第二話「逃亡劇」前編
こんにちは、錦です。
秋はどこへいったのやら・・・・・・・。
少女を迎えた翌日、貴族街にある奴隷商人の屋敷が全焼したという知らせがティルスの耳にも入ってきた。
焼けた屋敷の中に生存者はおらず、焦げた遺体には銃で一発打たれた跡があった。
ティルスが会った奴隷商人だけは焦げてはいなかったが、見るも無惨な姿で屋敷近くの池に浮いていたそうだ。
お?怖いか?
安心しろ、怖いのは今だけさ。大人になれば平気で受け入れられるようになる。
嘘じゃねえよ。
わかった、わかった、じゃあその気持ち、結構大事だから忘れんなよ。
大人になったら同じこと言ってやるよ。
「会ったその次の日に死ぬってなんだよ。気味が悪いな。」
ティルスの言葉に使用人の一人、カナルが返答をした。
「反貴族派の仕業の可能性もあります。ティルス様、どうかこの間のように勝手に出て行かないで下さい。危険ですので。」
「あーあー、はいはい、分っているよ。あの時は悪かったって。ところで、反貴族派って殲滅されたんじゃないのか?」
「この国の貴族街の壁の向こうは平民街です。そこには貴族街よりも多く人が住んでいますので、また立ち上がったのではないかと。」
「そういえば、お前も平民街の出身だったよな?」
「はい、平民が貴族街で働けるとは我々にとって名誉なこと。おかげさまで家族も食うに困りません。」
「お、おお。そうか、それはよかったな。」
「ところで、ティルス様。あの奴隷の少女のことですが、、、、、、」
カナルが言いかけた時、ドアが思いっきり開いた。
「ティ、ティルス様!大変です。」
一人のメイドが飛び込んでくる。
「こらっ!ノックもなしにいきなり入ってくるな!」
「も、申し訳ありません!」
カナルがメイドを叱る。
彼は、仕事は丁寧にこなすが、面倒臭がり屋だ。しかもその怠惰な部分を上手く隠せる。
ティルスにとっては歳が近いこともあり、使用人というより友人的な感覚であった。
そのため、彼のそういった怠惰な部分を知っていたし、そういった面も気に入っていた。
また、屋敷の中で知っていたのもティルスだけであった。
なので、へぇー、こいつも人に注意とかするのか。仕事熱心だなーっと感心していた。
それくらい、彼がメイドを叱る姿は新鮮で、メイドが飛び込んできたことよりも注目してしまった。
「お前が人を叱るの初めて見た。」
「え?それはまぁ。やるだけやっとかないと後で怒られるの私なので。」
メイドに聞こえないよう小声で話すカナル。
ティルスは前言撤回した。
むしろ褒める前でよかった、こいつはこいつだったと一人で納得していた。
そんなやり取りの中、メイドが呼吸を整え話し出す。
「じ、実は奥様が!」
「義母上が?どうした。」
「奥様が、先日の奴隷の娘を勝手に連れ出してしまい、、、」
「はぁ?なんでっ!!!」
「先の奴隷商人の事件のことでしょう。昨晩から牢屋に奴隷がいることでさえ忌々しいと思っていたらしく、事件の知らせを聞いた今朝方、不吉だ!自分の足下の下にいると思うと気分が悪い!と怒鳴っておりました。
連れ出させようとしている感じだったのですが、もう行動に出たの出すね。」
カナルの話に目が点になるティルスとメイド。
「お前っ!そういうことは早く言えよ!!」
ティルスは胸ぐらをつかむ。
対して使用人は感心顔から変化しなかった。
「言いかけた矢先、彼女が飛び込んできたので。私もこんなに早く行動に出るとは思いませんでした。さすが奥様、行動がお早い。潔癖症だったのですかね。」
「なんで感心しているんだ!あと、潔癖症かどうかは知らん!!」
「あぁ、あの、ティルス様!お、お離しください!」
メイドがおろおろする。
カナルは真面目な顔でティルスの方へ向く。
「ティルス様こそどうなされたのですか?」
「は?」
「奴隷という存在はティルス様達にとって物でしょう?ちょうど良かったではありませんか。扱いに困っていましたし、奥様が処理をして下さるのならば問題無いじゃないですか。」
正論だった。少なくともティルスにとっては。
「っ!!!」
ティルスは何も言えない。
「そんなに感情をむき出しにして。ティルス様こそあの娘に何か感心事がおありで?」
「あっ、、、、、、、、」
ティルスは言葉につまった。
自分でもどうしてこんなに焦っているのか分らなかったからだ。
その時、メイドがおずおずと口を開く。
「あのっ差し出がましいのですが、問題はそこではなく、、、」
「「えっ?」」
ティルスとカナルの声が重なる。
「連れ出した際、その、、、娘が奥様に怪我をさせて、、
そのすきに逃げ出したようでして、、、、、。現在、ゆ、行方不明でございます!!」
「「・・・・・・・・・・・・・・」」
「ち、ちなみに外には?」
カナルがおそるおそる聞く。
「外に出た痕跡はないそうです。まだ屋敷内にいる可能性が高いと、、、、、、守衛が、、、、、、。」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
「「それを早く言え!!」」
二人の気持ちが初めて一致した瞬間であった。