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占い誌

作者: 奇群妖

 S氏は凄腕の占い師だ。

 この界隈で手相を扱っている物であればS氏の名前を知らない物はいないほどだという。

 しかもその占いの的中率はほぼほぼ100パーセントだというのだから、S氏を慕ってやってくる人間が後を絶たないのであった。


 今日もまたコンピューターに診断結果を入力をしていたS氏の元に、男がやって来た。


「やぁ、こんにちは。貴方がS氏ですか?」

「そうですよ。貴方は……初めて見る方ですね」

「えぇ。友人からここの噂を聞きまして……」


 三十代ほどだろうか、利発そうな男がそこには立っていた。


「ここは中々面白い場所ですね。占いをしてくれる場所だと聞いていたのに、まるで病院だ。受付まであった」

「私のこだわりでしてね。私は不安なことがある皆さんを占いを通じて救う訳ですから、占い師と言うよりは医者のような心持でいるのです」

「なるほど。ご立派ですな」

「そう言ってもらえるなら嬉しい限りです。それで本日はどのようなご用件で?」


 S氏が問いかけると、男は鞄から一枚の写真を取り出した。

 写真に写っていたのは手の写真。そこには皮膚のしわから指紋までくっきりと写されていた。


「事情がありまして、その写真の手相の運勢を占って欲しいのです。可能ですか?」

「まぁ……手相があればできますが。本人はどうしても呼べないのですか?」

「えぇ。残念ながら」


 本人が居るのにこしたことは無いのだが。


 けれど、S氏だってそこはプロだ。

 手相さえあればどんな運勢だって占って見せる。


「えぇと、どれどれ……」


 男に手渡された写真をルーペで確認しながらメモに数値を書き留めていく。

 手に対しての生命線の比率、線の本数、その他諸々。

 S氏の場合はさらにそれをコンピューターにかける。こうすることで更に正確な占い結果を出すことができるのだ。

 

「しかし……そうですね、コンピューターが処理している間は暇ですから、せっかくですし貴方の手相でも伺いましょうか。簡単なもので良ければやって差し上げますよ?」

「本当ですか?あー、それじゃあ……今職場で考えていることがあるのですが、今後の商売運だったりとかって……」

「よろしい。では右手をお見せください」


 S氏は男の右手を見て、診断を始めた。

 商売運を見ると言ったって実は色々なことがあるのだが、男の先ほどの口ぶりからして考えていることが成功するか否か、と言うことなのだろう。

 とすれば簡単だ。一分ほど定規を使って長さを測ったりしていたS氏は、自身の占いの結果を男に告げた。


「素晴らしい。とてつもない成功を収めることでしょう。ここまでの商売運を持つ人に出会ったのは久しぶりです」

「そうなのですか?ちなみに以前の人はどのような……」


 S氏は以前来た客の名前を教えてやる。その名に聞き覚えがあったらしい男は目を見開いた。

 実は以前これと同じくらいに運が良かった客は、S氏の占い結果があってから企業を立ち上げたのだ。

 今ではそれが国内でも有数の大企業に成長している。


「とすると、私の計画も完璧だということですか」

「そうなりますな」


 ここでコンピューターが計算を終えたのでS氏が内容を細かく男に説明していく。

 男は特に、恋愛運の項目に関心を抱いたようだった。


「来月頃に……ふむ、海の辺り、同業者との出会いですか」

「えぇ。それも20代でしょうな。相手は右足にバンドを付けているはずなので参考にすると良いでしょう」

「なるほどなるほど。覚えておきましょう」


 そんな風に男は頷き、診断結果を記した紙を持って帰って行った。

 S氏は呟く。


「妙な男だったな。自分のでは無く他人の運勢を知りたいだなんて。恋愛にいちいち首を突っ込んでいたのもよく分からないが……」


 その時丁度次の客が入って来たので、S氏は考えるのをやめた。


***


 それ以降も男は度々S氏の元を訪れた。毎回違う手相の写真を持って来ては、その診断結果を聞いて帰っていくのだ。

 しかも喜びどころが奇妙だったため、いちいちS氏の印象に残り続けた。

 浮気が発覚すると聞いて喜んだかと思えば結婚できると聞いて喜ぶ。

 果ては死相が出ていると聞いても喜んでメモに書き留める始末だ。


 あまりに気になって仕方がないS氏は、とうとう何度目になるかも分からない男の訪問の時に、聞いてみることにした。


「一体なぜ貴方はここまで何度も訪ねてくるのです。自分の運勢ならまだしも、他人の占いをさせておいてそこまで喜ぶなどと訳が分からない。私としては商売なのだから不満は無いが、どうしたって気になる。どうか教えてください」


 男はそんなS氏に少し悩んだ様子を見せたが、諦めたようにため息をつくと言った。


「分かりました。貴方の占いのおかげで成り立っているようなものです。何もかも白状してしまいましょう」

「成り立つ?」

「えぇ。実は私、週刊誌を書いている者なのです」


 男の説明によると今までは芸能人の手を撮ってはここに持って来て、占いを聞いてはスクープの時期を狙っていたとのこと。

 これを考えたついたのは男がS氏の噂を小耳の挟んだ時だという。

 事実かなりの利益を上げているそうだ。 


 いつだったか男の手相を見せてもらった時のことを思いだす。


 占いにしろスクープ記事にしろ、世の中には妙なことを考える人間が多いものだとS氏は思うのだった。

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