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9番ピッチャー鳴沢さん  作者: タケヒロ
第一章 高校野球への思い
5/15

5 投手夏帆のひみつ

 冬の訪れを感じさせるように時おり冷たい風が吹き下ろし、秋の名残の淡い日射しがそれを和らげながら降り注ぐ滝岡高校野球部グラウンド。

 選手たちは試合用のユニフォームを着用して一塁側ベンチに集合していた。ウインドブレーカーで身を包んではいるけれど、やっぱりメタボを隠しきれない三津田監督、何やら今日はウキウキしている?

「いいか、今日は以前から予定していた練習試合だ。鳴沢コーチを迎え、また夏帆もユニフォームを着用して臨む初めての試合でもある」

「「ハイ」」

 隣町の高校との練習試合。夏帆も、試合用ユニフォームを着用してはいるけれど細い背中は白地のまま、みんなの並ぶ一番端に立っていた。

「前回の三校合同の練習試合後の練習の成果を、そしてみんなの今の力、更にこの先の滝岡高校野球部の希望を見せてくれ!」

「「ハイ!」」


 滝岡高校先発ピッチャーは、エースナンバーを付けた二年生の菅里志郎。いつものように威勢よくマウンドに登り、右腕をぐるぐる回す変わらない姿。


「よーし、俺が抑えるから見とけよ!」


 しかし、ベンチ内では……

「始まったよ、いつもの菅里節」

「あの勢いが、段々と愚痴になって文句になるんだよなぁ」

「試合終了が怖いよ……」

 試合前にも関わらずベンチの重たい空気を想像している選手たち。

「おいおい、キミたちは菅里と同学年だろ。少しは応援したらどうだ?」

「はい……。そうなんですけど……」

「菅里に、チームの一員としての自覚を持てばプレーにも現れるってことを、キミたちがアドバイスしてはどうだ?」

「それはそうなんですけど、菅里にはまともな話は通用しませんし、あの性格は小学生のときから変わらないんです。学校の先生や野球クラブチームの指導者の方々も言い聞かせてましたけど、結局あの調子なんです」

「そう言わずに……」

「すみません。菅里に関してだけは、触らぬ神にたたりなしです……」

 三津田監督もわかってはいること。しかし、今のままでは菅里が孤立してしまい人を信じられなくなってしまう。また、小中学校とピッチャーを経験してきたからこそ本当のエースになって欲しいという思いが、三津田監督の心の中にあったのだ。


「ヨシッシャ、三人で終わらしてやるぜ!」


 対戦相手は、近年力を付けてきたとはいえ格下のチーム。しかし……、この試合もやっぱり菅里のパフォーマンスに滝岡高校は大苦戦。フォアボールでランナーを出しては、ストライクを取りにいった球を狙い打ちにされ、打たれてはふて腐れて人のせいにする。

「打たせれるんだからしっかり守れよ!」

「さっきは、抑えてやるって……」

「状況を見てわかんないのか! その時々で最善の作戦で戦ってんだよ! 臨機応変に対応しろよ!」

 暴言を吐きながらグラブを地面に叩きつけるというだらしなさ。まぁ、これがいつもの菅里ではあるが……。

 ベンチではしかめっ面でその状況を見つめ、腕組みで拳を隠していた三津田監督だったが……。


「ここまでか……」


 活躍できるのは身内同士の紅白戦だけと見切りを付けて、四回表ノーアウトのところで菅里を引っ込め、同学年の嶋内をマウンドに送った。

 嶋内は中学時代、軟式野球部のピッチャーだったが一回戦負けの経験しかなく、高校に入ってから本格的な指導を受けてはいるが菅里の威圧的な態度に押されて思うような練習ができていないことと、何よりも経験不足が心配な投手であった。

