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メゾン・ド・バレット~戦う乙女と秘密の護衛生活~  作者: ざつ


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第10話:遠隔からの贖罪とバリアの限界

 _____________________

 1. 静寂を破る遠隔狙撃


 メゾン・ド・バレットのセーフハウスは、静かな日曜の昼を迎えていた。


 ファントムとスライミーは、悠真のデスクの周りで黒い煙と水色のゼリーを揺らしながら、お互いを牽制し合っている。


 悠真は、そんなコミカルな日常に安堵していた。


「平和だなぁ……」


 ルナはリビングで端末を操作し、優雅に紅茶を飲んでいた。いつものメイド服にモノクル。銀髪のロングヘアが、彼女の冷徹な美しさを際立たせている。


 その時、ルナのモノクルが不規則に点滅を始めた。

 直後、セーフハウス全体を覆う高出力の防護シールドが稼働し、金属が不気味に共鳴するような高周波音が響き渡った。


「志藤様! 危険です! 全員、戦闘態勢!」


 ルナの冷徹な司令が、セーフハウス全体に響き渡った。


「これは、ドクター・ヴァイスの超音波ライフルによる遠隔狙撃です!セーフハウスの防護シールドは物理攻撃には強いが、このタイプの透過攻撃には弱点がある!」


 ルナは即座に立ち上がった。


「ヴァイスの狙撃は連射性能に優れているが、それゆえに狙撃位置を特定しやすい。防御担当はソフィア!」

「アリス、メイ、クロエは志藤様の周囲へ急行し、周囲を固めなさい。私は司令塔コマンドタワーとしてゾルゲ戦と同じく遠隔指示を行う!」


 ルナの指示が飛ぶや否や、メイド服姿のアリスとソフィアが、悠真を庇うように飛び込んできた。


 アリスはライトニング-ケインを構え、小型のラウンドシールドを前面に突き出した。


「くっ! 遠距離からの狙撃なんて、卑怯だわ!」

「志藤様、お任せください!」


 クロエとメイも、それぞれの部屋から瞬時にリビングへ駆けつけてきた。


 クロエは即座にドローン『クインテット・スワーム』五機を悠真の頭上に集中させた。


「私とメイは志藤様の周囲を固めます。ドローンを集中させ、簡易的な電磁バリアを形成!」

「ク、クロエ、これで安心だよな?」

「いえ……これで防げるかは、データがないので断言できません!」


 クロエはそうコメントしつつも、悠真を護るために必死だった。


 ソフィアはグラマラスな体型を揺らし、即座にアルカナ・シールドを最大出力で展開した。


 青く輝くシールドが、リビング全体を覆い尽くす。


「これで大丈夫です。私のシールドは魔道エネルギー駆動。物理的な衝撃だけでなく、音波や高周波にも耐性があります」


 ソフィアは包容力のある笑顔を見せた。


 _____________________

 2. バリアの限界とソフィアの献身


 だが、ソフィアの自信は、すぐに打ち砕かれた。


 キィィィィィィン!


