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メゾン・ド・バレット~戦う乙女と秘密の護衛生活~  作者: ざつ


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第19話:ルナの孤独な選択と司令塔の苦悩

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 1. 司令塔の夜:モノクルの下の真実


 ゾルゲ戦の勝利と、ソフィアの「母性的な独占」という図星の切り返しから一夜が明けた。セーフハウスは、一見すると平和を取り戻していたが、メイド長ルナの心は、激しい感情の波に揺さぶられていた。


 ルナは自室のメンテナンスルームで、銀色のモノクルを外していた。銀髪のロングヘアが床に流れる。鏡に映るのは、完璧なプロポーションと、その背中や脇腹に走る精密な駆動部の接合部。彼女の体は、M.A.の最新技術で造られた「戦う乙女」そのものだ。


「……ソフィアの言う通りだわ」


 ルナは静かに、そして苦しげに呟いた。昨夜、ソフィアに図星を突かれた「悠真を独り占めしたい」という感情は、彼女の理性的な使命と真っ向から衝突していた。


 ルナの愛は、アリスの積極的な独占欲とも、メイのツンデレな愛とも、ソフィアの包容力のある母性とも異なる。彼女の愛は、司令塔としての使命、すなわち「悠真の抑止力を完璧に安定させること」という大義名分の中に、理性的に封じ込められている。


(私は司令塔。感情の揺れは、志藤様の抑止力を乱すノイズでしかない。他のメイドたちのように、感情のままに彼に触れることは許されない)


 ルナは、悠真に駆動部を点検させた夜の出来事を思い出す。あの時の胸の高鳴りも、理性の警報音として処理すべきデータだったはずだ。しかし、彼女の心臓は、あの時、任務とは無関係に高鳴っていた。


「私の独占欲は、最も理性的でなければならない。他のメイドたちへの嫉妬は、志藤様を護るための戦術的な動機に変換しなければ……」


 ルナは、自分の体ではなく、自身の理性こそが、彼女を縛る檻であることを自覚していた。彼女の銀髪とモノクルの下に隠された、冷徹さの裏にある人間的な苦悩が、ルナを孤独な決断へと追いやる。


 _____________________

 2. ルナの決断:理性的な忠誠の強化


 ルナは立ち上がり、再びモノクルを装着した。その瞳の奥には、使命を全うするための冷徹な光が戻っていた。


(ミストは、私たちの感情の揺れを戦略的に利用しようとしている。ゾルゲの言葉は、その証拠だわ。ならば、私は誰よりも理性を貫き、彼らの戦略を打ち破る)


 ルナは、クロエからのデータレポートを読み込んだ。そこには、ゾルゲが漏らした「マナという人物がミスト日本支部の幹部であり、情報戦の主導者である」という分析結果が記されていた。


「志藤様がマヤを信じる優しさを持っているからこそ、ミストはそこを突いてきた。彼の優しさを護るためには、私が非情な決断を下すしかない」


 ルナは、マヤへの拘束作戦を決行することを決意した。この決断は、悠真の「友人への信頼」を裏切ることになる。しかし、悠真の命、そして世界の安定という大局を優先するためには、メイド長として避けられない孤独な選択だった。


 ルナは銀色のモノクルを光らせ、心の中で決意を固めた。


『Code: Rational Justice (理性なる正義)』


 ルナは、セバスチャンに通信を入れた。


「セバスチャン実戦指揮官。マヤへの拘束作戦を準備します。クロエのデータ分析に基づき、極秘裏に実行を。志藤様には、この計画が終了するまで、一切の情報を与えないよう進言いたします」

「ルナ隊長。承知いたしました。あなたの決断は、エレノア総帥の意志にも叶うものです」


 ルナは通信を切った。セバスチャンの理知的な賛同すら、彼女の孤独を深めた。他の誰も、彼女の理性的な嫉妬と愛の葛藤を理解することはない。彼女は、メイド長としての使命という名の孤独な愛を貫くことを選んだのだ。


 _____________________

 3. 悠真との邂逅:不器用な愛の確認


 ルナが自室からリビングへ向かうと、ちょうど悠真がコーヒーを淹れているところだった。悠真の顔には、ゾルゲ戦の疲労が残っていたが、テイム魔物たちと戯れる姿は、どこか安堵に満ちていた。


 悠真はルナに気づき、優しく声をかけた。


「ルナさん。お疲れ様。ゾルゲ戦の後、君が一番疲れてるんじゃないか? 司令塔って大変だよな。君の指示がなかったら、俺たち、やられてた」


 ルナは一瞬、言葉に詰まった。悠真の優しさが、彼女の理性の仮面を一瞬で溶かしにかかる。


「志藤様。私の任務は、あなたの安全を確保することです。それ以上でも、それ以下でもありません」


 ルナはそう答えながらも、昨夜のソフィアの言葉が脳裏をよぎる。


(そんなこと言って、悠真様を独り占めしたいのは、ルナ、あなたもでしょう?)


