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明治時代の青年猟奇殺人犯役とかは今じゃないんで

リョウのような青年を夫にもつ妻のユウコには当然、心配事がつきない。


自殺に追い込まれる心の孤独を体現する大変な高校生役がリョウの中に入っているまま、

次は裏主役の大役で明治の特殊犯罪者になるのだとか。


そんな仕事を取ってくるマネージャーのスドウもあんまりだが、その気になってやろうとしているリョウもリョウだ。


役者として大きくなるために、本当に、やりたいのだろうか。


リョウがその気になるような事務所の空気をつくられて、いつものように気を遣いながら素直に話を聞いているうちに自分しかできない、やりたい、と思い込んでしまったというところなのではないのだろうか。


一応本当の妻であるユウコにとっては、今の役作りのリョウの心身は高校生としては絞りこみすぎて毎日が心配で、新婚どころではない。


大事なリョウは自殺するシーンも近くメンタルが負のベクトルにはいっている最中で、

今度はひとの命を殺める役となると、また役に入り込んで演じるタイプのリョウは明るさも癒しも受け付けなくなる。


そもそもユウコには父の遺産があるので、5年くらいなら働かなくても2人で暮らしていけるし、もちろん高校生のリョウにも給与がありこのマンションの家賃は事務所の経費のはずなので、

本当にしばらく仕事がなくても生活に困ることはないのだ。


しかし、事務所の経費で都内の広いマンションに住んでいるのだから決まる仕事を断るわけもなく、順調に次々と働くのは他の俳優達からみればかっこよく、羨ましいこととなってしまうのかもしれない。


ユウコにしてみれば、俳優の代わりはいくらでもいる。


リョウは他の若い俳優より子役時代が長く、ずっと周りの大人の言いなりになる業界の慣習が身についているので使われやすいのだろう。


ユウコにしてみれば、

どうせなら年上の女教師に恋する役みたいな、うちで練習しがいがある役の方がよかったりするけれど、

それはそれで相手役の魅力的な美人女優のことが気になる。


リョウは若いので時間はまだまだたくさんあるのだから、

若竹のように延びるのではなくじっくり年輪を巻き続けた大木になって欲しい。


リョウだけでなく事務所や製作者側に納得出来るような理由でキャスティングご破算を目論むならば、期限はここ数日だ。


うちにいるときもリョウは時々悩んでいるカタチを作っているし、死に方をウェブで探している横顔は10キロ体重を落としてゲッソリとしている。


短期間に体重を5%以上落とすと身体のいろいろな部分や組織自体が廃用性変化を起こしてメンタルにも影響を与えてくるようで、リョウは頑張っているので気付かないのだろうがユウコには見た目が随分脆くなっているように思える。


近頃は楽しい話や美しい音楽も受け入れないようにしているほど、真面目に役に没頭しているリョウに、

顔立ちが美しすぎてついつい見とれてしまうほどだ。


ユウコには夫を長い目でみて生命を守るのは自分しかないという自負がある。


マネージャーのスドウはステージママを何年もしてきたリョウの母親に次の仕事の注目度の高さやギャラの話をちらつかせて仕事を受けるための外堀を埋められてしまったので、

ユウコの勝負は厳しい。


次回の猟奇殺人犯の役を仕方なく病気療養のために降りる、という流れにするためには、

検査しても原因が不明のたくさんある疾患を使うしかないので、

ユウコはリョウにわかりやすいよう強いめまいと不眠と食欲不振の兆しがあると毎日リョウに思い込ませた。


実際にリョウには他覚的にはそういった症状がでていたのだが、しつこく気にして関係者達の前で強く心配していたのはユウコだけだった。


さすがに次の仕事は負担の大きいものが続きすぎるということで事務所も非公開の妻の申し出をしぶしぶ認めて諦めてくれ、

別の若い俳優をキャスティング発表会見させてくれた。


すぐに事務所は、2週間後に時代劇の頭脳犯罪者チームの一人でリョウに合う役が決まったので、それまではゆっくり静養しろという。


ようやくリョウは少しずつ体重も増え食事に興味を示すようになってきていたので、

マンションで2人でいる時は何かとハグして夜はふざけながら添い寝したりの、ユウコにとって幸せすぎる一週間ほどで、

リョウのシャープな美しい輪郭が可愛いボッチャリ顎になってきている気がした。


無邪気なリョウには言わないけれど、この顎は何とかしなければ。















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