第13話:湯けむりの攻防(前編):機械の恥じらい
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1. 商店街の福引と慰安旅行
メイとの機動戦デートの後、ルナはバレット隊に「緊急の任務」を言い渡した。それは、一見すると極めて日常的なものだった。
「志藤様。バレット隊全員に対し、護衛任務の一環として、『温泉地での合同環境適応訓練』の実施を決定しました」
ルナはそう告げたが、横でメイが嬉しそうに小さな紙切れを振った。
「悠真せんぱい! 見てください! 商店街の福引特賞! 『湯けむりの郷・露天風呂付き客室一泊旅行』ですよ!」
「ええっ、福引!?」
悠真は目を丸くした。命を狙われる非日常の中で、まさか福引の特賞で旅行に行くことになるとは思ってもみなかった。こんなテンプレイベントが発生するとは……。
アリスは、すぐにルナに抗議した。
「ルナ隊長! 訓練を装っていますけど、これは明らかに私への独占権の侵害です! 恋人役の私こそが、悠真くんとラブラブな旅行に行くべきでしょう!」
「有栖川隊員。この旅行はM.A.本部からの指令です。あなたたちの感情的な独占欲が、志藤様の抑止力に与える非日常的な環境下でのデータを収集する、極めて重要な任務よ」
ルナのモノクルが静かに光る。相変わらず、彼女の独占欲は「理性的」な使命に隠されている。
クロエは即座にルナの決定を支持した。
「ルナ隊長の判断は合理的です。温泉の高周波な環境は、私たちサイボーグメイドの駆動部に与える影響を測定する、最高の実験場となります」
ソフィアは、グラマラスな体型を揺らしながら、母性的な微笑みを見せた。
「そして、これは私の『バリア発生器』が換装され、無事に任務復帰を果たしたお祝いも兼ねているのですよ。志藤様も、日頃の緊張から解放され、心身の栄養補給が必要でしょう。私が大人の包容力で、皆様を癒やして差し上げますね」
ソフィアの一言で、温泉旅行は正式に決定した。
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2. マヤの巧妙な離脱と悠真の優しさ
旅行の準備が進む中、悠真は友人であるマヤに、大学の講義で会った際に声をかけた。
「マヤ。今度、みんなで温泉に行くんだ。よかったら、マヤも気分転換に参加しないか?」
悠真は、マヤが潜入工作員である可能性をクロエから聞かされてもなお、彼女を「友人」として信じたいという優しさを捨てきれずにいた。
マヤは一瞬、表情を硬くしたが、すぐに寂しそうな笑顔に戻った。
「ええっ、温泉! 楽しそう……でも、ごめんね、志藤くん。私、今週に入ってからちょっと風邪気味みたいで……」
悠真はマヤの顔を見て、心配そうに尋ねた。
「そうなのか? 最近、急に冷え込んできたからな。寒暖差で体調崩しやすいし」
「うん……そうなの。秋って、夜と朝の温度差が激しいから、つい油断しちゃって体調を崩しちゃったみたいで……」
マヤは顔を伏せ、少し咳払いをした。
「本当は行きたいんだけど……私が行くと、みんなに風邪を移しちゃうといけないから。それに……メイちゃんやアリスさんたちにも、また警戒されちゃうのも嫌だし」
マヤは体調不良のため、旅行への不参加を伝えた。
(マヤは本当に、俺たちのことを気遣ってくれているんだな……)
悠真は、彼女の孤独な友人の姿を信じようとした。
「わかったよ、マヤ。無理しないで。風邪、ちゃんと治せよ。お土産、買ってくるから」
悠真の優しい言葉は、マヤの寂しそうな笑顔をさらに深めた。
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3. 湯けむりの下での恥じらいとギャップ
温泉地に到着したバレット隊。ルナの司令で、悠真は厳重な護衛のもと、メイドたちと行動を共にした。
豪華な露天風呂付き客室に、悠真と五人のメイドたち。その非日常的な空間は、悠真の特殊フェロモンをより活性化させた。
夕食前。いよいよ温泉の時間だ。
「さあ、志藤様。この温泉は、サイボーグボディの微細な駆動部の疲労を回復させるための、最も重要な任務です。私たちも同行します」
ルナの理性的で事務的な声。
「きゃー! 悠真くん、私たち公認の恋人同士なんだから、混浴でラブラブな時間を過ごしちゃおうよ!」
「こ、混浴!?」
悠真は思わず声を上げた。
(ま、待てよ、混浴!? 俺はまだ、そこまでの覚悟は……!)