 超音波ライフルの一撃がシールドに叩きつけられた瞬間、シールドは凄まじい振動に襲われた。


 防御面は歪まなかった。

 だが、その高周波はバリアを透過し、内部の空気を振動させた。


「ッ! バリアが……音波を透過する!?」


 悠真は全身の鼓膜が破れるかのような激しい頭痛に襲われる。


「うぐっ……! なんだ、これ!」


 悠真の膝元にいたスライミーは、激しい音波に呼応するように、水色の全身を震わせ、悠真の体を覆うように小さな防護バリアを展開した。


 また、ファントムも黒い煙の体を激しく揺らし、超音波の発生源を探るように、部屋の四隅に情報索敵の煙を広げ始めた。


 ドォン、ドォン、ドォン


 砲撃は鳴りやまない、そして確実にピンポイントをついてくる。

 ソフィアの体も激しく震え始める。サイボーグボディは衝撃に強いが、内部の駆動部や精密機器が共鳴し、機能不全を起こしかねない。


 ソフィアは苦痛に顔を歪ませた。


「確実に効いています! ドクター・ヴァイスはゾルゲ戦のデータを分析し、防御特化の私たちを内部から破壊しようとしている!」


 ルナは冷静に司令を続ける。


「ソフィア! バリアを維持しなさい!」

「やってるわよ!!」

「クロエ、超音波の周波数を解析! 索敵ドローンを最大出力で展開し、ドクター・ヴァイスの狙撃地点を特定する!」

「了解!」


 クロエはノートPCを叩きながら、超高速で解析を進める。


 ソフィアは必死にバリアを維持した。彼女の額からは、人間の汗とは違う、オイルのような液体が滲み出ている。


「志藤様……わ、私は……この体と、この母性で……あ、あなたを……」


 ソフィアのグラマラスな体型が、極限の献身により、悲劇的なほどに美しく見えた。


 _____________________

 3. ルナの孤独な決断とエンジェル・ガードの連携


 超音波による攻撃は止まらない。バリアの警告音が悲鳴を上げ、ソフィアは限界を悟る。


「ルナ隊長! シールドの防御限界まで、あと5秒!ソフィアの生体部にも損傷が出ています!」


 ルナは即座に立ち上がった。銀髪を揺らし、モノクルの奥で状況を分析する。


「クロエ! 狙撃地点は!?」


 クロエが即座にデータを提示する。


「ルナ隊長! 無駄です! 狙撃地点は特定しましたが、距離11.5キロ。そして超音波による空気の強烈な乱れが、弾道を大きく変えます。理論上、有効なのはオリヴィア先輩のアーク・ホープによる『対重力高火力支援』だけです!」


 ルナは対物ライフル「ホーリー・シェル」の銃口を、窓の外の遥か遠くへ向けたが、クロエがそれを制止した。


「待ってください、ルナ隊長! 隊長の射撃精度をもってしても、弾道が逸れる可能性98パーセント。無駄弾です!」


 ルナは一瞬、駆動部の共鳴による激痛に顔を歪ませたが、司令塔としての意地でライフルの引き金を引いた。


「ッ……!それでも、司令塔としての一発!」


 ドドォンッ!


 対物ライフル『ホーリー・シェル』の聖水弾が発射された。しかし、超音波による空気の強烈な乱れが弾道を変える。弾丸はターゲットから大きく逸れ、虚空に消えた。


「データ通り、弾道制御不能! ルナ隊長、無駄弾です!」


 ルナは射撃を断念した。モノクルの奥に、悔しさが滲んだ。


「くそ……私の腕が、これほどまでに無力だとは」


「クロエ。これ以上リスクは負えない。超音波による共鳴で、私の駆動部も正常な動作を維持できない。本部へ支援要請を出すわ!」


 ルナは即座に、エンジェル・ガードの三人に要請した。


「ベアトリス先輩! ヴァイスの狙撃地点へ『鉄壁の秘書ガーディアン』を最大速度で展開! バレット隊のカバーをお願いします!」

「了解、ルナ。バレット隊のカバーは私たちの任務よ。アリスに顔向けできなくなるような失態は犯せないわ!」


「イヴ先輩! ヴァイスのライフルと周辺の電子機器へ『ジャマー』をかけ、弾道と索敵機能を乱して!軌道妨害と電子戦を要請する!」

「クロエのデータを常にチェックしているわ、ルナ。任せてちょうだい。私の弟子も頑張ってるようだしね!」


 ――その時、ルナの要請を待たずして、オリヴィアから通信が入る。


「了解、ルナ。判断が早くて助かるわ。オリヴィアよ。今の『試射』は無駄じゃなかったわよ。おかげで狙撃地点が絞り込めたわ!」

「さすがオリヴィア姉さん! あとはお願いします!!」

「こちらエンジェル・ガード、オリヴィア。M.A.総帥の指令に基づき、遠距離から援護射撃を開始する!」


 キィィィィィン!


 青い光の線が、セーフハウス上空を通過し、遥か遠くの狙撃地点へ向かう。

 11.5キロメートルをわずか0.04秒で到達する、電磁投射砲「アーク・ホープ」の強烈な一撃だ。


「ぐっ……! バカな、数的不利だ! 電子戦と同時攻撃だと!? てっ撤退、撤退だ!」


 ドクター・ヴァイスの叫びが、インカム越しに一瞬だけ聞こえる。


 エンジェル・ガードの同時攻撃により、ヴァイスは数的不利から撤退を決定した。


 彼の狙撃が途絶える。


 _____________________

 4. 戦闘後の再認識とマヤへの警戒


 超音波の共鳴が止み、セーフハウスに静寂が戻った。


 ソフィアは膝から崩れ落ちた。アルカナ・シールドのバリア発生器は、超音波攻撃により内部の魔力炉が完全に破損。彼女の脇腹の生体部にも、高周波による内側からの損傷が見える。


「ソフィアさん!」


 悠真はソフィアを抱き起こした。

 彼女のサイボーグボディは無事だが、駆動部の疲労と生体部の損傷は深刻だ。


「大丈夫です、志藤様……あなたの安全が確保できたなら、それで……」


 彼女の母性的な愛情は、任務を越えて悠真に注がれている。


 ルナは素早く報告を続ける。


「ドクター・ヴァイスは撤退。狙撃は精密かつ長距離。ゾルゲ戦以上に、私たちの情報が敵に漏洩している疑いが強いわ」


 クロエは冷徹な瞳で悠真を見つめる。


「志藤様。この一連の襲撃は、あなたが『支配力』を覚醒させたことへのミストの焦りです。そして、狙撃地点は、マヤという人物の大学の行動範囲と接続するエリアです。この偶然は、もう偶然ではない」


