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メゾン・ド・バレット~戦う乙女と秘密の護衛生活~  作者: ざつ


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第6話:家事プログラムと独占欲の衝突

 _____________________

 1. 衝突する家事プログラム


 カフェでのグール襲撃とアリスの夜這い未遂事件から数日。メゾン・ド・バレットの秘密の共同生活は、再び平穏な日常に戻っていた。しかし、その内実は一見の平穏とはほど遠いものだった。


 リビングに通された悠真は、目の前の光景に思わず息を飲んだ。


 完璧に磨き上げられた床。一糸乱れぬ調度品。そして、テーブルには朝食が並べられているのだが――。


「さあ、志藤様。朝食の準備が完了しました」


 メイド長ルナが、感情を排した声で優雅に告げた。テーブルには、ルナが用意した栄養バランスが完璧なプロテインシェイクと全粒粉パン、アリスが用意したハート型に焼かれたフレンチトースト、メイが用意した手作りの出汁巻き卵と味噌汁が、それぞれ主張し合うように並んでいた。


「わ、わあ……すごいな。朝からこんなに豪華で……でも、こんなにたくさん?」

「志藤様。私のシェイクは、あなたの抑止力安定のための完璧なエネルギー源です」


 ルナは銀色のモノクルを光らせ、プロテインシェイクを指差した。


「ふふん。ルナ隊長のなんて、味気ないじゃない。悠真くんには、恋人役として、私からの愛が詰まったフレンチトーストを食べて、幸せな気分になってもらわなくちゃね!」


 アリスはルナに牽制するように、悠真の頬にフレンチトーストを押し付けた。


「アリスせんぱいずるいです!」


 小柄なメイが、ツインテールを揺らしながら訴えた。


「悠真せんぱいの体調管理は、後輩であるメイの役目です! 疲れている時は、やっぱり日本人のお味噌汁と、メイの愛情たっぷりのお出汁で作ったお出汁巻き卵が一番だって、データがあります!」

「佐倉隊員。あなたのデータは、感情的なバイアスが強く、客観性に欠けます。私のカロリー計算と栄養素のバランスが、最も理性的で合理的です」


 クロエがテーブルの隅から冷めた目で指摘した。彼女はすでに自前のタブレットで、ルナ、アリス、メイの料理をカロリー換算し、データ分析を始めていた。


「メイドたちには、『家事プログラム』として、志藤様の生活を完璧に管理する使命があります。しかし、最近は『悠真様の世話をしたい』という人間的な感情がプログラムと衝突し、こうして『家事バトル』が勃発しているのです」


 ルナは冷静に解説したが、その瞳の奥には、他のメイドたちへの理性的な嫉妬が隠されているのを感じた。


「みんな、俺の世話をしてくれてるのはわかるけど……その、平和的に話し合ってくれないかな?」


 悠真はただ苦笑いを浮かべることしかできなかった。

 ルナはウィンクし、アリスへの牽制を続けた。


「平和的? 志藤様、私たちが戦場以外で火花を散らすのは、全て『あなたへの愛(独占欲)』があるからです。これも、一種の平和なラブコメだと思って楽しんでください」

「ラ、ラブコメ!? そんなの私と悠真くんの特権なのにぃ!!」


 その時、二階の寝室の方向から、金髪ポニーテールのソフィアが、ゆるく着崩したスウェット姿でだらだらと降りてきた。


「あら〜、おいしそうなご飯の匂いね〜。みんな、朝から元気ね」


 ソフィアは眠たげな目を擦り、そのままテーブルの料理を物色し始めた。


「ソフィア隊員!」


 ルナの冷静な声が、瞬間的に厳しい響きを帯びた。


「ここはリビングです。そしてあなたは戦闘用メイドです。だらしない格好は、護衛規則の尊厳に関わります。すぐに着替え、身だしなみを整えなさい!」

「あ、ごめんなさい、ルナ。ついつい体が休眠モードで……」


 ソフィアはルナに優しく叱られながら、グラマラスな体型を包むスウェット姿で、そそくさと二階へ戻っていった。


(ソフィアさんまで、こんなに人間らしいんだな……)


 悠真は、ルナの厳しい規則と、メイドたちの人間的な側面のギャップに、再び戸惑いを覚えた。


 _____________________

 2. 日常の亀裂とマヤの優しさ


 悠真はメイドたちの個性的な独占欲に翻弄されながらも、なんとか朝食を済ませた。


 大学へ登校する際、ルナから厳重な注意を受けた。護衛はアリスとメイが担当する。


「志藤様。マヤという人物には、引き続き警戒を怠らないように。前回彼女が接触してきた直後に襲撃事件が発生している。不自然な偶然を装っている可能性があります」

「わかってるよ、ルナ。でも、彼女は俺の友人だから」


 悠真は、ルナの警告を理解しつつも、大切な友人を疑われることに内心イラ立ちを覚え、マヤを信じる心を完全に捨てきれずにいた。


 大学で、マヤは休憩時間に「友人として」手作りのクッキーを差し入れに持ってきた。


「志藤くん、これ。昨日の夜、急に焼きたくなっちゃって。よかったら、アリスさんたちと一緒に食べてね」


 マヤは怯えた演技でアリスやメイをチラリと見やり、すぐに悠真に目線を戻す。


 アリスとメイは、マヤが差し入れたクッキーに強い警戒心を抱いた。


「悠真くん。彼女が持ってきたものは、必ずクロエ先輩にデータ分析をさせてからじゃないと」

「そうですよ、せんぱい! メイはこういうツンツンした女の手作りなんて、信用できません!」


 メイはツンデレな嫌がらせをマヤに向けたが、マヤはそれを優しく受け流した。


「ふふ。ごめんね、私、ちょっと不器用だから。でも、志藤くんが元気なら、それだけでいいの」


 マヤの偽装された優しさを前に、悠真のメイドたちへの警戒は解けきらない。彼は、マヤの「普通の優しさ」と、メイドたちの「超人的な力と秘密」の間で、小さな溝を感じていた。


