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メゾン・ド・バレット~戦う乙女と秘密の護衛生活~  作者: ざつ


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第31話:ゾルゲの尋問と理性の亀裂

 _____________________

 1.ゾルゲの音声記録ログ


 メイの重傷、そして小悪魔ハッカー・シェンの拘束を経て、セーフハウス「メゾン・ド・バレット」は、新たな戦いに備えた緊張感に包まれていた。悠真の護衛体制は、一時的にメイとソフィアを欠く、ルナ、アリス、クロエ、そして正規メイド隊から派遣されたララとアベルの六人体制へと移行していた。


 地下にある司令室。ルナは銀髪のロングヘアを揺らし、モノクル越しにメインモニターを見つめていた。その画面には、M.A.本部で厳重に拘束されたミスト幹部ゾルゲの尋問音声記録を、クロエが解析したテキストデータが表示されている。


「クロエ。ゾルゲの尋問ログは?」


 ルナの冷徹な声に、黒縁メガネのクロエが即座に応じた。


「ルナ隊長。ベアトリス先輩による尋問は、ゾルゲの自白ではなく、我々への挑発に終始しています。しかし、その挑発の中に、ミストの次の戦略に関する重要な情報が含まれています」


 クロエが解析ログを再生すると、拘束されたゾルゲの、苦痛と狂信的な歓喜に満ちた音声が司令室に響き渡った。


 ゾルゲ(音声):「フン……M.A.の女ども。志藤悠真の『支配力』の覚醒、しかと見せてもらったぞ。あの力は、我々の計画の核となり得る。俺の拘束など、些細な遅延だ」


 ルナは静かに紅茶を啜りながら、尋問ログに目を通した。


「やはり、ゾルゲの目的は悠真様の覚醒を促すこと。ミストの真の計画は、悠真様の力を悪用した『人類進化計画』……」


 ゾルゲ(音声):「お前たちは、志藤悠真の優しさという毒に侵されている。その歪んだ愛の独占欲が、アイツの力を暴走させ、制御不能な最終兵器へと変える。我々が次に投入するのは、貴様らがその目で見たこともない最強モンスターだ。巨大魔人クラスの投入をもって、お前たちの愛の脆さを証明してやる!」


「最強モンスター……。巨大魔人……」


 ルナは静かに呟くと、ゾルゲが尋問中に漏らした「巨大魔人」の投入という単語と、シェンから解析したデータを突き合わせた。


「クロエ。巨大魔人のデータは、どこまで把握できているの?」


 ルナは緊張した面持ちでクロエに問いかけた。ゴーレム群の襲撃とは比べ物にならない、規格外の脅威を感じ取っていたからだ。


「拘束したシェンの端末から回収した分析の結果、ジーナの結界術との複合攻撃を想定すべきと判断しました。その防御力と攻撃力は、中級ゴーレムの数十倍。私たちの現行の装備では、対物理・対魔力防御の限界を遥かに超えるでしょう」


 ルナは、ゾルゲが悠真の「優しさ」とメイドたちの「愛の独占欲」を毒と呼んだことに、静かな怒りを覚えた。ルナにとって、メイドたちの愛は、悠真を護るための最強のセンサーなのだから。


 _____________________

 2.理性の衝突と亀裂の萌芽


 ルナは、ゾルゲが示唆した最強モンスターへの対抗策を講じるため、正規メイド隊から派遣されたララとアベルを司令室に呼び出した。


 ララは、白いメイド服に医療用グローブを装着したまま現れた。彼女は小柄で、一切の感情を宿さない理知的な瞳を持つ。

 アベルは、銀色の短髪で引き締まった体躯。彼女もまた、感情を排した冷静沈着な態度を貫く。彼女は防御特化であり、ソフィアの役割を引き継いでいる。


「ララ隊員、アベル隊員。これがゾルゲの尋問ログの全てです。ゾルゲは、悠真様の優しさと、バレット隊の感情的な独占欲が、悠真様の支配力を暴走させるトリガーだと断定しています」


 ルナは、あえてゾルゲの「悠真の優しさは毒」という言葉を二人に共有した。


 ララは即座に反応した。


「ルナ隊長。やはり、有栖川隊員や佐倉隊員のような感情的なノイズは、任務の妨害です。志藤様の安定化には、理知的な距離の確保と数値化された奉仕が最優先です」


 アベルもまた、表情を変えずに同意する。


「ララ隊員の意見に賛同します。私たちの任務は、防御特化。感情的な揺れは、駆動系の異常を誘発します。志藤様の安全確保のため、理性を貫くことが最善です」


 二人の意見は、ルナの司令塔としての孤独な理性と完全に合致している。しかし、ルナはゾルゲの言葉を打ち破るための「愛のセンサー」を求めていた。


「いいえ、ララ、アベル。あなたたちの理性は必要不可欠です。しかし、ゾルゲの言葉は、私たちの感情的な愛こそが、ミストにとって予測不能な脅威であることを証明している」


