王都・白曜宮殿 謁見の間
魔道水晶は、
本来なら祝祭や儀式の映像を映すためのものだった。
だが今、
その透明な結晶の内部では――
炎に沈む都市が揺らめいている。
「……これが、東亜王朝……?」
王女セリアは、思わず一歩前に出た。
瓦礫。
燃え上がる楼閣。
瓦屋根の上を這い回る、人ではない影。
叫び声は、水晶越しでも歪んで聞こえる。
「商会の連中が、偶然通りかかった時に記録していたらしい」
王太子が低く言った。
「護衛用の魔道水晶だ。
本来は、交易路の安全確認用だが……」
映像が切り替わる。
通りを埋め尽くす、変異した死体たち。
倒れても、また立ち上がる。
剣も、槍も、意味を成していない。
「……生者が、死者に追われている……」
セリアの声は、震えていた。
「いいや」
王太子アルディウスは首を横に振る。
「死者ですらない。
これは……兵器だ」
映像の隅に、
黒い装束の部隊が一瞬だけ映り込む。
銃。
魔法陣。
常識外の連携。
「この装備……我が国の魔導騎士団とは、次元が違う」
王太子アルディウスの拳が、無意識に握られる。
「魔族……」
セリアが、その言葉を口にする。
空気が、重く沈んだ。
「彼らが裏で支配している国の一つ、”実験場”と呼ばれているとの話もあるが、
それが、この東亜王朝だったという話は、以前から噂にあった」
「噂では済まされませんわ」
セリアは、水晶から目を離せないまま言った。
「一国が、
一夜で壊滅しています」
映像の最後。
炎の向こうで、
巨大な城門が崩れ落ちる。
そこで、水晶は静かに暗転した。
――沈黙。
「兄上……」
セリアは、ゆっくりと振り返る。
「もし……もし、ですけれど」
喉を詰まらせながら、続ける。
「私たちの国も、
彼らにとって“実験場”でしかないのだとしたら……?」
王太子は、すぐには答えなかった。
窓の外。
平和な王都の街並み。
市民たちは、
まだ何も知らずに暮らしている。
「……その可能性は、否定できない」
王太子は、ようやく言った。
「東亜王朝は、交易も軍事も独立していた。
だが……それでも壊された」
セリアの手が、震える。
「では、我が国は?」
「従属しているから安全、とは限らない」
アルディウスの声は、冷静だったが、
その奥に、確かな危機感があった。
「むしろ……
“価値がある”と判断された瞬間に、
同じ運命を辿るかもしれない」
セリアは、唇を噛みしめた。
「兄上……」
セリアは、静かに言った。
「このままでは、
いつか……」
「……ああ」
アルディウスは、目を閉じる。
「選ばれるのは、
我々かもしれない」
王都は、今日も平穏だ。
だが、
その平穏が実験場の外側にある保証は――
もう、どこにもなかった。




