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メゾン・ド・バレット~戦う乙女と秘密の護衛生活~  作者: ざつ


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第10.5話:悠真の疲労とアリスの優しさ

 _____________________

 1. ヴァイス戦の疲労と第三の魔物


 ドクター・ヴァイスの超音波狙撃による緊張と、ソフィアの負傷。そして、ルナとの秘密の「駆動部点検」を終えた翌朝、悠真は完全に風邪を引いていた。


「うう……頭が痛い……」


 これは、特殊フェロモン体質を持つ悠真が、極度の緊張と疲労にさらされた際に起こる現象だ。身体の「抑止力」が乱れ、免疫力が低下する。


 ルナの冷静な司令が、すぐに部屋に響いた。


「志藤様。体温38.5度。任務への支障が出始めています。バレット隊は看病メンテナンスプログラムを優先し、志藤様の早期回復に全力を尽くしなさい!」

「やった! ルナ隊長命令! 悠真くん、私が看病するね! 恋人役の特権で、最高のメンタルケアを提供するよ!」


 アリスがフリル付きのパジャマ姿で、嬉しそうに飛び込んできた。彼女の瞳は、任務と独占欲の暴走でキラキラと輝いている。


「ずるいです、アリスせんぱい! メイだって、悠真せんぱいの体調管理を任されています! 看病はデレ多めのツンデレな愛でなければ効きません!」


 メイはオーバーサイズのTシャツ姿で、ツインテールを揺らしながら訴えた。


「全員、静粛に! 感情的な独占は禁止です。私はカロリー計算とデータ管理で、志藤様の理性的で完璧な回復をサポートします」


 クロエは、白衣にメガネという寝間着姿で、冷めた目で二人に牽制をかけた。


 その時、悠真の布団の足元から、カリカリという微かな音が響いた。


「また、魔物……? さ、三匹目だぞ!?」


 悠真が目を凝らすと、そこにはハリネズミほどの小型甲殻生物が丸まって震えていた。全身は硬質な甲羅に覆われ、いくつもの小さなスパイクが立っている。


「クロエ! 新しいテイム魔物モンスターよ!」


 ルナのモノクルが光る。


「データ解析。これは第三のテイム魔物、そうね、名前は『スパイク』です。ゾルゲ戦やヴァイス戦といった極限の戦闘ストレスが、新たな魔物覚醒のトリガーとなったと推測されます」


 クロエは冷静に報告したが、その目の奥は興奮に満ちていた。


 _____________________

 2. テイム魔物の膝上戦争


 新たな魔物「スパイク」の出現は、看病バトルを「テイム魔物の膝上戦争」へと一気に加速させた。


 スパイクは、その牽制・陽動能力を誇示するかのように、悠真の布団の上をチョロチョロと高速で移動し、悠真の頬にそっと頭を押し付けた。


「きゃー! スパイクくん、可愛すぎる! 悠真くん、この子、防御と索敵しかできないスライミーやファントムと違って、攻撃もできるんだよ!」


 アリスは、スパイクの可愛らしさと戦闘能力に、早くも魅了されていた。


「そうですよ、悠真せんぱい! スパイクはメイの超高速体術をサポートする『おとり』として、将来性があります! メイの側にいなさい!」


 メイはツンデールながらも、スパイクを自分の仲間だと主張する。


 悠真の膝の上には、スライミー(防御)が鎮座し、ファントム(索敵)が黒い煙を漂わせ、そしてスパイク(牽制・陽動)がちょこまかと動き回るという、三つ巴の構図が完成した。


 そして、その三体の魔物を巡って、メイドたち(ルナ、アリス、メイ、クロエ)の独占欲の矛先が向けられる。


「待ちなさい。スパイクは牽制・陽動能力を持つため、司令塔としての私が、その行動パターンを解析し、戦略的な優位性を確立しなければなりません!」


 ルナは、スパイクの戦略的重要性から、「理性的な独占」を主張する。


「ふふん。ルナ隊長なんて理屈っぽい! 素直に可愛いって言えばいいのに~。ねぇ、悠真くん、恋人役の私こそが、テイム魔物を管理する愛の特権を持っているのよ!」


 アリスは、恋人役という立場を最大限に利用しようとする。


「ちょ、ちょっと、ルナ隊長、アリス。その魔物は、悠真様の能力の安定度を測るセンサーです。私は研究用データ収集と称して、悠真様と魔物たちの距離を測る。これが、最も理性的で美しい独占です、ぐふふ」


