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端街の生活

 事務所を出て最初に目に入るのは廃材のコンテナを積み上げた住居群と、その遠くにある純白の巨大な壁だった。


 移民船「ノア」の補修にあたり、先行してドックを作り上げなくてはならず、それを住居として転用する形で中央街は成立している。端街との境界はドックの外殻を兼ねた巨大な隔壁で分けられた形になっており、内部では理想的な大気組成と気温に調整されていた。


 その姿を羨ましいと思いつつ、俺はコンテナ住居の隙間を歩く。端街は、全ての住人が「使い捨て」であり、明日の命も保証されていない人間の集まりである。


 中央の管理も行き届かないここは、統治も無く、法も無いが、秩序はある。人を殺せば仇討ちされるし、契約を破れば手痛いしっぺ返しを食らう。法と統治が存在する中央と比べて刑罰は重いが、それはここの住人が「命よりも重いものを持っていない」ということの裏返しだった。


――今日は何を持って行きます?


 馴染みの武装商店で品物を物色していると、ケイが遠足に行く準備をするかのようなテンションで聞いて来る。俺は他人に聞かれない程度の小声で応える。


「いつも通り基本は鹵獲で戦う。チャフと金属カッターだけは持っていくがな」


 そう言って俺はチャフグレネードを三つ、店主に注文する。彼は不愛想だが、ここでの生活が長いというのに金よりも信用に重きを置いている数少ない人間だ。


「今度は何をする気だ? うわ言の(デリリアム)」


 チェーンがかかったショーケースからチャフグレネードを取り出しながら、店主が口を開く。俺を呼ぶときの「うわ言の」というのは、彼なりの愛称で、俺とケイの会話が周囲からどう見られているかの証明だった。


「『ノア』の遺物回収だと、これ以上を聞いたらあんたを殺さなきゃならなくなる」

「ふん、またキナくせえ依頼か」

「そういう事だ」


 俺はケースを取り出して、受け取ったチャフを丁寧に収めていく。丁度三つ、それが長い経験で培った多すぎも無く少なすぎも無いベストな数だった。本来なら電子機器を完全に破壊する特殊兵器——EMPを使いたいところだが、移動用の足や貴重な墜落前の兵器を完全に破壊してしまうのは勿体ない。


「ったく、アシストAIもなしに、最低限の武装だけでよく『便利屋』ができるもんだ」

「これ以上うるさくなっても困るからな。代金は――」

「いつも通り、月末にまとめて請求書を送る」

「助かる」


 俺は改めて店主に礼を言うと、店を後にする。ケイの事は周囲に黙っていた。原生生物と共生する人間――自分がそうだとしても、あまり近づきたい存在ではないのは実感としてわかっている。だから俺は幻聴に悩まされる精神病患者ということで周囲を偽ることにしていた。


「さて、次は酸素缶の補充か」

――マーシャおばさんのところですね


 この星でのテラフォーミングが進んでいないせいもあり、安静にしているだけならまだしも、動き回ったり激しい運動をする場合は、マスクとそのカートリッジである酸素缶が必須となっていた。こちらはいくら予備があったたところで不便になるということは無い。もらえるだけ持って行こう。


 流石に「使い捨て」相手でも水と酸素の供給がないというのは人道的に問題がある。だとか何とかで、酸素缶の配給は定期的に行われており、端街ではそれが通貨にもなっていたりする。今日はその配給日なので、貰えるだけもらった後に、持ち歩きに邪魔な分は事務所に預けて出発するようにしよう。俺はそう考えて少しだけ足を速める。


「あ、バイルのおじちゃん」

「はははクソガキ、次おじちゃんって言ったら容赦しねえって言ったよな?」


 配給の列に並ぶと、小さな子供が話しかけてきた。


 五〇歳を超えた人間が殆どの端街では、子供の存在は貴重である。まず子供を作る適齢期を越えた人間が殆どで、そうではない人間は極端に少ない。その中で十代以下の人間や、女性は更に少ないため、子供ができる機会というものがそもそも少ないのである。


「言っとくが俺はまだ二十四だ。おじちゃんにはまだ早い」

「えーじゃあ何て呼べばいいの?」

「兄ちゃんと呼べ」


 端街の環境は、子供が生き残っていくには苦しい。だが、端街の住人は子供を大切にして、街全体で育てている。


 その理由は誰にも説明できないが、五〇を越えてこんな所に投げ出された人間たちが、せめて後世に何かを残そうとしているのだろう。俺はそう考えていた。


「あらバイルちゃん。元気かしら?」

「ああ、おかげさまでな」


 配給の酸素缶を配るおばちゃんと簡単な話をして、酸素の封入された四角く平べったい缶をいくつか受け取る。これが各々一回分となっていた。


 この中には酸素のほかに吸入式の薬剤が含まれており、これを吸入することで呼吸器系の異常をある程度取り除けるようにもなっている。


「いつの間にかこんなに大きくなっちゃって……」

「もうすぐ年齢追い越しちまうかもな」


 俺がそう茶化すと、おばちゃんは大笑いしてくれた。


 彼女は俺が「使い捨て」になった時、同時期にこの端街へやってきた人だった。いわゆる母親代わりというべきなのだろうか、この最悪な街でも変わらずにそこに居てくれるというのは、とてもありがたい事だった。


「けほっ、けほっ……中央街が早くテラフォーミングを進めてくれるとありがたいんだけどねぇ」

「……そうだな。また来るよ」


 俺はそれだけ言って、配給所を後にする。マーシャおばさんは生まれつき呼吸器が弱く、その関係で酸素缶の配給を手伝うようになっていた。


――バイル。あなたはマーシャおばさんの事を愛しているのですか?

「気持ち悪い事を言うなよ」


 ケイがあまりにも変なことを言い出すので、思わず少し声を張ってしまった。周囲を歩く人々が驚いて俺を見る。店主に言われた「うわ言の」というあだ名はここからきている。


――でも、彼女と話している時、貴方のバイタルはリラックスしているように感じました。

「人間の情緒はそんな単純じゃねえよ」


 これだから原生生物は。俺はぶつぶつと小さく独り言を話すように、ケイと言い合いをしながら道を歩いた。


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