不良債務者
港湾区の裏通りで、警告音が鳴った。
⚠ マナ量低下警報
対象: 個体ID 3A-11402
マナ量: 0.3 → -0.1
空気が、凍りついた。
「……マイナスだ」
誰かが呟いた瞬間、通りの照明が赤く切り替わる。
騎士団の魔導装甲が、音もなく路地の両端を塞いだ。
倒れ込んだのは、痩せた男だった。
荷運びの途中で、過労と恐怖が一気に押し寄せたのだろう。
「補償処理、間に合わなかったか……」
騎士の一人が、淡々と呟く。
本来、不良債務者(レベル0)はマナがマイナスにならないよう、強制的に補填・管理される。
だが、予測誤差はゼロではない。
そしてマイナスになった者は、即時回収対象だ。
男の首元に浮かび上がる、紫色の魔法陣。
それは奴隷魔法ではない。
——変異刻印と呼ばれるそれは、人に不可逆の変化をもたらす。
「やめろ……! 俺は、ただ……」
言葉は最後まで続かなかった。
男の身体が痙攣し、骨格が歪み、皮膚の下で何かが蠢く。
マナが、外部から強制的に書き換えられていく。
これは、この世界の理であり、古来よりそれに逆らうことはできない。
都市内部で暴走されては困るため、このような事態がおきた場合は騎士が対応する。
大抵は、騎士数名で対応できる程度のものである。
しかし。
「……獣人化が始まっている!」
背骨が伸び、爪が舗道を砕く。
低確率で発生する魔導生物。
かつて人間だった存在。
騎士たちは即座に魔法陣を展開し、処理を開始した。
通行人達は、遠巻きにその光景を見ていた。
胃の奥が、冷たく沈む。
——あれは、明日の自分かもしれない。