 その嶋内の投球練習を見つめる三津田監督。球速は早くないが球筋はとても素直で、変化球も球種は少ないが崩れなければコントロールもいい。

「んー……、やっぱり夏帆と嶋内、被るな」


「タイム!」


 この練習試合、元々監督同士がツーカーの仲ということもあり、四回表が終わるタイミングで三津田監督が動いた。

 直々に相手監督の所へ足を運び、ニヤケた顔で何やら話をしている。それを相手監督も受け入れたのだろう、三津田監督の口元が「よろしく」と動いてメタボ体型を揺らしながら一塁側ベンチへと戻ってきた。

 そして、二年生キャプテンに呟く通る声。その声はスコアラーとしてベンチに入っている遥香と翔子にも届いた。

「遥香先輩、次、夏帆です!」

「だね!」

「いよいよこの時がきたんですね。ワクワクしますね!」

「それはそうなんだけど……。でも正直、男子と比べるとどうなんだろうって……」

「はい、それは……。考えてみれば確かに怖いです」

 祈るような心境で見守る翔子と遥香をよそに、ウォーミングアップを始める背番号のないユニフォーム。


 試合は六回まで進み、相手高校の得点は遂に二桁になっていた。しかしその裏の攻撃で滝岡高校自慢の打線が爆発したことにより大量点を加え、これを好機と見た三津田監督は七回表、滝岡高校が守備に着くタイミングで立ち上がった。

「夏帆!」

 ブルペンで投球練習をする夏帆に声をかけると、ちょっとキザにマウンド方向へ人指し指を向けた。

「大和、夏帆を頼むぞ」

「はい!」


 遂に夏帆が、夏帆が試合に出る!


 三津田監督の指示を受けて小走りでマウンドに向う夏帆と大和。

「よかったですね、夏帆さん」

「はい。でも緊張しますね」

「夏帆さんも緊張するんですね?」

「そりゃしますよ」

「そ、そうですよね」

「あっ、わたしのこと、夏帆、でいいですよ」

「そ、そう。じゃ、そう呼ばせてもらおうかな。夏帆…………さん」

 試合よりも、夏帆、と呼ぶことのほうが緊張してしまう大和の純粋さが、久々の投球に胸踊らせ緊張していた夏帆の心を和らげた。

「ハハハッ、大和君おもしろい。結局、さん、付けてるし」

「は、はい」

 つい敬語になってしまう大和。中学時代のことが、今も印象深く残っているからなのだ。


「ところで大和君、わたしの球ね、少しフレるから」

「えっ?」

「あと、ジャイロも見づらいかも」

「はっ?」


 グラブで口を隠すことはしないけれど、マウンドの足元を整えながら下を向いて話し出す夏帆。

「えっ? この前の投球と何か違うの?」

「あんな素直な球投げてたら打たれるでしょ、私の球?」

「そ、そ、そう、だよね。やっぱり、何か秘密があるんだよね、夏帆さんの球!」

 嬉しさとワクワク感が同時に沸き上がってきた大和。中学時代に味わった違和感を持つ球の正体が、今度こそわかるとばかりに!

「大和君はミットを構えててもらえば大丈夫だから」

「わかった。夏帆……、ちゃん」

「ハハハッ、今度は、ちゃん付け?」

 夏帆は笑い、大和は苦笑うマウンド上での意思合わせ。


 良かったな夏帆。その笑顔、久しぶりに見る気がするよ。マウンド上で思う存分暴れてこい!


 澄んだ空

 雄大にそびえる山々

 彩りの街路樹

 見慣れたグラウンド

 踏みしめるマウンド

 そして、ありがちな練習試合。


「フゥーー」


 マウンド上で天を仰ぎ大きく一息。

 投球練習七球が与えられたその第一球、大和のど真ん中に構えたキャッチャーミットをめがけ、夏帆の試合用ジャイロボール。


 バシッ!


 何だこのグルグル!

 初めて見る球に目を丸くする大和。

 間髪入れずに「次」と夏帆の口が小さく動いた。コクリとうなづきミットを構える大和。


 バシッ!


