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アーガスノルン社 本社 最上級役員会議

無駄のない漆黒の空間に、

二十の席が等間隔に並んでいる。


そこに座るのは、

世界を「管理」する者たち。

天生大法院。

それが、アーガスノルン社の最高経営幹部達であり

この世界の管理者達の別名であった。


誰もが黒いスーツに身を包み、

一切の装飾を排した静謐な空気が支配していた。


中央の大型ホログラムが点灯する。


一人の幹部が立ち上がり、

淡々と口を開いた。


「——治安維持統括部総司令官より、

 正式報告をさせていただきます」


全員の視線が、彼に集まる。


「エリア3、通称ユベニウス帝国実験場は、

 完全に壊滅しました」


空気が、わずかに揺れた。


「原因は、

 マナ暴走個体――

 通称アンデット群による大規模襲撃です」


ホログラムに、

破壊された街の映像が映し出される。


「本来、知能を持たないはずのアンデットが、

 高度に統率された行動を示しました」


「現地民による治安維持組織、

 ならびに配置されていた実験監視要員では、

 防衛は不可能だったと判断されます」


その瞬間。


別の幹部が、

苛立ちを隠さず声を上げた。


「馬鹿な!」


「アンデットは、身体能力と生命力こそ異常だが、

 知能は存在しない!」


「それは、我が社の研究で

 何度も証明されているはずだ!」


室内に、同意のざわめきが走る。


——そのとき。


円卓の中央。


最も高位の席に座る、

老いた男が、静かに口を開いた。


「……自己進化種か」


一瞬で、空気が凍りついた。


「な……」


「会長……?」


ざわめきが、広がる。


別の幹部が、慎重に言葉を選びながら反論する。


「それは……理論上の存在です」


「実現の可能性は、極めて低い」


「ノルンシステムの演算結果でも、

 発生確率は限りなくゼロに近いと——」


会長と呼ばれた老いた男は、

ゆっくりと首を振った。


「確率が低いことと、

 存在しないことは、同義ではない」


その声は、

老いてなお、揺るぎがなかった。


「……我らの悲願が、

 ついに現実になったのだ」


幹部たちが、息を呑む。


「人類が扱えるマナレベルは、

 理論上、最高でも10」


「それ以上は、

 肉体も精神も耐えられない」


会長の目が、

淡く光る。


「だが、自己進化種」


「彼らのDNAがあれば——」


「その限界を、

 突破できる」


誰も、口を挟まない。


「より高度なマナ制御」


「より完全な存在」


「我らは、

 神の楽園へと至る」


一拍。


そして、会長は低く続けた。


「……だが同時に」


「それは、

 我らを滅ぼす危険性も孕んでいる」


沈黙。


だが、その沈黙は、

恐怖ではなかった。


——理解だった。


治安維持統括部総司令官が、

一歩前に出る。


「提案します」


「個体識別コード7096」


「名称、ユリア」


「当該個体を、

 ノルンシステムの

 最優先監視対象に登録」


「精密追跡を、

 即時実行します」


一瞬、間を置いて、

問いかける。


「……生死は、問いませんか?」


円卓の視線が、

会長へと集まる。


アーガスノルン最高経営責任者。

創業者。


この世界で、

最も多くの命を“数値”として扱ってきた男。


彼は、

短く答えた。


「……なるべく、生きたままが良い」


そして、

淡々と付け加える。


「だが、困難であれば——

 止むを得ん」


その言葉が、

この会議の結論だった。


ホログラムが消え、

会議は、次の議題へ移る。

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