 クロエは、そう言いながらノートPCを膝の上で開き、悠真と三体の魔物の間に、冷静に定規を差し入れた。明らかに目が血走っている。


 ルナは額に手を当て、深い溜め息をついた。


「……規則は、テイム魔物にまで嫉妬を向けないようにするためにもあるのです。全員、自制なさい!」


 その夜、ソフィアが作った栄養満点の夕食を悠真が食べた後。


(ソフィアは、生体部の応急処置を終えたばかりだが、母性的な愛から悠真の食事を用意した後、地下のメンテナンスルームに戻った)


 _____________________

 3. 秘密のラブラブシーンと駆動音のギャップ萌え


 メイドたちの献身的な看病と、テイム魔物たちのコミカルな独占欲バトルのおかげで、悠真の熱は徐々に下がっていった。


 深夜。ルナの厳しい監視体制が敷かれる中、悠真はなかなか寝付けなかった。


 その時、扉が極めて微細な音と共に、ごく僅かだが半開きになった。


 ルナとメイの部屋の駆動音ではない。静寂の中で、甘い花の香りが悠真の部屋に流れ込んできた。


(この香り……アリスだ!)


 悠真が息を殺していると、フリル付きのパジャマ姿のアリスが、そっと部屋に忍び込んできた。彼女の瞳は、月明かりの下で任務と愛の炎を秘めてキラキラと輝いている。


 アリスは悠真のベッドサイドに跪くと、彼の頬に優しくキスを落とした。


「しーっ……。ルナ隊長の監視システムは、私が『恋人役』として悠真くんの『心拍数をチェック』するという任務範囲だと誤認するように、私がさっきハッキングしたから大丈夫よ」


 アリスは、そう言って悪戯っぽく微笑んだ。


「今回は、メイの部屋の駆動音のノイズが、監視システムの盲点になってくれたわ。ね、悠真くん」

「ア、アリス……」


 アリスはそっと、悠真の額に手を当てた。


「熱は下がったみたいね。カフェでしたキスとは違うわ」


 アリスはそう言うと、悠真の唇にそっと、そして長くキスをした。


「っ、アリス! 風邪が移るぞ!」


 悠真は慌てて体を起こそうとするが、アリスはそれを許さない。


「いいの、大丈夫。私はサイボーグだもの。悠真くんの風邪は、私には効かないわ。だから……安心して、風邪を私に移して? これが、任務を越えた最高のメンタルケアでしょ?」


 アリスはそのまま、悠真の隣に潜り込んできた。


(こんな大胆な接触……! ルナ隊長にバレたら、何を言われるか。危険なのに、心臓が跳ね上がる!)



 フリルとリボンに彩られたパジャマ越しに伝わる、彼女の完璧な女性の体温。


「ゾルゲ戦やヴァイス戦で、みんなボロボロになったんだから。こんな時くらい、公認の恋人役の私に優越感をちょうだい?」


 アリスは悠真の胸に顔を埋め、彼の心臓の音を聞きながら、小さな声で囁いた。


「ルナ隊長にも、他のメイドたちにも、誰にも教えないわ。これが、私たち二人の秘密のラブラブシーンよ」

「わかったよ……。ありがとう、アリス。君がそばにいてくれると、安心する。それは間違いないよ」


 悠真は、彼女の甘い独占欲を受け入れた。任務と愛が混ざり合った、この危険で甘い秘密こそが、彼女がサイボーグメイドであることの「人間的な証明」のように感じられたからだ。






 ルナは隣室で、心拍数モニターのデータを見ていた。


(心拍数は極めて安定。フェロモンの放出も基準値……。志藤様は熟睡しているわね)


 ルナは、アリスが施した巧妙なハッキングに気づかないまま、理性的な判断を下した。


 この出来事を機に、悠真とアリスの「恋人役」としての絆は、他のメイドたちには知られることのない、より深く危険な秘密として強まったのだった。



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