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オタク病  作者: 雨月黛狼
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第7話 私は友達が少ない


 翌朝、俺は環の席の前に立つ。それに反応し、環はヘッドフォンを外す。


「…………お、お、お、おう、おう、」

「あら、人型のオットセイが目の前にいるわね。これは珍しい。写真でも撮っておこうかしら」


 そう言って環は俺の写真を撮る。環は俺に写真を見せてくる。汗ダラダラで気持ち悪いこの男は一体誰だ……?


「……誰がオットセイだ。挨拶しようとしてるだけだ」

「ごめんなさい。オットセイ語はわからないの。日本語かポルトガル語、あ、ごめんなさい。日本語はわからないんだったわね」

「オットセイ語なんてねえし、ポルトガル語なんてわかるか! ふつーに、あれだ。お、おはよう、環」


「おはよう猪尾くん」


 環は俺から視線を外し、本を読む。


「……昨日と話しが違うじゃねえか。名前で呼ぶんだろ」

「そんなこと私、了承したかしら」


「あ~わかった、お前照れてんだろ。なんだどうしたいきなりツンデレアピールか? そんなリアル、俺に通用するわけがねえだろ」


「口が減らないオットセイね」

「だからオットセイじゃねえ! ほら、来いよ! 名前で来いよ!」


 環は本を閉じ、ため息をつく。


「そんな熱血的な受け止められ方嫌なのだけれど、えっと、その……宅也」


「お~よくできました。そこでお前の心の中でこう思うわけだ。えっ、なにこの気持ち。もしかして――」


「いつまでそこにいるの? 早く席に着きなさいよ」

「せめて最後まで聞いて? おい、このやり取りで付き合ってる感全然出ねえだろ。どうすんだよこれ。もっとドキッとする感じ出せないの?」


「あなたがふざけるからいけないんでしょう」

「ふざけてねえよ。……んじゃあ、わかったよ。俺から行くぞ。おはよう環」

 そう言って俺は環の頭に手を乗せる。


「おはよう、宅也。今日もいい天気ね。手、汚らわしいわ」


 そう環は言って、俺の手をはねのける。


「途中までいい感じだったよね? どうしてそう俺を貶さないと気が済まないの?」

「だってあなたの手って、色々なものに触れてるものでしょう。色々と」


「い、色々って、なんだよ」


 なんだよ色々って。言ってみろよ。ほら! なんて当然言えない。


「さあ、何かしらね。とにかく触れるのはなしよ」

「少女漫画だとありがちだと思うけどな」


「いきなり髪に触れないわよ。あなたリアルの女子の髪をなんだと思ってるの? あなたの命よりも重いのよ。謝罪しなさい。ほら。重力に逆らうんじゃないわよ」


 そう言って、環は床を指さす。

 俺はその場で跪く。


「はいはい、すみま――って、ちょっと待て。俺も流れで土下座しそうだったけど! カップルは普通、朝の挨拶で土下座しないだろ⁉︎」

「あら、あなたてっきり謝罪だけは一人前にしてると思ったのだけれど。何も悪いことしていないのに、すみませんとつい口にしてしまう、あれよ」


「ぐっ、どうしてお前コミュ障特有の癖を知ってんだ」

「私がそうだからよ」


「誇らしげに自分のコミュ障を告白するな。つかお前なんでぼっちなの? そこら辺もラノベ主人公リスペクトしてんの?」


 主人公と言うよりはヒロインか? 私は友達が少ない的なラノベか?


「友だちって何? 私の辞書にはないわ。それに、この子が私の唯一の親友」


 そう言って環は白いヘッドフォンを撫でる。


「なんか俺、お前と話してると悲しくなってくるんだけど。つーか、それだよそれ。お前ずっとヘッドフォンしてるから誰も話しかけられねえんだよ」

「私の親友を馬鹿にしてるの」


 環は俺を睨む。


「いや怖っ! あのな、お前、社会性を周りに見せるんだろ? せめてずっとヘッドフォンは外せよ」

「嫌よ。このスタイルは私のアイデンティティなのよ。これがなきゃ今頃私は脚をがたがたと震わせ、生まれたての小鹿のようになるわ」


「お前どんだけメンタル弱いんだよ。はあ、まあわかったよ。じゃあ俺と話すときだけは外せよ」

「今外してるじゃない。あ、ちょっと待ってね。もうすぐでこいついなくなるから」


 環はヘッドフォンに話しかける。


「いやだから怖い! なんでヘッドフォンに話しかけてんの⁉」

「愛する物には魂が宿り、妖精になるのよ。なに? あなた『ふぇありるふぇありる』も観てないの?」


「末期だよ! 妖精とじゃなくて人間と話せ!」


 いや俺も『ふぇありるふぇありる』は観てるけどさ。何かに魂宿って俺を癒してくれる妖精現れないかな……。


「私にはこの『ほわいと』だけで満足してるわ」

「名前までつけてんのかよ……。はあ、そんじゃ人紹介するか」


 ヘッドフォンを撫でる環をよそに、一ノ瀬の席に向かう。

 一ノ瀬に言うんだ。俺と環が付き合っているって。そうすれば、俺の見方を変えてくれるかもしれない。


「……お、おは、」

「おはよう猪尾くん! 猪尾くんから挨拶なんてはじめてじゃない⁉」


「まあ、そう……だな。その、お前に頼みがあって」

「え、なになに?」


「お前と友だちになってほしいやつがいるんだよ、ほら」


 俺は環を指さす。すでに環はヘッドフォンをし、ラノベを読んでいる。

 おい、今から紹介するってのにデフォルトに戻ってんじゃねえよ。


「え! 久遠さん⁉ な、何⁉ ついに猪尾くんは現実世界に興味を抱いたの⁉」

「ま、まあそんな感じだ。とにかく、来てくれ」

「うん!」


 俺と一ノ瀬が環の席の前に行く。


「おい」


 環はヘッドフォンをしたまま本を閉じる。


「おい環。ヘッドフォン外せって」


 聞こえてるかわからないが、俺は声を掛ける。すると――


 ガンッ!


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