 ルナは、悠真の真正面に立ち、彼と視線を合わせた。


「……一つだけお伺いします、志藤様」

「なんですか、ルナさん?」

「あなたは、私たちメイドの超人的な力と、その秘密を垣間見てしまった。それでもなお、私たちを信用してくださいますか?」


 悠真は、ルナの銀色のモノクルの奥にある、人間的な不安を感じ取った。彼は笑顔で、ルナの言葉に優しく応じた。


「も、もちろんだとも! 君たちは命をかけて俺を護ってくれる。それに、君も、アリスも、みんなが持っている人間的な優しさを、俺は知っている。だけどな、俺はもう、君たちにただ護られているだけの『護衛対象』でいたくないんだ」


 悠真は真剣な瞳でルナを見つめた。


「ゾルゲ戦で『支配力』が覚醒した。テイム魔物もいる。セバスチャンさんとも話したけど、俺は自分の力で敵をコントロールすることを覚えたい。君たちを、俺が護れるようになりたいんだ。だから、俺は君たちの使命を信じるよ」


 ルナの胸の奥で、駆動部ではない人間的な心臓が、強く、そして切なく高鳴った。悠真の成長と覚悟が、ルナの孤独な使命に、新たな光をもたらした。


「……感謝します、志藤様。あなたのその覚悟が、私たちの使命の新たな根源です。司令塔として、あなたの『覚醒者としての成長』を最大限にサポートすることを約束します」


 ルナはそれ以上何も言わず、銀髪を揺らしてリビングを後にした。彼女の愛は、不器用で、そして誰よりも深い忠誠心として、悠真に伝わったのだった。


 _____________________

 4. 激震:ミストの総攻撃とM.A.総力戦への準備


 その日の夕方。ルナがマヤへの拘束作戦の最終準備を進めている最中だった。


 突然、セーフハウスの地下から、激しい振動と、地鳴りのような音が響き渡った。


「ルナ隊長! 警告! 警戒レベルがMAXを超過! 未知の周波数による魔力結界がセーフハウスを覆っています!」


 クロエの緊迫した報告が、セーフハウス全体に響き渡った。


 ルナは即座に司令塔としての役割に切り替えた。


「なんだ、この音は!? クロエ! 敵の正体を特定しなさい!」

「データ分析! ミストの中級ゴーレムが約10体、そして多数のグールを確認! 指揮官は、レディ・クロウとドクター・ヴァイスの連合軍です! ゴーレムは魔力結界とオカルト能力を複合させたハイブリッド編成! バリアや防弾を透過する謎の攻撃を仕掛けています!」


 ゾルゲ戦とは比べ物にならない、ミスト日本支部の総攻撃だ。ルナは冷静さを保ちつつも、緊迫した指令を下した。


「全バレット隊、戦闘態勢! ソフィアはシールドの再起動、クロエはセーフハウスの自動防衛システムを最大出力で起動させなさい! グール群の排除を最優先!」


 セーフハウス自体も、壁面に仕込まれた自動機関砲や電磁パルス発生装置といった攻撃能力を有している。クロエの起動信号で、セーフハウスの壁面が稼働し、グール群への攻撃準備に入った。


 ルナはインカムを通じて、各メンバーに具体的な役割を割り当てた。


「アリス! あなたは志藤様の最後の盾となる! 悠真様への接触を試みる全ての敵を排除しななさい!」

「悠真くんの愛の盾は私だからね!」


「ソフィア! アルカナ・シールドを最大出力で展開し、セーフハウスの外郭防御を!」

「了解、ルナ。この間のお返しをさせていただきますわよ!」


「メイ! あなたは超高速体術でゴーレムの注意を引きつけ、クロエの情報分析を待て!」

「お任せを!」


「クロエ! セーフハウスの自動迎撃システムとテイム魔物の連携制御に全力を! 司令塔を援護しなさい!」

「すでに対応済みです!」


「セバスチャン実戦指揮官に連絡! ベアトリス先輩、エンジェル・ガードに援護要請を! これはM.A.の総力戦となる!」


 ルナの司令が響き渡る中、悠真はリビングで、三体のテイム魔物と共に立ち尽くした。


「ゴーレムの群れ……! しかも、バリアを透過するオカルトまがいの攻撃だと!?」


 ゾルゲ戦とは比べ物にならない、M.A.の総力戦となる中盤のクライマックスが、今、幕を開けたのだった。



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