は、

 一人の実験体のようだ、とのことです」


その言葉に、

エレノアは初めて顔を上げた。


瞳が、

楽しげに細められる。


「あら」


「モルモットにしては、

 中々骨があるじゃない」


軽く笑い、

指先でカップを回す。


「で?」


「どんな見た目をしていたの?」


執事は、

即答した。


「——赤い長髪の、

 若い女とのことです」


その瞬間。


エレノアの動きが、

止まった。


ほんの一瞬。


だが、

執事は見逃さなかった。


「……」


エレノアは、

ゆっくりと微笑を取り戻す。


「……まさかね」


呟きは、

誰に向けたものでもない。


だが、

その声には——


確かに、

否定ではない響きがあった。


「偶然よ」


「赤い髪の実験体なんて、

 どこにでもいるもの」


そう言いながら、

彼女の視線は、

机の引き出しに向けられていた。


そこには、

古いファイル。


《識別コード:7096》


まだ、

開かれていない。


「……ふふ」


「世界は、

 面白い方向に転がり始めたみたい」


エレノアは、

立ち上がる。


「王族も、

 アーガスノルンも、

 同じ映像を見ているでしょうね」


「でも——」


振り返り、

執事に告げる。


「私だけは、別の角度から見る」


「続報を」


「王宮の動きも、

 会社の反応も、

 全て」


執事は、

深く一礼した。


「承知いたしました」


扉が閉まる。


一人残されたエレノアは、

月光の中で静かに囁いた。


「……もし、あの子が生きているなら」


「今度こそ、

 私が“正しく”使ってあげるわ」


笑みは、

優雅で。


そして、

どこまでも冷たかった。

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