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第二話「逃亡劇」後編

「義母上が怪我をしたというのは?ひどいのか?」

「いいえ、娘の方も負傷していたこともあり、深い傷では、、、、。」

「すごいですね、その娘。奥様はどのようなお怪我を?」

「それが、腕を噛まれたようです。急な出来事であったため、その場にいた者達は対応がおくれてしまったそうです。騒いでいるそのすきに逃げ出したかと、、、、」

「義母上は奴隷を好まないからなぁー。その様子だとたいした怪我でもないのに大騒ぎしてそうだな。」

「はい、恐れながら今も、、、。」

「その娘、こちらが早く見つけないと奥様に殺されますね。どうします、ティルス様?」

「なぜ俺に振る。」

「ご心配なのでしょう?」

「そんなんじゃ、、、、!!ただ、あの義母上に勝手されるのが嫌なだけだ!

ああもうっ!!探しに行くぞ!!」

自分の気持ちに整理が付かないままティルス一行は部屋を後にした。


部屋を出ると屋敷中の使用人達が大慌てで少女を探していた。

「奴隷の娘は黒い肌、黒髪、黒目!白い服を着ている!見つけしだい殺せと奥様のご命令だ!なんとしてでも探し出せ!!」

執事長の声が響く。

「これはまずいですね、ティルス様本当にいかがなさいますか?」

「とりあえず、見つけたら俺が行くまで適当な言葉で時間をつくっといてくれ。あとはなんとかする。」

「わかりました、給料上げて下さいね。」

バビュンッ・・・・・・・・・・・。

「さらっと要求してくるなよ!!」

と言った時にはカナルはもういなかった。

「相変わらず金のことになると早いな、、、、、、、、、、。」

「わ、私も探しに行ってまいります!」

「ああ、頼む」

メイドもそう言って探しに行った。

さてどこを探すか。

ティルスは悩んだ。

屋敷内にいるにも関わらず、未だに見つかっていない。

どこか部屋の部屋に隠れていたとしてもすでに見つかって追いかけられていてもおかしくなかった。

「怪我をしているからそう遠くにはいけないはず。なのに見つからない。あと探してないところは、、、、、、。」

ティルスはふいに上を向いた。

脳裏にまた夕日に染まった褐色の少女が思い浮かぶ。

手を取った後、少女に高台に連れて行かれたような、そんな感覚を思い出した。

「上?まさか!」

なぜか、屋根の上にいると感じ、急いで走り出す。

「誰か!最後に見たやつはいないか!?」

「最後に見たのは東棟だそうです!」

「わかった!」

一人の使用人の言葉を信じ、屋敷の東棟に向かう。

窓の開いている部屋がないか、かたっぱしから探す。

すると2階の廊下にある窓がひとつ、開いていた。

ティルスは窓の外を見渡し、上に上がってみる。

ティルスの考えは当たっていた。

ようやく屋根まで登ると屋根の上に探している少女がいた。

見つからないよう身をかがみ、逃げ道を探しているようだった。


少女に気づかれないようそっと屋根に足を付け、近づいてみる。

しかし、屋根の上を歩くなんてことはしたことがなく、すぐにバランスを崩して音を立ててしまう。

カランッ

音に気づき、少女が振り向く。

「!!」

「あっまずい。」

少女はティルスから逃げようとそのまま飛び降りる気でいた。

それを察したティルスはとっさに「待ってくれ!!」と叫ぶ。

少女の動きも止まり、ティルスの方を向く。

「そ、その、、、お前、前にどこかで会わなかったか?」

「は?」

予想外の言葉に少女は思わず声に出してしまう。

どうしてティルスは第一声がそれだったのかって?

さぁ?また墓穴ほったんじゃないか?


「い、いや、勘違いをするなよ!?なんかその、、、お前を見ていると何か思い出しそうで、もやもやしていてだな・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

少女は完全に引いた目で見ていた。

細かく言うと「なにこいつ。きもっ」とろ言わんばかりの目で見ていた。

ティルスも自身の言動に混乱していて、その目が恥ずかしかった。

ごもっともすぎて。

だから迷わず、言いたいことだけを行った.

