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話し相手

「回収対象が人間なら最初に言ってくれないか?」


 電話口の相手――ウィルに不満をぶつける。


 事務所まで戻ってきて、ソファにジャンヌを横にさせたのち、俺は仕事の達成報告をしていた。


『何、ちょっとしたサプライズだ。それに最初からそう言っていたら、お前が変に気を回して時間がかかる可能性があっただろう?』


 確かに、最初からあのユニットの概要を聞かされていた場合、俺は食料や様々な装備を用意していったかもしれない。その結果出発が一日遅れることもある。そう考えればウィルの情報提供は過不足なく完璧な物だった。


「……で、引き渡しは?」

『それだが――その前に、ユニットは破壊したか?』

「いや、壊してはいない。少々細工はしたがな。なんにせよ認証キーは今いるこいつを使うか、俺の指示が無いと生成できないようになっている」


 ウィルの問いかけに、俺はユニットで何をしたかを説明する。


『お前が言うならそうなんだろうな……だとすれば、しばらく匿っていてもらうことはできるか?』

「どういう事だ?」


 突然降ってわいた仕事に、俺は思わず聞き返していた。


『ほとぼりが冷めるまで、というのが正しいか、別に数か月預かってほしいという訳ではない。精々一週間、現在回収しに行った部隊が戻ってきて、認証キーがないと分かった辺りでこちらのカードとして持ちたい』


 なるほど、一番乗りで認証キーを取りに行ったと思われたくないという訳か。


「仕方ないな」


 そういう事であれば、これも仕事の延長という所だろうか。俺は溜息を一つついてから答えた。


『それと……依頼者から言伝だ』


 通話を切ろうとしたタイミングで、ウィルが口を開いた。


『「君の願いに応えられているか?」だそうだ』

「ふん、それを気にするくらいならもうちょっと端街まで物資を流せ。そう伝えておいてくれ」


 俺はそう言って受話器を置く。


――バイル。しばらく彼女を預かるとのことでしたが……

「ああ、しばらく食い物の収集に精を出さないとな」


 人間一人分の食事を追加で集めるのは、簡単ではない。


 中型以上の原生生物を狩猟すれば一体で数日は食べられるものの、原生生物は昨夜遭遇したように、群れで行動するものが多い。一体だけ狩ってきてどうにかする。というのはなかなか難しかった。


 なにせ原生生物は脅かして退散させることもできず、他の個体が死んだところで、襲い掛かるのを止めないのだ。


「あの」


 どうやって食事を工面するか、酸素缶の消費を抑えてばあさんの所でカレーもどきを食べるか? しかし、無駄な出費は抑えておきたい……様々な方策を考えていると、ソファに寝ころんだはずのジャンヌが起き上がっていた。


「どうした?」

「バイルさんは何故機械の修理をできるんですか?」


 彼女の表情はやはりどこか無機質で、普通の人間と応対する時と比べると違和感が残る。だが、その奥にある情緒は普通の人間と変わらないように思えた。


「まあなんだ、昔取った杵柄って奴だな。中央街に居た頃は技師をやってた」


 俺がそう答えると、ジャンヌは声のトーンをわずかに上ずらせる。


「じゃあ、ノアの修理もやっていたんですね?」

「それが原因でこんな所にいるんだがな――ま、俺の話は別にいいだろ。なんにせよしばらくはここで暮らしてもらう必要が出てきた。ソファは寝心地が悪いだろうが、我慢してくれ」


 俺は適当にその話を切り上げると、明日に備えて眠ることにした。いつものソファはジャンヌが使っているので俺は作業机に脚を乗せた形で、椅子で寝ることにする。来客用にジャンクヤードからベッドに類するものを持ってきてもいいかもしれない。


――とりあえずは無事に依頼をこなせたようですね。

「ま、これから先、よっぽど変な事にはならないだろ」


 ケイの言葉に俺は小声で応じて、眠りの中へ落ちて行った。



――



 この星は、人類を歓迎している。


 私はそう考えていた。


 なぜなら、原生生物がいる。不完全なテラフォーミングで一応の生活ができている。そしてなにより、移民船「ノア」が完全に機能停止していない。


 出会った人間たちも生きる意思を強く持っていて、バイルという人間も、口調の裏には気遣いと優しさ、その奥には何かの使命感を持って行動しているようだった。


 地球とは違う、二つの月。私はソファから抜け出して、窓枠から差し込むその光へと、ゆっくり歩み寄る。


 朽ちかけたブラインドを揺らすと、その先には地球の月とは違い一回り大きな赤みを帯びた衛星と、その近くに小さな青い衛星が見えた。


『寝れませんか?』


 唐突にラジオのスピーカーから声がした。バイルと共生する原生生物で、確かケイという名前だったか、彼女が私たちと同じ言葉を話すのは不思議で、私は未だに彼女がどういう存在なのか計りかねていた。


「ええ、そもそも寝る必要もありません」


 エルフは人間ではない。人間をベースに作った生体部品である。部品として不都合な睡眠などは生物として不要な形に調整されていた。


『それはよかった。じゃあ私の話し相手ができたんですね』


 スピーカーの声は安堵したように柔らかい声色で、ほほ笑んでいるようにも思えた。どうやら彼女も、地球産の生物と違って寝る必要が無いようだった。


「貴女は――ケイは、人間をどう思っているのですか?」

『私が、ですか?』


 不思議な親近感がそうさせたのか、私はこの星にもともと住んでいた彼女たちにとって、人間がどういう存在なのか、聞いてみたくなった。


『……うーん、私は、ただバイルのことしか考えたことがありません』


 彼女はボコボコと奇妙なノイズを立てた後、少しだけ恥ずかしそうに答えた。


「そうですか……」


 少しだけ残念だったのは、隠す事は出来ないだろう。


 対話できる知性を持った異星の生命体とのコンタクトは、バイルだけの特権だということなのだから。


『あ、でも彼の周囲にある環境は心地よいと思いますよ。なんでしょう……上手く言うことはできませんが、バイルが沢山いたら嬉しいと思いますが、それと同時に彼の代わりは居ないと感じます』


 ケイは言葉を選びつつ、そんなことを話す。あの見た目からは想像できないほど、彼女の情緒は人間に寄っていた。


「それを聞けて、私は嬉しいです」


 原生生物の中にも、我々と同じような思考体系があり、情緒がある。私にはそれがうれしかった。


『あ、そうだ! 折角なら本星の事を教えてくれませんか?』

「ええ、その代わり、この星の事を教えて。どんな生物が居るかを」


 私は彼女に取引を持ち掛けて、日が昇るまで様々な話をした。

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