「アリスせんぱい! ずるいです! メイだって悠真せんぱいとの秘密の混浴は、後輩としての特権です!」
「湯けむりの中で、体温、心拍数、そしてフェロモン分泌のデータを収集する。これこそが、最も理性的で美しい研究です」
クロエも、メガネを外した知的なお色気で悠真を誘う。
ルナは額に手を当て、頭痛をこらえた。
「全員、規則を遵守しなさい! 混浴は任務の範囲外です! 志藤様は個室の露天風呂を。私たちは、交代で大浴場を利用します!」
「え~、そんなぁ!」
「ずるいですよ、ルナ先輩!」
「あらあら、仕方ないわねぇ」
クロエは唇を小さく尖らせ、「ちっ」と小さく舌打ちした。
結局、ルナの厳格な規則で、混浴は阻止された。
……はずだった。
そう、混浴自体は避けられたのだが……。
悠真が客室付きの露天風呂に入っていると、湯けむりの向こうから、湯上りのメイドたちが姿を現した。
ルナの指示通り、大浴場から部屋に戻る通路の構造上、湯けむりの向こうから客室の露天風呂が視認できる位置にあったのだ。
それは、ルナ、アリス、メイの三人だ。
三人は、温泉旅館の薄手の浴衣を纏い、髪をタオルで拭いている。
「あ、悠真くん!」
アリスとメイは、湯けむりの向こうから、悠真に向かって無邪気に手を振った。
悠真の視線は、思わず彼女たちの浴衣から覗く、完璧なボディラインに釘付けになった。
「うわっ、みんな……!」
サイボーグメイドである彼女たちのボディは、M.A.の最先端技術で磨き上げられた、人間よりも完璧な造形をしている。
しかし、湯けむりの中で、人間の女性としての「恥じらい」が彼女たちを襲った。
「きゃっ! 悠真くん、こっち見ないでよ! バカ! 変態!」
メイは、ツンデレな悲鳴を上げた。彼女は、すぐに浴衣の裾をぎゅっと握りしめる。
アリスも、いつもの積極的な独占欲とは裏腹に、顔を真っ赤に染めた。
「悠真くんの独占欲はわかってるけど、ここは女性の領域なんだから! 見ちゃだめ!」
ルナは、冷静さを装いながらも、真っ赤になった顔を銀髪ロングの髪で隠そうとした。
「し、志藤様! き、規則違反です! わ、わ、わ、私たちの無防備な姿を、許可なく視認することは任務の妨害とみなします!」
ルナの理性的な注意の裏に隠された、女性としての羞恥心が、悠真には痛いほど伝わってきた。
(完璧なサイボーグボディなのに……どうしてこんなに恥ずかしそうなんだ?)
悠真は、彼女たちの「機械の身体」と「人間の感情」の衝突という、究極のギャップ萌えに強く惹きつけられた。
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4. 浴衣での懐石料理とクロエの爆弾発言
温泉から上がり、悠真とメイドたちは、浴衣に着替え、旅館の個室で豪華な懐石料理を囲んでいた。
悠真はまだ、先ほどの露天風呂での出来事(メイドたちの動揺と、完璧な駆動部の心配)で動揺が残っていた。
金魚柄や花柄など、それぞれ個性のある浴衣を纏ったメイドたちは、戦闘服とはまた違う、艶やかな美しさを放っている。
「うわあ、すごいな。こんな豪華な料理、初めて食べるよ」
悠真は、畳の上に並べられた色とりどりの懐石料理に目を奪われた。
「ふふっ。これも任務の一環よ。日本の伝統的な栄養補給プログラムのデータ収集よ、志藤様」
アリスは、自分の料理よりも悠真の皿の上の焼き魚を骨まで綺麗に処理し始めた。
「ね、悠真くん。この料理、美味しかったら恋人役の私にあーん、して?」
「ちょっと、アリスせんぱい! ずるいです! 後輩であるメイにこそ、あーん、の権利があるんですよ!」
いつもの独占欲バトルが、懐石料理を巡っても繰り広げられた。
(ゆ、ゆっくり食事もできないのかよ……)
その時、悠真はふと、露天風呂での不安を口にした。ここは、話題を変えることで乗り切ろうという作戦だ。