「とにかく、俺から逃げるな!何もしない!悪いようにはしないから!!」

「・・・・・・・・・・・・、地下牢に閉じ込めておいて何言ってんのあんた。」

少女が口を開いた。

その声は見た目に合わずどこか大人びていた。

「いや、そうだが、、、、。ここにいても死ぬだけだぞ。いいのか?」

「あんたに関係ないでしょ。」

「いや、それはそうだが、、、、。でも死は怖いだろう。」

「私が死んで困るのはあんただけでしょ。私には関係ない。」

「っ・・・・・・・」

「ああでも、その顔の泣きっ面が見れるのなら私には得だな。」

「い、嫌な性格してるなお前。」

「ふんっ」

その時、「見つけたぞ!」と下から声が上がった。

「「!!」」

二人は声のする方へ向く。

下には人が集まっていた。少女をどう捕まえるか言っている者、ティルスの存在に気づいて悲鳴を挙げたりして騒ぐ者。

それは様々であったが、人はどんどん増えていた。

同じく屋根に上ってくる者も出てきた。


「ティルス様!ご無事ですか!?」

「かまうな!手を出すな!」

後ろを向いたとき、別棟の窓からライフルを構える男が見えた。

ティルスは今までの価値観を全て忘れ、ただ己の直感に従って走った。

向かってくるティルスを見た少女は飛び降りようとするが、「動くな!」というティルスの言葉に身体が止まって振り向く。

その一瞬、少女も自分に銃を向ける男の姿が見えた。

だが気付いた直後銃声が響いた。


バンッ!!!


少女はとっさに目をつむる。しかし、何も痛みを感じない。

おそるおそる目を開くとティルスが目の前にいて腕から血が出ていた。


「痛っ!!」

「は?」

少女は目の前で膝をつくティルスの姿に呆然とする。

「ティルス様!!」

「ああもうっうるさい!俺は平気だ!!どいつもこいつもほっとけ!こいつのことは俺が何とかする!義母上にそう伝えとけ!!!」

「し、しかし、、、、、お怪我を、、、。それに、、、」

「いいから、分ったらお前ら散れ!!次勝手に殺そうとしたらリストラさせるからな!!」

「・・・・・・・・・・。」

少女は黙ってティルスを見つめた。

「そういうことだから、俺から逃げるな。命は保証してやる。

まずは屋根から降りろ。」

痛み慣れしていないのか、激痛に耐えているのか、途切れ途切れに言う。


「いや、散ったらダメでしょう。けが人がどうやって降りるんですか。」

カナルがひょこっと後ろから顔を出す。

「うわっ!!お前っ空気読めよ!!」

「まぁまぁ。そういうことだからお嬢さん、ひとまず手当てをしましょう。」

「・・・・・・・・・・」

「もし私の言葉が嘘だったら、そこのかすった程度で苦しんでいる人をお好きにしてかまいませんから。」

「おいこら。お前今何つった?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

少女はしばらく周りを見ると目を閉じ、軽く頷いた。


こうして、少女の逃走劇は幕を閉じた。

カナルの言ったとおり、屋根から降りた後、二人は別々に手当を受けた。

またカナルの計らいで少女は身支度を整えさせ、監視付きではあるが使用人室の空き部屋でその日は過ごすことになった。


ちなみに、これは余談だが、カナルはすべて終わった後、執事長に怒られた。

「もし私の言葉が嘘だったら、そこのかすった程度で苦しんでいる人をお好きにしてかまいませんから。」

という言葉はさすがに他の使用人に聞かれてしまっていたからだ。

しかし、「ティルスの思い通りにいくようにする演技だった」、「すべてはティルスの指示であった」と堂々と嘘の報告をし、ティルスも口裏合わせたので軽い説教だけで済んだのだった。


「今回かばったのは結果が良かった褒美だからな」

「褒美はお金にしてください。」


もはや主人と使用人の会話ではなかった。

ほんとに、カナルって使用人はいい性格しているよなぁ。


次回は少女の名前が判明します。

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