11 馬車の中
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなり挑戦しています。
やっとガルライアの国境です。
明日はアルタイルに入れます。
ゆっくり進んでますが、最後までお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
次の日の朝、フェイトに起こされた。
「おはよう! ……ごめんフェイト、昨日話してる途中に私、寝ちゃったよね?」
「話してたこと、ちゃんと覚えてるか?」
「うん、一応、ちゃんと覚えてる……というか、私、なんだかすごく話過ぎた気がする……」
朝食後、宿を出て馬車に乗り込む。
昨日神殿まで乗った飾りのあるちょっと華奢な馬車とは違って、これは頑丈な感じの黒い箱という感じの馬車だった。
馬も2頭立てで御者も2人。見た目からも強そうな人達だった。護衛も兼ねてるんだな。
馬車に乗り込む。けっこう広くて体格の良いガイルを含めて4人乗っても余裕がある。
私は太刀を履かずアイテムボックスに入れたままにしていた。
いつでも出せるし、馬車の中じゃ邪魔だろうし。
馬車には小さいけれど窓もあり(外から見た時は気が付きにくかったのでわかりにくいよう工夫されてるみたい)、外も見ることができた。
門でガイルがムーラン帝国の手形を見せて街を出た。
「首都からの道なのでしばらくはいい道が続くが、途中からはかなり揺れると思う。とりあえず、いい道のところは休憩を取らずに突っ走って行く予定だ」とガイルが教えてくれる。
窓から外を見るとすごく早い。
わー、これは楽ちんだな!
ガイルがさらに次の予定を話してくれる。
マイネの次の街のこと。
アルタイルに入って、最初の街。ふたつ選択肢がある。アーケスかマリ。
私達はアーケスへ進むことにし、その次はコロンバ。
コロンバからは王都ロレーヌまで2日の距離だが、そこから1日で行けるカンタスという街に行き、そこで他の国の動きを見定めて、ぎりぎりに王都に入れるように調整するとのこと。
カンタスはアルタイル北部の湖がある美しい山の街で、夏にはムーラン帝国の貴族の避暑地として人気があるそうだ。
昼に馬車を降りて外で昼食を食べる。
いくら余裕があるとはいえずっと座りっぱなしは身体が痛いし疲れる。
たくさん身体を伸ばしたりしてから馬車に戻る。
少しすると、馬車がががたがた揺れるようになってきた。
揺れより、時々ガンっ!と跳ねる方が危ない。
「道が悪くなってきた。話すのはもうやめよう」とガイルが言った。
スピードは緩めず走り続けたので、一番体重が軽い私は強く跳ねるたびに身体が持ち上がるような感じになり、着地する時に頭を馬車の壁にぶつけそうになった。
隣に座っていたフェイトに抱きしめられて「こっち」と言われて、膝の上に横向きに抱きかかえられた。
「大丈夫だよ。重いでしょ!」
「抱いている方が俺も身体が揺れない」
「そういうもの?」
「ルティ、舌を噛むといけないからしゃべるな」とガイルに注意され黙る。
フェイトが右手で私の両目を覆うようにした。
「寝ろ」と言われる。
こんな状態で寝られるか! と思ったけれど、目は閉じられてるし、馬車の中は暖かいし、フェイトに抱っこされてるからさらに温かい。
だんだん眠くなってきて、フェイトの肩に頭を預けて寝てしまった。
夕方にはマイネの街の門に着き、馬車のまま街に入った。
馬車はここに1泊し、明日、スーリヤに行く客を乗せ戻る予定なのだという。
「ありがとうございました」
私はお礼を言って馬車を降りた。
マイネの街はスーリヤよりも木でできた建物が増えている感じがした。
この街にもムーラン帝国行きつけの宿屋があるそうでそこに行く。
この後の旅は徒歩での旅で野宿もあるので、たまにはひとり部屋でゆっくり休むようにとガイルが私に個室を取ってくれた。
お金が……と一瞬思ったが、ありがたく個室を使わせてもらうことにした。
