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メゾン・ド・バレット~戦う乙女と秘密の護衛生活~  作者: ざつ


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第11話:情報戦のクイーンと機械の苦悩

 _____________________

 1. クロエの焦りと対ドクター・ヴァイス戦


 ドクター・ヴァイスの超音波狙撃によるソフィアの負傷とバリアの破損、そしてルナの駆動部への損傷。一連の襲撃は、バレット隊の心身に大きな爪痕を残した。


 地下メンテナンスルームでの応急処置を終えたクロエは、デスクの前に座り、静かにノートPCを叩いていた。彼女の黒縁メガネの奥の瞳は、いつも以上に冷徹な光を帯びている。


「ドクター・ヴァイス……彼の狙撃は、ゾルゲ戦のデータを完全に分析し尽くしている。セーフハウスの防御シールドの透過性、そしてバレット隊の連携における弱点(ソフィアの防御特化)を正確に突いてきた」


 ルナがコーヒーを片手に、クロエの隣に座った。


「マヤのリークが確実になったわね、クロエ」

「はい、ルナ隊長。マヤが所属する映画研究会エリアと、ヴァイスの狙撃地点(11.5キロ先)は、都心部の監視カメラの盲点として共通しています。偶然とは言い難い」


 しかし、クロエの焦りは、それだけではなかった。


「もう一つの問題は、私の情報分析の予測をヴァイスが上回ったことです。彼の使用した超音波ライフルは、私の知るデータには存在しなかった。このままでは、私の『研究』、つまり志藤様のフェロモン安定化のための『独占』が、任務として成立しなくなる」


 クロエにとって、悠真への接触は「研究」という大義名分を必要としていた。その大義名分が崩れることは、彼女の理性的な独占欲が脅かされることを意味する。


「ルナ隊長。ヴァイスのサイバー攻撃に対して「対ヴァイス用のデコイデータ」を仕掛け、彼の狙撃場所を特定する情報戦を仕掛けます。悠真様のフェロモン暴走データこそが、その『餌』です」

「わかった。許可するわ。だけど、危険すぎない?」


「エンジェル・ガードのイヴ師匠に軌道妨害ジャマーの援護を要請すれば、勝機はあります。私は情報戦のクイーンとして、ヴァイスの電子戦を制し、彼のサイバー部門の情報を全て抜き取ります」


 _____________________

 2. 情報戦のクイーンとデータ戦


 クロエは、静かに笑みを浮かべた。黒縁メガネの奥で、その瞳が一瞬、興奮に満ちたように煌めく。


「情報戦のクイーン……。私の知的な魅力は、彼の機械的な分析力より上よ」


 クロエは、悠真の最新のフェロモン暴走データを暗号化し、ミストのサイバー部門へ意図的に流出させた。


 データの内容は、「悠真の支配力は、低周波音に反応し、次の暴走は近距離で起こる」という、ヴァイスを誘い出すための「完璧な偽情報」だった。


 ルナの司令のもと、アリスはセーフハウスの護衛を担当し、メイとソフィアはクロエの「ハッキング中の警護」を担当した。


「クロエせんぱい! 頑張ってください! 悠真せんぱいの情報分析は、メイの超高速体術と同じくらい完璧じゃないとダメなんですから!」


 メイが、パソコン画面を覗き込みながら、ツンデレな激励を送る。


「佐倉隊員。あなたの感情的な独占欲は、ノイズです。私のデータは、あなたのようにツンデレな愛を必要としません」


 クロエは冷たく一蹴したが、内心ではメイの激励を嬉しく思っていた。


 ミストのサイバー部門は、クロエの流した偽情報に飛びついた。ヴァイスは、低周波で悠真を誘き出し、狙撃を試みる。


「読めたわ。ドクター・ヴァイス! 彼の狙撃地点は、前回のデータと同じく、長距離を維持する」


 クロエは、ヴァイスの狙撃地点のデータを即座にM.A.本部へ送信。


「イヴ師匠! 軌道妨害を要請します! ヴァイスのライフルを狂わせ、逃走経路を封鎖して!」

「任せて、クロエ。私の『ジャマー』は、あなたの分析データに基づいて作られているのよ」


 エンジェル・ガードのイヴが、遥か遠方からEMP発生装置を起動させた。


 ヴァイスの超音波ライフルは、一瞬にして電子的に機能不全に陥る。


「なっ、軌道妨害! クロエ、お前……こんな連携を組んでいたのか!」


 ヴァイスは即座に予備のライフルを取り出し、狙撃を再開しようとした。長距離狙撃のプロとして、単なるEMPで諦めるわけにはいかない。


 クロエの冷静な声が、彼女のインカムに侵入した。


「『Code: Absolute Data (絶対的データ解析)』を完了しました、ヴァイス。あなたの反撃パターンは、既に解析済みです」

「ちっ……」


 ヴァイスは、これ以上この場に留まるのは危険と察知し、移動を決断せざるを得なかった。この判断の速さが、彼をここまで生き延びらせてきたのだ。


「ドクター・ヴァイス。無駄です。あなたの反撃パターンは、既に解析済みです。あなたの予備ライフルは、次の狙撃位置を『逃走経路上のポイントD』に設定している」


 クロエのセリフが途切れた直後、ヴァイスの背後から、低い女の声が響いた。


「お疲れ様、ヴァイス。私から、お逃げになれますか?」


 ヴァイスは全身の血の気が引くのを感じた。


「ベアトリス……!? なぜ貴様がここに!?」


 ヴァイスの背後には、茶色のショートボブのベアトリスが、光波ブレードを構えた戦闘態勢で、音もなく立っていた。


「クロエの情報は正確です。この場所から、あなたの逃走は不可能です」


 クロエは、ヴァイスの通信機器に直接干渉することで、その音声をヴァイスに聞かせている。


「さらに、あなたのサイバー部門に侵入した私のサブプログラムは、あなたの『逃走ルートの電子ロック』を既に解除し、本部へ全情報を送信しているわ。今回こそ逃がさないわよ」