「なあ、みんな。さっきお風呂に入っていたけど、その……みんなの体って、本当に大丈夫なのか? 駆動部とか、錆びたりしないんだろうか」
悠真の素朴な不安に、ルナは静かに紅茶を啜った。
「志藤様。私たちは、そこらのポンコツなロボットと同列に論じないでください。M.A.の技術は、人智を超えたレベルです」
ソフィアが優雅に微笑んだ。
「そうよ、志藤様。私たちのボディは、生体組織と超硬度合金が融合したハイブリッド。当然、温泉や海水、そしてあらゆる環境に適応するよう設計されています」
そして、黒縁メガネのクロエが、冷徹な論理で悠真の不安を完全に打ち砕いた。
「志藤様の不安は理解できます。しかし、私たちバレット隊のサイボーグ化は、生体機能を意図的に維持・強化しています。特に生殖機能の維持は、古代の血統(抑止力)の安定化プログラムに組み込まれています。それは、私たちの体が人間以上の人間であることを意味します」
クロエは、悠真に顔を近づけ、静かに、そして明確に告げた。
「つまり、志藤様。私たちは、子作りだって可能です」
ドォンッ!
クロエの「理性的すぎる」爆弾発言に、悠真は食べていたお吸い物を吹き出しそうになった。
「こ、子作り!? クロエ、何を言い出すんだ!」
「きゃーっ! クロエ、あんた何を言って……!」
アリスは顔を真っ赤に染め、湯飲みをひっくり返した。
メイはツインテールを揺らしながら、興奮と嫉妬で立ち上がった。
「そ、そうですよ! 子作りなんて、恋人役の私と悠真くんがラブラブになってからですよ! クロエせんぱいが理屈で決めていいことじゃありません!」
ルナはモノクルの奥で、静かに顔を紅潮させていた。
「クロエ! そのような感情を乱す発言は、任務の妨害とみなします! 志藤様の抑止力が、興奮状態に傾きかねない!」
ルナの理性的な注意と、メイドたちの感情的な独占欲が、懐石料理の席で激しく衝突した。
悠真は、サイボーグメイドたちが「人間以上の人間」であるという事実に、ただただ戸惑うしかなかった。
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5. フェロモンによる独占欲の暴走
温泉の開放的な雰囲気は、悠真の特殊フェロモンをさらに活性化させた。
夜も更け、ルナが厳格な規則を再徹底し、全員が自室に戻った後も、メイドたちの感情的な独占欲の暴走は止まらない。
悠真の部屋のドアの前では、再び静かな独占欲バトルが勃発していた。
「ルナ隊長。温泉の高周波な環境が、私たちサイボーグメイドの感情制御プログラムにノイズを与えている可能性があります。志藤様への夜間監視は、最も理性的な任務です」
クロエは、「任務」という大義名分を盾に、悠真の部屋に忍び込もうとする。
「クロエさんはずるいです! 私の恋人役としての優位性が、この旅行で崩壊しそうなんです! 私こそが、悠真くんの心身のメンテナンスを行うべきです!」
アリスは、ルナの厳しい監視の目をかいくぐり、秘密の夜這いを試みる。
ルナは、廊下の隅でモノクルを光らせ、理性と嫉妬の板挟みで苦しんでいた。
「全員、静粛に! 温泉という非日常の環境で、あなたたちの感情的な揺れが、志藤様の『抑止力』の安定を崩しかねない! 自室に戻りなさい!」
ルナは、自分自身も悠真のフェロモンと温泉の開放感に影響され、「自分こそが悠真の隣で、孤独な使命を果たすべきではないか」という理性的な嫉妬との板挟みに苦しむ。
悠真は、湯上りのほてった体と、部屋の外で起こっている静かな独占欲バトルに、再び心臓が高鳴るのを感じていた。
(ルナが抑えてくれているけど……このままじゃ、本当に誰かが部屋に忍び込んでくる……!)
悠真は、湯けむりの下で垣間見たメイドたちの恥じらいと、夜の積極的な独占欲のコントラストに、深く囚われていくのだった。
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