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十三話:連邦メイドの襲来

 □■□



 それは、いつも通りの日になるはずだった。


 朝。信乃とシラはギルド協会内の人気の無い隅のテーブルで、魔人の目撃情報が記された地図を眺めながら次の討伐プランを練っていた。


 そんな時、建物の入口から突如それは現れた。


「ばーん☆」


 勢い良く開かれた扉の音とハイテンションな女の声で、その中にいた皆がそちらを見――凍り付く。


「冒険家の皆さーん! 今日もクエストですか? お疲れ様ですー! でも、ちょっとだけでいいので話を聞いて貰えませんかー? 興味なければそのままレッツゴーで構いませんので☆」


 メイドがいた。

 

 見た目的には二十歳前後の美女だ。身長は並の男性くらいに高く、モデルのような抜群のプロポーションの身体を少しゴスロリ風に寄ったメイド服で包み、長い紫色の髪の上にはカチューシャまで付けている。

 瞳は少し紫を帯びた、色の抜けた不思議な色彩をしていたものの、その左目は幾何学的な文様の描かれた黒い眼帯で覆われてしまっている。

 そして何より目に付くのは、背中と頭の左右に二対生えた、悪魔のような黒い翼だった。


 更にその左右から、アサルト・ガンドを持った人物達がぞろぞろと入ってくる。

 しかし人とは言っても、普通の人間では無い。犬や猫の顔立ちでありながらきっちりと二本足で直立しており、そのふさふさの体毛に覆われた身体には迷彩服を着ている。三十人程度出揃った彼らは横一列に綺麗に並び終えるなり、一斉に敬礼のポーズを取る。

 そんな近代軍隊の様相ながらファンタジー要素も色濃く残している連中が、唐突にギルド協会の入口を占領してしまった。


「あん、た……達は……!?」

「お、おいまさか。こいつらって……!」

 

 その付近にいる、腰を抜かしてしまった冒険家達が騒ぎ始める。

 すると、中央のメイド服の女性も敬礼してやはり元気良く笑顔で答えていた。


「まあ! これは紹介が遅れて申し訳ありません。我々は、亜人統一国家――『ヴァーナ連邦』。私は、此度編成された『帝国ビフレスト降下作戦軍』の司令官を務めることになりました、ヨルム中将でございます。以後、お見知り置きを。……あ、この給仕の格好はあくまで副業の為のものですので、どうぞお気になさらずー☆」



 □■□



 それはまさに、数十分前の会話だった。


「はい、アルマ様! 魔人達の最新目撃情報、地図にまとめておきましたよ」


 ギルド協会の受付嬢リナが、人気の無い特別受付カウンターの奥からガルドル大陸の地図を抱えて戻ってくる。


「ああ。いつもすまんな」

「いえいえこのくらい! むしろ人の平和の為に私達が資金を出さなければならない所を、あなた達に出して頂いて……。二か月前のあの出来事といい、あなた達には感謝してもしきれません」

「……家族の安否は、まだ分からないのか?」

「……はい。でも、大丈夫。帝国はミズル王国が降伏した時点で攻撃を止め、生き残った人々を全員捕らえたと聞いています。辛い生活を強いられているのでしょうけど、きっと生きてるって、そして必ず戻ってくるって、私は信じていますから」

 

 一瞬表情に陰りを落としたリナだったが、気丈にもすぐに笑顔に戻っていた。


 彼女は、二か月前まではミズル王国支部の冒険家ギルド協会で働いていた受付嬢だ。しかしアース帝国の侵略を受け、アルヴ王国への避難を余儀なくされた。

 その時、彼女は最後まで避難をせず信乃達に帝国軍の侵略地点を教えてくれた。しかもアルヴ王国支部の受付嬢となった今では、信乃が依頼した魔人達の目撃情報をまとめる仕事をたった一人で買って出てくれた。信乃達の機密保持の為にそちらの方が有難いが、通常の業務も忙しいだろうに、よくやってくれている。

 だから時間も経ち、こうして彼女にある程度の信頼を置くようになったからこそ、あの時ミズル王国の人々を助け出せなかったことを信乃は更に悔やむ。


 一度、すぐにシラと二人でミズル王国へ戻ろうとした。

 だがその時には、既に国境は白く長い大きな壁に閉ざされていた。並の魔法でもびくともしなかったし、どれほどの魔人が蔓延っているかも分からない帝国領の前で、迂闊に大きな魔法を発動するわけにもいかなかった。

 もう信乃達は、完全にミズル王国に行くことが出来なくなってしまっていたのだ。


「……すまなかった。あの時、結局何も出来なかった。俺達は、無力だった」

「アルマ様達のせいではありません!」


 思わず大声を出してしまってハッとなったリナは、すぐに声量を落した。


「……悪いのは、帝国です。だからこそ、こうして魔人達を倒すあなた達のお手伝いが出来て、とても嬉しいんです。この仕事に誇りを持っているし、家族を、ミズル王国を救い出す最善の近道になると私も確信しています。私があなた達を恨むとすれば、それは私の前にあなた達が戻らなくなった時ですよ」

「……そうか。素直に感謝している、ありがとう。お前がこうして頑張ってくれているおかげで、俺達も最善を尽くして戦えているのだからな」

「……っ。も、もう〜! 謝罪にお礼だなんてらしくないですよアルマ様! いつもみたいに『あ、この人なら絶対誰にも負けないな』って思わされるような大胆不敵のぶっきらぼうさんでいてください! ほらほら、またたくさんの魔人目撃情報ありますよ!」

「どんなぶっきらぼうさんだそれ……」


 リナの無理矢理作った明るい空気に乗り、信乃もそれ以上はもう何も言わず彼女の広げた地図を見た。

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