 思わず体が強張り片膝を付きながらキャッチした大和。


 それはそうだろう。夏帆特有の試合用ストレートは、女子でも男子に通用するために仕込まれた、父直伝のストレートだ!

 まともに見ると、かすかにフレている。大和は夏帆の言葉を信じミットを動かさずキャッチしていたが、思わず目まいでも起こしたと思っただろう。

 しかしさすが大和だ。初めて見る夏帆の魔球に一瞬焦りを覚えたけれど、むしろ夏帆の秘密の投球にとても納得と満足感を味わっている。


 プレイ!


 試合は再開し 、低くかがんだサイドスローからの記念すべき練習試合の第一球。

 

「よっしゃっ!」

 コキン!

「えっ?」


 しっかり捉えたはずの打球はなぜかボテボテのサードゴロ。その違和感に思わず漏れたバッターの声だった。そして続くバッターも凡打し、簡単にツーアウト。


 そうなのだ。捉えているのに打ち取られているという不思議感。夏帆が「フレる」と言った球は、ここに来るだろうと見定めた位置からほんの少しずれてくる。バッターの目ではわからない程度のズレだ。これではまともに芯に当たらないのは当然。


 これが夏帆の投げる、魔球なのだ。


「ヨシ、あと一つ。ていねいにイコーゼー」

「オーケー!」

「夏帆さん、後ろは任せて!」

「うん。お願いね、みんな!」

 続くバッターは、前打席で長打を放ち大量得点をあげたスラッガーだ。まずは変化球でカウントを稼ぎ、遊び球には首を振って三球勝負を狙う夏帆。勝負球として大和のサインにうなづいたのは、真ん中高目のジャイロボール。

 さっき長打した真ん中高めを選択した夏帆に焦りの色を見せる大和。一方、夏帆は平然と投球モーションに入る。

 大和、ここは夏帆に任せよう。ボクも驚くほどの投球術を見せてくれるから。


 夏帆が選んだジャイロボール。特徴として、その回転は通常の縦回転でも変化球の横回転や逆回転でも、もちろん無回転でもない。風車のようなジャイロ独特の回転をするのだ。そのため空気抵抗が通常とは違って沈まない。逆に言えばバッターの手元から浮かび上がってくるように見える魔球だ。

 このバッターは前打席で真ん中高めを長打してる分、自信を持って手を出してくる。そこにジャイロボールを投げ込んで空振りを取る!


 ストライクスリー!


「ヤッター! 監督さん、夏帆やりましたよ!」

「ああ! ああ!」

「凄いです夏帆ちゃん! 男子相手に凄い! 凄過ぎます!」

「そうだな! 本当にそうだ!」

 練習試合ということで記録員としてベンチに入っている翔子も、そのアドバイスをしている遥香もビックリ!