確かに、荷物整理や着替え、みんなと同室だと気を遣うんだよね。それは向こうも思っているのかも。
部屋に荷物を置くと、みんなでマイネの街を歩いてみる。
緑が多い。街の外は小麦畑が広がっていたし、街の中にも木が生えているのが目新しい。
今までのガルライア王国の街では低木の植え込みとかが多かった印象だが、この街は背が高い木が街のところどころに立っていて目立っている。
風が吹いたら気持ちよさそうだなと思った。
小麦の産地で、パンや薄く焼いて具を包んで食べる料理が名物だそうだ。
チーズを包んだものが特に美味しかった。
これからの旅に備えてパンとチーズを多めに買って、アイテムボックスへ入れることにする。
部屋に戻り荷物を整理する。
ドーワルトにいたころの服、だいぶぼろいけど、ムーラン帝国の服の下の着替えとしてなら使える。
アイテムボックスに入れておけば邪魔にはならないので、下着、シャツ、ズボン、上着、靴と仕分けしてから入れておく。
サンドワームの数を確認する。
うん、まだ30以上あるな。
あまり一度に買取に出すのは目立ちそうだから、どこかで2匹くらいずつ出せないかガイルに相談してみよう。
せっかくの個室なので宿からお湯を分けてもらって身体を拭くことにする。
フェイトに抱っこしてもらっていたけれど、それでもずっと同じ姿勢だったこともあってか、身体のあちこちが痛い。
身体を拭き終わって、髪の毛も洗えた。
スーリヤの宿で入浴中にからだを冷やさないように、また髪を乾かすのに、風の魔道具と火を組み合わせて使っていたのを思い出し、ウィンドとファイアを組み合わせてすごく弱く使ってみたらうまくいった。
寒い時とか、雨の時とか使えるかもしれん。
着替えもして、気持ちもさっぱりしたので3人の部屋に行ってみる。
3人はやはり疲れた顔をしていた。
そうだよな、すごい揺れてたから。身体を馬車の中で固定するみたいにしてなきゃだったもんな。
ベッドの上に寝転がっていて一番疲れてそうに見えたレイのところに行き「ヒールかけるね」と言って両手を向かい合う手でそれぞれ握る。
レイの身体にヒールを流し込む。
アンジェリカとやってみて、疲労回復のヒールでちょっとコツがつかめたところがある。
ただ送り込むだけでなく、自分にも循環させるのだ。そうすると循環をとてもよく感じることができる。
レイは肩が硬くなってたので、目を閉じてそこに集中。
身体全体にうまく循環しているのが感じられたところでやめる。
次はガイルにもかける。
ガイルはそれほど疲れてない。さすがというべきか。
最後にフェイトのところに行く。
「何で最後?」と言われたので「最後の方がゆっくりできるから」というとフェイトが微笑んだ。
「寝ててもいいよ?」と言ったが、「起きてる」と言われ向かい合って手を握り合う。
フェイトの身体にヒールを流していく。
腕と肩が硬い。私を支えてたからだろう。
集中して硬いところに循環を意識した時、フェイトの方からもヒールのような気が私の中に流れてきてちょっと驚いて目を開けてフェイトを見る。
フェイトがじっとこちらを見つめている。
「フェイトも魔法使えるの?」
「少しなら」
「そういえば探索魔法の使い方教えてくれたもんね」
「あ、あれ、やり方は習ったんだけど、俺はできなかったんだ。
そんな俺の話聞いてすぐにできたルティはすごいよ」
「ムーラン帝国では魔法を教えてもらえるの?」
「ああ、魔導士という魔法使いの先生みたいな職業もある」
「へー」
「ムーランに来てみたくなったろ?」
「そうだね。和平会合の後……、フェイトと一緒に行けたらいいな」
私はまた目を閉じて循環に集中した。
フェイトとヒールを掛け合ったみたいになったためか、私の身体の痛みもなくなった。
「ありがとうフェイト、お互いにヒールかけ合ったみたいだ。私も疲れが取れたよ」
「こちらこそ、明日からまた旅、楽しもうな」
読んで下さりありがとうございます。
次も頑張ります!