 悠真は、マヤの優しさを信じる心と、メイドたちが命がけで護ってくれている現実との間で、激しく揺れていた。


(俺を護るために、ソフィアさんがこんなに傷ついた。彼女たちのプロとしての覚悟は、疑う余地がない。でも、マヤは……)


 ルナの冷静な声が、悠真の苦悩を断ち切った。


「志藤様。ソフィアを地下のメンテナンスルームへ運びます。応急処置を優先。そして、『アルカナ・シールド』の破壊と、超音波による駆動部への損傷の有無を、緊急で確認しなければなりません」


 _____________________

 5. ルナの秘密と悠真の視線


 その日の深夜。悠真はルナに呼び出された。場所はセーフハウスの地下にある、高度なセキュリティに守られたメンテナンスルームだ。


 ソフィアはすでに、イヴ(理系オタク/ジャマー)の指示のもと、アリスやメイ、クロエが手伝いながら応急処置を受けている。


 イヴは白衣姿で、複数の精密機器を操り、ルナやクロエとはまた違う、理知的な緊張感を放っていた。


 ルナは静かに、そして事務的な声で告げた。


「志藤様。狙撃による駆動部への損傷は、私たちサイボーグメイドの致命的な弱点です。特に、司令塔である私の体は、精密なセンサーと通信機器が内蔵されています」

「私も超音波の共鳴による微細な損傷を確認する必要があります。これは任務の一環です。あなたは、外部の人間として、私の損傷確認の補助をしていただきます」


 ルナは、感情を一切見せずに、メイド服のファスナーに手をかけた。


 銀色のモノクルを外し、タイトな下着姿になる。その完璧なプロポーションと、白い肌の脇腹から背中にかけて走る、精密な駆動部の接合部が、悠真の視界に飛び込んできた。


「ッ……ルナ、その、そんな格好で……!」


 悠真は、超硬度アーマーが外された後の、完璧な女性の体が持つ色気と、その体に隠された精密機械の無機質な秘密の対比に、息を呑んだ。


 ルナは悠真の動揺を無視し、冷徹に語る。


「現実から目を背けないでください、志藤様。これは任務です。ゾルゲ戦の制裁の時にもお話ししたはずです。私たちは、あなたを護るために、自らの体の一部を機械に換装したサイボーグです」


 その時、イヴが悠真に指示を出した。


「志藤様。この小型スキャナーを、ルナの背中、特に駆動部の接続部に沿ってゆっくり動かしてください。ミリ単位の損傷が、私の弟子クロエが収集したデータに影響を及ぼします」

「は、はい……」


 悠真は緊張しながら、イヴの指示に従おうとする。


 イヴはクロエを振り返り、白衣のポケットから電子ペンを取り出した。


「クロエ。ソフィアのバリア発生器の破損データと、ルナの駆動部の共鳴データをリンクさせなさい。私たちは常にデータを最優先する。この損傷確認も、極めて重要な研究の一環よ」

「はい、師匠」


「ルナ先輩! 待ってください! 私も今回の超音波攻撃で駆動部に微細なノイズを検知しました! わ、私も恋人役として、悠真くんにチェックしてもらう特権があります!」


 アリスが、ソフィアの脇腹を縫い合わせる手を止め、嫉妬の声を上げた。


「そーですよ、ルナせんぱい! メイだって超高速体術のせいで、駆動部の接合部に負荷がかかってるデータがあります! 悠真せんぱいに『優しく』点検してもらわないと、任務に支障が出ます!」

「ちょっと、メイ! あんた、さっきの戦闘で、自分の得意なことで何もできてないじゃない! 壁になっただけで、敵に有効打を与えてないくせに、便乗しないで!」


 アリスが鋭いツッコミを入れると、メイはすぐに反論できず、ぷぅっと頬を膨らませて俯いた。


 クロエは冷静に答え、自らの師であるイヴの指示に従い、分析を再開した。


 ルナは悠真に背を向けた。


「あなたたちの感情的な独占欲は、後のデータ収集に回しなさい。これは、司令塔(私)と護衛対象(志藤様)の、プロフェッショナルな任務です」


 そして、淡々と続けた。


「あなたは、私たちのプロフェッショナルな『秘密』を垣間見てしまった。これは、私たちを信じ、あなた自身の優柔不断さを乗り越えるための贖罪あがないでもあります。背中の駆動部を点検してください。微細な傷でも、私の司令機能に影響を及ぼします。これは、あなたの命に関わることです」


 ルナの言葉は、冷徹で事務的だったが、悠真は感じた。

 この「秘密」を悠真だけに晒すこと。それは、ルナの理性的な嫉妬と不器用な忠誠心の、任務を装った「独占欲の片鱗」ではないかと。


 悠真は、ルナの背中と、そこに隠された機械の秘密を、震える指先でなぞるのだった。



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