 _____________________

 3. 湯船でのハプニング


 その夜、共同生活ならではのハプニングが起こった。


 夕食後、悠真は疲労から早く眠りたくなり、メイドたちが交代で入浴している時間帯を避けて、浴室へと向かった。


(よし、今なら誰も入ってないはず……)


 悠真が浴室のドアに手をかけ、不意に勢いよく開けてしまった、その瞬間。


「きゃああっ!!」


 浴室には、湯船に浸かっている一人のメイドがいた。それは、小柄でツインテールのメイだった。


「ご、ごめ、ごめんなさい、メイ!」


 悠真は咄嗟にドアを閉めようとしたが、一瞬、その光景が目に焼き付いた。


 メイの体は小柄な体躯からは想像もできないほど、完璧なボディラインを描いていた。しかし、その顔は真っ赤になり、普段のデレ多めのツンデレからは想像できないほどの、純粋な羞恥心に満ちていた。


「な、なななな、なにするんですか! 悠真せんぱいのバカ! 変態! い、今すぐあっちへ行ってください!」


 メイは湯船に深く沈み、ツインテールの水面に浮かべながら悲鳴を上げた。


(完璧なサイボーグボディなのに、どうしてあんなに恥ずかしそうなんだ……?)


 その「女性の体」と「隠された機械」の対比からくるギャップ萌えが、悠真の意識を強烈に惹きつける。


 と、次の瞬間。


 メイは急に湯船から上半身を乗り出し、その羞恥に満ちていた表情を、いたずらな笑みへと変えた。


「悠真せんぱいのバカ! ドアを勢いよく開けるなんて、メイドへの無許可な接触で、護衛規則違反ですよ!」

「お、おい、メイ……」


 悠真は一瞬で心臓が止まるかと思うほどの焦燥感に襲われた。


「――なんて、嘘ですよ!」

「え、嘘!?」


 メイは湯船の縁に腕をかけて、ツインテールを揺らした。その瞳は、羞恥心から独占欲を伴ういたずら心へと切り替わっている。


「でも、これはチャンスですよね? ちょうどお風呂に入っていたのは、ルナせんぱいでも、アリスせんぱいでもありません! 後輩であるメイです!」


 メイは湯船の中で立ち上がり、その完璧なボディラインが露わになるのも厭わないというように、悠真に迫った。


「悠真せんぱい! 今夜は秘密の共同入浴ですよ! 入浴も、メイドの仕事だって、データがあるんです! ね、せっかくだから、メイと一緒に入りましょう!」

「ええっ!? 一緒にって、俺もか!?」


 悠真の顔は真っ赤になり、パニックに陥った。ルナの規則も、アリスへの気遣いも、全てが頭から吹き飛ぶほどの究極のハプニングだ。


「佐倉隊員、すぐに湯から上がりなさい!」

「あっ、私も混ぜてー! 共同入浴なんて、公認の恋人役の特権じゃないの!?」


 ルナは怒りに震えながら、モノクルの奥で状況を分析する。冷静な司令塔としての顔を保ちながらも、その心は理性的な嫉妬で荒れ狂っていた。


 すぐさま現場にルナとアリスが鬼の形相で駆けつけ、理性的・感情的な注意で悠真とメイを制止する。


(佐倉の『Code: Hyper Impulse (超衝動開始)』は、感情の衝動に駆動力が依存する。あの小娘のツンデレな独占欲が、今、命令を待たず暴走しようとしている…! 理性なき衝動など、任務の邪魔にしかならない!)


 ルナは銀色のモノクルを光らせ、冷静な怒りを滲ませた。


「志藤様、あなたの無許可の行動が招いた結果です。そして、佐倉隊員、有栖川隊員! 共同入浴は、護衛の任務に含まれません!」


 アリスは悠真を一瞥すると、少し頬を膨らませた。


「悠真くん、あとでお説教だからね! 勝手に他のメイドと共同入浴しようとするなんて、恋人役への裏切りよ!」


 さらに、他のメイドたちも加わった。


「志藤様。不潔です。入浴とは、科学的に見て最もデリケートな時間です。無秩序な共同入浴など、データとして認められません」


 クロエは階段から冷めた目で状況を分析した。


「あらあら、まあまあ」


 ソフィアは、眠たげだった目を完全に覚まし、面白そうにケラケラと笑った。


「さすが、悠真様とバレット隊ね。お風呂に入るだけでも、こんなに賑やかなんだから」


 ルナは額に手を当て、深い溜め息をついた。


「規則は、あなたたちの独占欲の暴走を防ぐためにもあるのです。全員、自制しなさい!」

「「は~い!」」


 ルナは厳しく規則を再徹底したが、悠真はメイドたちの人間的な感情の揺れと、独占欲の嵐に、


「……俺、風呂に入ろうとしただけなのに。なんだか、もうどっと疲れたよ」


 と、心の中で呟くのだった。メイの人間的な感情の揺れは、悠真の抑止力の安定度を測るセンサーとして、M.A.本部にとって重要であることを、ルナ自身が再認識する夜となった。



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