 もちろん選手たちもベンチで、そしてギャラリーで盛り上がる。もしかしたら一番驚いているのは三津田監督かも知れない。

「本当に、こんな女子選手がいるのか? しかもピッチャーで……」

「スゴイぜ夏帆ちゃん!」

「これが新生滝岡だ!」


 さてはともあれ、相手バッターをキリキリ舞に取るきゃしゃな夏帆。みんなの目には、弱い者が強い者に挑む姿が、とてもカッコよく見えたことだろう。

 三津田監督も驚いているのか喜んでいるのか、どっちも重なったような表情を見せながら、両手を強く叩いて夏帆を迎える。

「ナイスピッチだ、夏帆!」

「ありがとうございます」

「夏帆ちゃん、ナイス、ナイス!」

「凄いよ夏帆ちゃん! まさかこれほどまでとは思わなかった!」

「夏帆ちゃんは実戦向けのピッチャーだね!」

 マウンドから戻ってきた夏帆をベンチの全員がハイタッチで迎え、思いがけないスターの誕生に盛り上がりを見せた。

「よし、この勢いで追加点だ!」

「「ハイ!」」

「繋いでいこう!」

「「オーケー!」」

 興奮冷めやらぬところではあるけれど、三津田監督の言葉に気持ちをすぐに切替えるベンチ。


 その静まる流れに乗じて、グラブを手にしながら大和の隣に腰を下ろす夏帆。

「ナイスピッチング、夏帆さん」

「ありがとう。それで大和君、わたしのフレる球、内緒ね」

「えっ?」

「これはお父さんとわたしの秘密なんだ。知ってるのはお兄ちゃんだけ」

 グラブの手入れをしているふりをしながら小さな声で伝えた。

「わかった。でも一人だけ教えちゃダメ?」

「えっ、誰に?」

「猛……。青野猛。アイツも荻野原クラブで対戦したときから、夏帆さんに興味を持ってるんだ」

「そうなんだ。じゃあ猛君にだけ、あとは絶対内緒ね」

「うん、わかった」

 大和の言葉を確認しながら、素知らぬ顔のままグラブの手入れを続ける夏帆。

「……ところで、また、さんに戻ってる」

「んっ? ……あっ! でも、やっぱり夏帆さんが凄いから、つい、さん付けになるんだよ」

 照れ笑いをする大和に、何となく心を許せる人かなと感じている夏帆も、自然と笑顔になっている。


 そして、その後も夏帆の球をまともに打てるバッターはなく、流れは完全に滝岡高校ペース。勢いに乗じて更に得点を加えた滝岡高校は大差で勝利した。

 練習試合とはいえ久々の快勝。その大きな要因となった投手夏帆の話題で大盛上りしながら、今日の部活動は終了した。

 新たな戦力に名残惜しいけれども電車通学をしている部員が多く、話題の続きを話しながらジャージ姿で駅へと流れている。


「お疲れ、遥香!」


 その声に長い髪をなびかせながら振り向くと、まるで夕陽の輝きを後光のごとく背負う菅里が近づいて来た。

「お疲れ様です」

「おぅ、翔子もお疲れ」

「ちょうど今、翔子ちゃんと夏帆ちゃんの話をしてたんだ」

「はーん。しかしカホ、あんな球じゃ、いつか打たれるぜ。今日は初お披露目だし、監督も打たないようにって相手に頼んだんじゃねー!」

「そんなことはないでしょ」

「そんなことあるよ! じゃなきゃ…………」

「夏帆ちゃんにエースナンバー取られたりして!」

 夏帆の高校野球に賭ける思いも知らないで……。とばかりに菅里の言葉に噛み付いた遥香。さらに、その通りとばかりに翔子の表情も固い。

「何ぃ! この俺からエースナンバーを取れるわけないだろ! 俺が滝岡のピッチャーをまとめてるんだし! 監督からの絶対的な信頼もある!」

「あーー、ハイハイ……、わかってる、わかってるって……。滝岡のエースは菅里君しかいないよ。えーーっと、そう、ただ気を抜かないでって言いたかったの……」

「そうか。そういうことなら俺は大丈夫だ! どう見ても俺を越えるピッチャーじゃねーし! まっ、滝岡の一本柱と言われる俺だから!」

「危ない危ない。またややこしいことになるところだった」

「んっ? 何か言ったか?」

「いや、何も……」

 逆ギレする菅里に驚き、それをなだめる遥香のうまさに感心し、上りの電車時刻に合わせて道を急ぐ翔子たち。


 どのような会話をしているのかはわからないけれど、その遥香や翔子たちの姿を遠くに見ながら、田園の広がる道路を駅へと向かう大和と猛、そして夏帆の三人は下りの電車時刻に合わせてゆっくりと歩きながら話し込んでいた。

