しみじみハグと添い寝だけの夫婦ってありよね?
リョウは優等生の子役でずっと生きてきたので関わるすべての大人に気を配って、心とは関係なくいつもにこやかな表情を振り撒く習慣がついていたが、
さすがに心が折れそうで逃げ出したいことも多々あった。
子どもらしさというよりは脚本家のイメージする子どもの姿をうまく演じていなければ期待されたとおりの仕事にならなかったので、
リョウは本当の子どもの我が儘さや中途半端さ無責任さがすっかり欠落したまま大人の年齢へと近づいてしまう途中で、
心とからだの両方が壊れかかっていても周りの大人の利益獲得笑顔のために、青い悲鳴を圧し殺しているようだった。
以前なにかの折りに、
離婚したことで自分の子どもが死んでも葬儀にさえ行けなかったとユウコが涙したことがあったので、
リョウは自分の側に、いつなんどきでも第一優先でユウコに居てもらうためには、17歳の今だからこそ入籍を、と強く望んだ。
素直で清らかで真っ直ぐなリョウの気持ちを、驚き戸惑いながらも嬉しく理解したユウコにとって、
守るものも優先したいものも、リョウ以外無くなっていた。
リョウの夢が、
これまでのような組織トップの人間たちが決めた枠組みの中で、違和感があっても求められるままに演技する職業役者ではなく、
自分の望む演技で、自分の心の赴くままに、観てくれる人たちの心を熱く滾らせ強く震わせるような一人のアーティストになることならば、
ユウコは何をおいてもその夢の実現を応援したかったし、
そのためにはリョウの繊細すぎる心とまだまだ未完成な身体をしっかりとサポートしたかった。
ユウコから見ればリョウこそが、
令和現代の、自分を守ることと人より巧く権益や金品をかき集めることに精を出すことで潰し合う、多くの愚かな人々に、
映像作品を通して深い癒しや尖鋭な気付きを与える役割を持って生まれてきた‘特別な存在’のようにも思えた。
リョウには女として惚れているわけではないように思うのだけれど、
恋愛よりもっともっと強い、人としての圧倒的な彼の魅力の開花を身近に感じていたくて、もう少しも側を離れたくなかった。
リョウは大物子役らしくありったけの美形笑顔ダダモレ風に、
簡単にユウコを落としてしまった。
「しみじみハグして、一緒にごはんを食べて、お揃いのパジャマで添い寝するっていう夫婦があってもいいよね?」