 ルナは二人に顔を近づけ、静かに命じた。


「あなたたちには、志藤様の優しさに触れることで、自身の理性的な防壁が、いかに感情に対して脆弱であるかをデータとして証明していただきたい」


 悠真の優しさを、理性的な防壁に「亀裂」を入れるための「鍵」として利用するという、ルナの孤独な決断。


 _____________________

 3.理性の塊の駆動系に走る亀裂


 ルナの指示を受け、ララとアベルは、悠真の部屋の護衛に当たることになった。


 悠真はリビングのソファで、膝の上のスライミーを撫でていた。彼はマヤの裏切りと、メイの重傷からくる「友人を信じる優しさ」という名の孤独な苦悩に沈んでいる。


「悠真くん、そんなに苦しまないで。マヤのことは、もう考える必要はない。あなたの心の傷は、全部、この私が護るんだから」


 アリスが、悠真の肩にそっと頭を乗せてきた。ルナに牽制しつつ、恋人役の特権を優しく、しかし確実に行使しようとする。彼女の行動には、以前のような焦燥的な暴走の兆候は薄れていた。


 その時、ララが淡々とした声で二人の間に割って入った。


「有栖川隊員。志藤さんの心拍数は、あなたの過剰な接触により非効率的な上昇を示しています。精神的ケアは私の任務ではありませんが、医療的観点から、この接触は健康異常と診断します。直ちに距離を確保してください」


 ララはそう言いながら、悠真の隣に立ち、医療用センサーを静脈に接続した。彼女は悠真の顔を見ず、データ画面に視線を固定している。


「志藤さんの精神的疲弊には、理知的な距離感が必要です。私の医療的観点からの効率化が最優先です。……感情的な愛が、いかにしてこの非効率を乗り越えるのか、私にはまだデータが不足しています」


 アリスは、ララの極めて理性的な態度に、以前ほどの激しい怒りは見せず、冷静に言葉を返す。


「ふん。理屈屋は相変わらずね。悠真くんの心は、あんたの医療データなんかじゃ測れないわ。愛の力は、非効率を上回る特権なのよ」


 その反対側には、防御特化のアベルが立っていた。彼女は悠真の背後で、一切の感情を宿さずに、悠真とアリスの接触から放出される特殊フェロモンを浴び続けている。


 アベルのサイボーグ駆動部に、微細なノイズが走り始めた。彼女の全身の装甲が、わずかに熱を帯びる。


(私には、志藤様の安全を護るという使命しかない。感情的な独占欲など、駆動系のバグでしかない)


 アベルはそう理性に訴えるが、悠真がアリスに優しく微笑みかける姿を見た瞬間、彼女の心拍数(擬似)が異常な上昇を見せた。


「志藤様の優しさは、毒だ……」


 アベルの心の中で、ゾルゲの言葉が蘇る。その毒は、理性の塊である彼女の駆動系に、愛の独占欲の亀裂という名の、初めての感情的なノイズを生じさせていた。


 _____________________

 4.クロエの解析とルナの決意


 ルナは司令室で、クロエが収集したララとアベルの最新データを解析していた。


 クロエは、黒縁メガネの奥の瞳を輝かせ、興奮気味に報告した。


「ルナ隊長! データが示しています! ララ隊員とアベル隊員から、心拍数の異常上昇を確認しました。これは、ゾルゲが言った『優しさという毒』に触れたことで生じた、愛の独占欲の萌芽ほうがです」


「……萌芽ほうが、ですか」


 ルナは、銀色のモノクルを光らせ、静かに頷いた。


「ゾルゲは、私たちの感情を弱点と見ていた。だが、この感情の解放こそが、ジーナの魔力吸収結界に対する対抗策となる」


 ルナは、冷静な司令塔として、現在の装備の限界を改めて認識した。


「クロエ。私の対物ライフル『ホーリー・シェル』では、ジーナの結界を破るには非力すぎる。オリヴィア先輩の電磁投射砲『アーク・ホープ』に匹敵する、対結界専用ライフルへのアップデートを至急検討しなさい」


 ルナは、モニターに映るゾルゲの狂気に満ちた顔を見据え、さらに続けた。


「また、私だけでなく、手術と換装中の二人以外、現在の戦闘メンバー全員の装備のアップデートも急務です。ゾルゲの報告にある『最強モンスター』、そしてジーナの結界術に対抗できるよう、アリス、クロエ、ララ、アベルの装備強化の優先順位をデータ化しなさい。私は、この感情の解放を、最強の愛のセンサーとして利用する」


 ルナは、クロエのデータ解析結果に基づき、オリヴィアに指導を仰ぐという、戦術のアップデートを決意した。


「クロエ。オリヴィア先輩に連絡を。ジーナの結界術を破るための対結界戦術、そして私の狙撃戦術のアップデートを開始すると」


 ルナの孤独な使命は、バレット隊全員の感情的な愛を解放させ、それを理性の盾と愛の剣へと昇華させるという、最終決戦への準備へと移行したのだった。



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