「そんな球を投げてたんだ!」

「そう、夏帆さんはいろんな球を自在に操ってるんだ!」

「中学んときもスゲーって思ったけど、実際を知ると想像以上だな。さすが光輝さんの妹さん、鳴沢兄妹だ」

「ありがとう。お兄ちゃんのことも覚えていてくれたんだ」

「もちろんだよ。だって、軟式野球界から突然現れて、自慢の荻野原打線を完全に封じ込めた怪物だし、カッコいいし、忘れるわけないよ!」

「そして、次の年には夏帆さんが登場して、俺たちに打たせてくれなかったしね」

「そうだったね」


 久しぶりの試合に気持ちが高揚した夏帆。二人のことを信頼して球種の正体の他にも、ボクの現在の姿も話したのだった。

「えっ? あの、光輝さんが……」

「噂には聞いていたけど、そんなに酷いことになっていたなんて……」

「何も知らなくてゴメン」

「ううん、そんなことないよ。ただ、わたしはお兄ちゃんのためにも野球をやりたいの。お兄ちゃんにマウンドで投げるわたしの姿を見せたいの。できるだけ多く、できるだけ大きな試合で……」

「それで、甲子園……」

「うん」

 夏帆の、ボクへの思いを込めて高校野球にかける本気度を知り、感銘を受けた大和と猛。三人は中学時代のライバル、そして今は夢を共にする同志として、この日の夕日のごとく心を熱くしていた。


 後日、大和と猛は改めて夏帆の投げるフレる球を打てるか試してみることに……。フレる球、という目で見て球の軌道をすくい上げるように合わせると、割りとドンピシャの打球を飛ばすことができた。

「球筋がわかると、狙えば打たれる球かもな……」

「フレる球を活かすために、ジャイロボールや変化球をうまく組み立てて効果を発揮させる、ということか……」

「さすがお二人さん。お父さんに言われている配球を見抜きましたね!」

「え、お父さん! あっ、ごめん、コーチからも言われてたの?」

「そう。特に中学の養成クラブに入ってからは事細かにね」

 大和と猛は顔を見合わせた。この親にしてこの子あり、と、いったところだろう。


 そして、夏帆の戦力に期待を込めつつ日々の部活動をこなし、街中が雪化粧に包まれたころには年が明け、室内練習場での基礎トレーニングからグラウンドへと場所を移動するころには、春の大会へ向けた新メンバーが発表された。

 エースナンバーは二番手だった二年生の嶋内。しかし安定性に不安が……。

 背番号10、二番手ピッチャーとして一年生からスピード重視の吉田。しかしコントロールに不安が……。

 背番号11、三番手となるピッチャーにも一年生から鎌上。器用な所を買われたがピッチャーとしの経験は少なくメンタル面でも不安……。

 そして背番号14は夏帆に与えられた。ただし夏帆は条件付きの背番号である……。


「14番、復活だね!」


「えっ? 大和君、養成クラブのときのわたしの背番号、知ってたの?」

「当たり前だよ! 光輝さんから受け継いだ14番!」

「荻野原クラブはハッキリ言って、14番兄妹にはかないませんでした!」

「猛君まで……」

 大和、猛と話す夏帆の声は明るく弾んでいた。他愛もない会話に盛り上がれるいい関係が築かれている。そして、このメンバーと野球ができる夏帆の喜びはひとしおだ。


 夏帆、一歩前進したな。でもこれから進む道は変わらず平坦なものではないかもよ。くじけるな、お兄ちゃんもついてるからな。


 そういえば……。


 部員の誰もが触れなかった、と言うか単純に忘れていたのか、元々なかったかのような扱いになっていたのは、二年生元背番号1番の菅里志郎である。

 新たな戦力として編成された投手陣に選ばれなかった菅里。三津田監督の計らいでバッター転向という指示を受けたのだが、それからの部活動に姿を見せることはなかった。そして時を置かずして野球部を退部、滝岡高校からも姿を消していた。

 部員たちがそのことを知ったのは、学校の正門に彩る桜が今にも咲きそうな穏やかな日のこと。進級を目の前に気持ちを新たにし、甲子園談義に話が咲いたときのことであった。



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