男の子がみんな可愛い女の子に興味あるとは限らないよ
リョウは小学6年生のときにはすでに身長165センチの大人っぽい美少年だったので、学校界隈ではどこにいてもどうしても目立つ存在だった。
5歳から子役をしていたので平日はよく授業が終わると裏門まで迎えに来たリョウの母親の車にそのまま乗り込んでしまい、友達と帰りながらふざけたり夜遅くまで塾で受験勉強をして成績順位や偏差値を気にかける母親への対応を考えたり宿題に追われたりするような生活をしたことがない。
小さいリョウはレッスンで教えられたように、いつも笑顔で誰にでも挨拶し、大人に混じって出番を待ち、決められた間合いを守って自分の子役としての役割を果たして、また、他の指示を待つ。
撮影の時は母親が準備した食べ物と飲み物を口にしながら台詞を覚えたり着替えたりヘアを直してもらったりするのだが、
母親に手を繋がれたり抱っこされているまだ小学校低学年や幼稚園児くらいのちいさな子役たちもいるので10歳頃からリョウは自分を大人のはしくれように思っていた。
仕事は途切れることなく忙しかったが、まだまだ名前もでないような地方自治体制作の教員教育用ドラマや中学受験塾のCM、子供用ドリンクのCM、タレントのイベントに集まる子供のサクラ、ラジオドラマ、ラジオのCM、テレビドラマの台詞のあるエキストラ、などの仕事が次々に入ってくる。
リョウはスケジュールが空いている日は必ずマネージャーからオーディションに行くように言われ、オーディションを受けるとほとんど合格してしまうので終わりのない忙しさだった。
子役の母親としては、リョウの仕事がたくさん増えるほど同じ事務所の他の子役の母親たちとの距離が生まれ、あからさまな嫉妬や意地悪なども出てくるようになるので、
彼女らとゆっくり話す時間はないだろうと誰がみてもわかるほど、もっともっと、と、仕事を掴んでこなして動き続けていると安心だった。
母親は主婦とは違う充実感を味わい、リョウが疲れているかもしれないなどと、考えもしなくなっていった。
リョウは物心ついた頃からいつもいつもイライラしている母親が苦手だったが、信用金庫勤めののんびりした優しい父親は日曜日しか休みがないので土日祝日は撮影かオーディションかレッスンで遅くまで外出しているリョウとはほとんど親子らしく過ごせなかった。
そもそもリョウの整った顔立ちは父親譲りだったので、いつも妻と一人っ子のリョウがいない日曜日を彼が誰かと過ごすようになったのは、仕方がないことでもあった。
リョウの父親は職場の受付の女性と愛し合うようになったが母親は離婚を受け入れず、
相変わらずイライラしながらリョウを仕事やオーディションに遅れることなく連れていっていた。
リョウが中学に上がっても家族の様子は変わりなかったが、リョウの方は名前が出るような仕事がたまに入るようになり、
演じることの楽しさや自分の立ち位置=目立って仕事が多いことを、リョウ自身が客観視できるようになり、
通りいっぺんの間違えない子役から自分らしい演技をする子役へと成長していった。
高校に入学してもリョウが教室で他の生徒と一緒に授業を受けるのは週に2日ほどだったが、
母親は実家に残りリョウだけ東京事務所の寮に入って一人で学校と仕事を両立する生活と向き合うことになった。
リョウは高校に入ってすぐ、ラブストーリー映画で知らない女の子と恋人役をやったのだが、しゃべっても手をつないでも一切ときめかないし可愛いとも思わなくて、
大好きという表情が演じられない苦しみを初めて味わった。
それからというもの、リョウは学校でも仕事でもときめく相手を見つけたくて、女の子のことばかり気にするようになったが綺麗な顔立ちの子はそこらじゅうに居るし、どの子もそれぞれよいところがあって誰ということもない。
女の子の方からは、連絡先を交換しただけですぐに好きだとか他の人を好きにならないでとか、笑っていると思えば突然泣き出したりで、
リョウには意味がわからなくて仕事の邪魔でさえありいかにも面倒くさい。
リョウはとうとう、補講担当のユウコ先生に相談することにした。
「僕は仕事で他の人になるときや仕事がうまく出来てたくさんのスタッフに喜ばれたり誉められたりすると、ものすごく感動してゾクゾクするんです。でも、どれだけ可愛くても女の子のことを好きになるとかキスしたいとかは無いんです、ほんとに全く。演技がカッコいい先輩俳優さんにガンバレって肩に触られるときは爪先までゾクゾク、ドキドキするんだけど。おかしいのかな?」
13歳も年上のユウコにしてみれば、即答だった。