六話:冥界の王
「え、なにそ……ひっ!?」
ポイズン・ホーネットは、咄嗟に後方へ大きく下がっていた。
その直後、目の前の光景が一瞬で変わっていた。
凄まじい雷撃の渦が、ポイズン・ビー達やその魔法を呑み込んで回っている。
まるで神々の裁きを体現しているかのように、それは光と熱、音を撒き散らして、十体以上いた魔人達の形を壊していく。
〝カタストロフ・ボルトストーム
魔法攻撃力:300
威力階級カタストロフ:×32
魔法威力:9600〟
「は……がっ、あ……?」
辛うじてその外側にいたはずのポイズン・ホーネットの身体にも電流が走っていて、地に落ちて尻もちを付いてしまう。
痺れて動けない。
前に突き出していたはずの、ローリング・ガンドが消えている。
雷の嵐が収まると、そこにはもう中心にいた四人以外何も残っていなかった。
生きていたポイズン・ビー達も、死体で転がっていたポイズン・ビー達も、彼らの持っていた魔器でさえも。
その全てを、雷撃は粉々に砕いて、焼却してしまった。
「あ……あ……、え……?」
「……まだ、生きているんだ。急いでいるんだけれど」
目の前に、低い声でそう話す角の女が立っている。
――否。禍々しい雷の杖を地面に付き、目に尋常ではない殺気の光を湛えてこちらを見下ろすそれは、さながら罪人に判決を言い渡す冥界の王とでも言うべき存在だったのだろうか。
「私も、お前達を虐殺している。でも、お前達だってたくさんの罪の無い人を虐殺してきた。私達は、お互い様。……なら、うん、丁度いい。お前にも、同じように苦痛に塗れた死を与えてあげよう」
「ひっ……!」
果たして、彼女は今何と対面しているのだろう?
湧き上がる本能的な恐怖から涙目になり、思わず頭を垂れてしまいそうになる。
それでもようやく動けるようになった身体で何とか飛んで逃げようとするも、もう遅かった。
「だめ、逃がさない。『カタストロフ・ボルトプリズン』」
「ぎゃあああああああああっ!!」
雷撃による、激痛が走る。
ポイズン・ホーネットは、宙に浮いたまま突如現れた雷の檻に閉じ込められていた。
「な、何よこれ……!? 『超絶・毒噴射』……!」
彼女の最大魔法の毒液を噴射するものの、電撃の檻に囚われて一瞬で蒸発してしまう。
〝超絶・毒噴射
魔法攻撃力:145
威力階級ハイエクスプロージョン:×16
魔法威力:2320〟
〝カタストロフ・ボルトプリズン
魔法攻撃力:300
威力階級カタストロフ:×32
属性相性有利:×2
魔法威力:19200〟
「は……!?」
「……無駄。この雷の檻は、お前が息絶えるまで激痛を伴う電流をどんどん強くしながら流し続ける。私達はもう行くけれど、お前は永い罰を受けながら、苦しみ悶えながら、死ぬまでそこで己が罪を反省するといい」
そう言い残し、女は男と共にその場を後にしてしまう。だが、電撃の檻が解除されることは無い。
「あ……! お願い、待って……! アタシが悪かったから、どうか許し……ギャアアアアアアアアアアア!!」
電流が絶えず流れ続ける。今まで感じたこともないような激痛を味わい続ける。意識を失うことすらも許されない。
「ギャアアアアア!! アアアアアアアアアアアアアアアアア!! アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
どんどん強くなっていく痛みを感じながら。自身の身体が崩れていくのを感じながら。生まれてきたことを後悔しながら。いっそ早く殺してくれと思いながら。
ポイズン・ホーネットは、だいぶ長くかかったその死の間際まで叫び続けるしかなかった。
□■□
「……?」
ミルラが目を覚ますと、見知らぬ建物の天井が映っていた。どうやら、どこかの家屋のベッドに寝かされているようだ。
「あ、れ……? 私、毒に侵されて、死んだはずじゃ……?」
「おお! お目覚めになられましたか、冒険家の方!」
男の声のしたほうに首を動かすと、村人らしき人達がこちらを安堵した様子で見つめていた。
「ここは……? あなた達は……?」
「ハナリ村です! 我々も、この村の者です! この子を助けて下さり、そして我々を助けて下さり、ありがとうございます! 本当に……何とお礼を申し上げて良いのか……!」
「うぇぇええん! ありがとう、お姉ちゃんー!!」
ミルラが魔人達から助け出し、しかし毒を受けてしまっていたはずの少年が、元気そうにミルラに泣き付いてくる。
「解毒、したです? 私も、君も。それに、あの魔人の話なら、あなた達も毒に侵されたんじゃ……?」
そう言い、ミルラは村人達に顔を向ける。だが、彼らは困惑した様子を見せるのみだった。
「いえ、我々も毒に侵されて、もうダメだと思っておりました。しかし、次に目を覚ました時は綺麗さっぱり毒が消えて、この通りです。そして、あなた様が魔人達に連れ去られたはずのこの子と共に村の入口に倒れていました。……あなたが、解毒してくれたのではないのですか? では一体、どなたが……」
「……」
ミルラは、とある噂を思い出していた。
――このガルドル大陸には、魔人殺しと呼ばれる存在がいる。それは黒き死神であり、赤銀の悪魔を従え、悪行の過ぎた魔人達の魂を狩って回っている。
『ここで見たこと、俺達のことは全て忘れ、誰にも口外するな』
ミルラはその言葉も踏まえ、彼らにこう返すのだった。
「さあ……? 私にも、分からないのです。だって魔人達を討伐し、村の解毒を瞬時に行うなど、人の所業とは思えないです。だからこれは……そう、『死神』の気まぐれというものではないでしょうか? 『お前達が来るのはまだ早い』って、きっとまとめて突き返されてしまったんだと思うです。何ともまあ、自分勝手でお人好しな死神達がいたものですよね……えへへ」