 ヴァイスは、自分の全ての思考と行動パターンが、完全に読まれ、物理的に逃げ場も失ったという事実に、背筋が凍るのを感じた。


「バカだ……全て、読まれているだと!? ここまで完璧な情報戦だと……!」


 クロエの情報戦の巧みさと、M.A.の組織的な連携、そしてベアトリスの物理的な脅威に、ヴァイスは抵抗を断念せざるを得なかった。


「この屈辱は忘れんぞ! 緊急脱出プロトコル! マジック・ミラー!」


 ヴァイスはそう叫ぶと、全身を青白い光の粒に包まれ、まるで魔法のようにその場から一瞬で消失した。


「なっ!? 緊急脱出プロトコルだと!? こんなものまで開発していたのか……」


 ベアトリスは、光波ブレードを収めながら、悔しさを滲ませる。


「ごめん、クロエ、 取り逃がしたわ! 一瞬の隙をつかれたわ……。緊急脱出プロトコルの実行を許してしまったのが敗因ね……!」


 だが、本部からクロエとイヴの冷静な声が響いた。


「ベアトリス先輩。戦果としては合格点です。ヴァイスのサイバー部門は壊滅し、重要機密を全て抜き取りました」

「その通りよ。ターゲットの逃走は予測範囲内。最も重要なデータは手に入った。私たち技術者から見れば、完璧な勝利よ」


 _____________________

 3. クロエの勝利と研究という名の独占欲


 クロエは、ヴァイスのサイバー部門に侵入し、ミストの重要機密データを全て抜き取ることに成功した。


「勝利です、ルナ隊長。ヴァイスのサイバー部門は壊滅。ミストの潜入工作員マヤに関する確たる証拠も、このデータの中にあります」


 ルナは、クロエの知的な能力に、静かな称賛の言葉を贈った。


「さすが、クロエ。情報戦のクイーンね。このデータは、総帥に直接報告するわ」


 クロエは、ルナの称賛にも、一切表情を崩さなかった。彼女の目的は、ミストの排除ではない。


「ルナ隊長。これで、私の『研究』の正当性が確保されました。ヴァイスの狙撃は、私の『フェロモン解析プログラム』にとって、極めて重要な実験データとなった。彼の撤退により、悠真様への危険度は一時的に下がった、と思います」

「そうね、よくやったわ、クロエ。それで……」

「でも、志藤様の特殊フェロモンに関するデータ収集は、私の任務として、今後も継続されます!」


 ルナの次の一言を遮って、クロエは、悠真に近づいた。


「志藤様。今回の戦闘で、あなたのフェロモンが「興奮状態」にある際のデータが不足しています。今夜、研究という名目で、あなたの部屋に訪問させていただけますか?」

「ええっ!?」


 悠真は戸惑う。クロエの冷徹な論理と、その裏にある独占欲の片鱗に、心が揺れる。


 _____________________

 4. 機械と人間の苦悩と優しさ


 その夜。ルナの理性が静かな嫉妬を向ける中、クロエは悠真の部屋を訪問した。


「志藤様。これは任務です。純粋なデータ収集であり、感情的な意味はありません」


 クロエはそう言いながら、悠真の隣に座り、ノートPCを広げた。


「私の体は、サイボーグメイドとして、人間的な記憶と機械的なプログラムが衝突することがあります」


 クロエは、急に自身の内面的な苦悩を悠真に吐露し始めた。


「私は、あなたへのフェロモンの影響を『研究対象』として分析・接触する。それが私の任務です。ですが、データ解析を続ければ続けるほど、この『独占欲』が、プログラムではなく本物の感情に変わっているのではないかと、恐ろしくなる……」


 彼女は、いつもかけている黒縁メガネを外し、潤んだ瞳で悠真を見つめた。


「私の知的な魅力は、全てデータに基づいて構築されたものです。この感情は、私のプログラムのバグなのでしょうか?それとも……」


 悠真は、彼女のメガネの奥に隠された、知的な美しさと、サイボーグメイドとしての内面的な葛藤に、心を揺さぶられた。


「私は、情報戦に臨む際、必ず『Code: Absolute Data (絶対的データ解析)』を唱えます。感情的なノイズを排除し、純粋なデータ駆動で動くためです。ですが、今、この悠真様への独占欲は、解析不能なバグとして私のシステムを侵食している…」

「クロエ……俺は、君の理屈っぽいところも、データに忠実なところも、全部含めて好きだよ」

「バグでも、本物の感情でも、君が俺を護ってくれているのは事実だ。それに、君の独占欲が、俺の抑止力を安定させている。君が俺を好きでいてくれるなら、俺はそれが『本物』だと信じるよ」


 悠真は、彼女の震える手に優しく触れた。

 クロエは、悠真の優しさに触れ、顔を真っ赤に染めた。


「ふふふ、志藤様……あなたの優しさは、予測不可能なノイズです。データとして、これ以上は解析不能……」


 クロエは、そう呟くと、ノートPCを閉じ、研究という名目で悠真に抱きついた。


 その瞬間、ルナの監視システムの心拍数データが急上昇し、「司令塔」としての理性的な嫉妬が、静かに燃え上がるのだった。



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